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牛丼共鳴4

 昼の学食は、相変わらずの喧騒だった。

 ざわめきの中で、二人の席だけが不思議と静かだった。


「時に山田さん」

 なんでしょう、と返すと視線が合った。

「牛丼に合う飲み物ってなんだと思いますか?」

「コーラとか?」

「急に海渡りましたね」

「お茶?」

「うーん、渋いです」

 

 答えが出ない坂本さんはうーん、と唸りながら割り箸を割った。


 坂本さんが先に牛丼を一口。

 僕はマイトングで紅生姜を小袋から取り出し整理整頓。

 少し遅れて、黒烏龍茶のペットボトルの蓋を開けた。


 そして、紙パックの牛乳の先端を摘む。

 学食に置いてある紙コップに黒烏龍茶と牛乳を半々に邂逅。


「……そういえば、いつも気になってたんですけど」

「これですか?」


 坂本の視線が、牛乳パックと烏龍茶の間を行き来する。


「黒烏龍茶を……牛乳で割るんですか?」

「はい。ちょっと変ですよね」

「……正直、かなり」


 僕は苦笑して、止まった手を動かした。

「よく考えてください。紅茶にミルクでミルクティーです。ならばこれもほぼミルクティーでは?」

 いえ、変人ドリンクです。という音速のツッコミが炸裂した。


 白と黒の液体がゆっくり混ざって、

 薄いグレーのような曖昧な色になる。


「見た目がすでに、未知の領域です」

「でも、味は悪くないですよ。烏龍茶の苦味が牛乳で和らぐんです」


 そう言って、一口飲む。

 口の中に残る微かな苦味と牛乳ならではの甘味。


 家庭の味? みたいに思っていて、この味がないと落ち着かない。


「……一口、どうですか?」

「えっ、これを、ですか?」

「責任は取りますから」


 冗談のつもりだったけど、坂本は一瞬だけ真面目な顔をして、

 「……本当に責任、取るんですよ?」と返した。


 その言葉に、僕は一瞬だけ息を呑んだ。

 彼女の声は冗談半分に聞こえたのに、どこか本気の色が混じっていた。気がする。


「坂本さんのためなら全力で取ります」


「そこまでいうなら、少しだけ……」


 坂本はコップを受け取り、慎重に一口。

 眉を寄せて、少し考えるように目を閉じる。


「……不思議。でも、山田さんが勧めるだけあって全然悪くないです」


 その言い方が、仕草が妙に可愛かった。

 紙コップを唇から離し、人差し指を少し折り、考え込んでいる坂本さん。

 そして、彼女の口元がわずかに緩む。


 その笑顔を見た瞬間、牛丼の味が少しだけ変わった気がした。


 焦げでもない、塩気でもない。

 ただ、心臓の鼓動が一拍だけ強く響いた。

牛丼は200種類ありません。

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