2_最初の間違い
(やった〜!今日はお買い得な食材、いっぱいゲットした)
私は上機嫌で帰り道を歩いていた。両手に紙袋を提げて、鼻歌まで出ちゃうくらい。
親はいないから、全部自分で稼いで生活してる。パン屋の仕事は給料カツカツで毎日大変だけど、節約しながら美味しいものを作るのが最近の楽しみになっていた。
「明日は何作ろうかな……」なんて考えながら下を向いて歩いていたら――
ドンッ!
前から来た人とぶつかってしまった。
「ご、ごめんなさいっ……!」
慌てて顔を上げると、そこにいたのは……まるで絵画から抜け出したみたいな人だった。
肩まで伸びた金髪が陽の光を浴びてキラキラ輝いて、眩しい。端正な男性が、心配そうに私を覗き込んできた。
(……え、綺麗すぎ……)
直視できなくて、思わず顔を背けた。
「僕こそごめん! どこか痛いところはない……?」
その声も優しくて、ドキドキしてしまう。
「だ、大丈夫です……!」
慌ててその場から逃げるように走ってしまった。
……家に着いてから、やっと気づいた。
「あの人、怪我してないかな……? 私がぶつかったせいで……」
反省しながら翌日パン屋に出勤すると――
なんと、その人がお店にやってきた。
「あの……昨日は本当にごめんなさい。怪我、大丈夫でしたか……?」
彼の会計をしながら、おずおずと声をかけた。
「あ! あの時の子! 僕、全然平気だよ。むしろ君の方が、僕固かったから痛かったんじゃない?」
「ふふっ、何それ」
貴公子みたいにキラキラしてるのに、話すとめっちゃ気さくで、思わず笑ってしまう。
「僕、この町に来たばかりでさ。何も分からなくて……よかったら、いろいろ教えてくれない?」
「うん、いいよ!私はシエル」
私の名前を聞いた彼は、ほんの一瞬、目を少し見開いた。
「……シエル、か。かわいい名前だね」
小さく呟いて、にっこり笑う。
「僕はルカ。よろしくね、シエル」
それから一週間。
ルカに誘われて、小さな食堂で一緒に夜ご飯を食べることになった。
お酒も少し飲んで、会話がどんどん弾む。
「お父さんもいないんだ。幼い頃に亡くなったみたいで……お母さんもあまり話してくれなかったから、どんな人だったのかよく知らないの」
自然と家族の話になって、普段は友達にもあまり言わないことを、ルカには全部話してしまった。
ルカは本当に聞き上手で、優しい目でじっと聞いてくれるから、つい心を開いてしまう。
「お母さんが亡くなったのは、私が15の時。病気に気づいたとき、もう手遅れで……恩返しもできなかった」
思い出したら、やっぱり涙がにじんできた。
「シエル……!ごめん、辛いこと思い出させちゃって……」
ルカが慌ててポケットから白いハンカチを出して、そっと差し出してくれた。
「ううん、大丈夫。お酒のせいもあるし……ありがとう。大泣きしているように見えた?」
「…………違う。ジェルの泣いてる顔、誰にも見られたくなくて」
ルカは肘をついて、そっぽを向いてボソッと言う。
よく見たら、耳まで真っ赤になっていた。
「それって……ルカ、私のこと好きってこと?」
冗談のつもりだった。だって、私みたいな普通の子が、ルカみたいな人に好かれるわけないと思ってたから。
なのに――
ルカの顔も、みるみる真っ赤になって。
「まだ……伝えるつもりじゃなかったんだけど……!」
彼は大きく息を吸って、私を真っ直ぐ見つめた。
「僕と、付き合ってください……!」
その瞳が、あまりにも真剣で。
王都から来た商人で、5歳年上。いつまでこの町にいるかもわからない。出会ってまだ1週間なのに、本当に私のことが好きなのかもわからない。
でも――
ルカの必死な顔を見ていたら、胸の奥が熱くなって。
「……うん」
小さく、こくんと頷いた。
「えっ? えっ? ガチで!? やったぁ〜!!」
ルカは子供みたいにはしゃいで、私の手をぎゅっと握った。
「シエル、絶対幸せにするから……!」
年上なのに、こんなに可愛い人、初めて見た。
私も、ルカと一緒にいたい――そう思った。




