第1話 転生
焼け爛れた鉄の匂いが鼻を突く。肌に突き刺さるような熱気と硝煙の混じる空気の中、レオ・カインズは膝をついていた。
周囲には、かつて「仲間」と呼んだ存在たちの骸。
アッシュ、カリナ、ユナ――それぞれの名が、思考の海を彷徨うように浮かんでは消えていく。
機動兵装〈アーマーギア〉は既に戦闘不能。左腕ユニットは爆散し、コクピット内には警報が鳴り続ける。
だがもう修復も、回避も間に合わないことは理解していた。
(終わったんだ。……俺たちは、ここで)
それでも、俺はまだ機体から降りなかった。いや、降りる意味がなかった。
機体の外には敵――人類を選別し、管理するために作られた人工知能〈クロノス〉の無人殺戮兵器が、瓦礫とともに蠢いている。逃げ場など、最初から存在しない。
ふと、通信機の残骸に目をやる。焦げついた金属と、黒く焼けたコード。
その先にいたはずの仲間たちとの声は、もう二度と戻らない。
「……くそ……あんな最期だなんて……」
唇を噛み、俺は震える声で呟いた。悔しさ、無力感、そして――怒り。自分に対して。何もできなかった自分に対して。
――ユナの泣き顔が、脳裏を過った。
彼女は、俺の盾になって死んだ。無残に、何の意味もない形で。
その瞬間、視界の端で、空が揺れた。
白い光。まるで現実を否定するかのように、世界の色が剥がれ落ちていく。
クロノスの超次元兵器――敵の切り札が起動したのだ。時間さえも崩壊させる、それはまさに“終わり”そのものだった。
「……せめて、あと一度だけでもやり直せるなら……!」
俺は叫んだ。誰にも届かぬ声で、ただ叫んだ。
世界が、塗りつぶされる。
意識は焼き切れるように遠のいていき、俺は死んだ。
* * *
──そのはずだった。
「……レオ・カインズ」
耳ではない場所で、その声を聴いた。
真っ暗な虚無の中に浮かぶ意識。身体の輪郭も、時間の流れも、すべてが曖昧だ。だが、確かに何かが存在していると、俺の本能が告げていた。
「……誰だ」
『お前に選択の機会を与える存在だ。呼び名など必要ない。お前の世界では、“神”と呼ぶ者もいる』
レオは眉をひそめた。
『お前は特異点として選ばれた。人類の未来を変える“鍵”だ。死んだ今、その機会を与える。過去に戻り、“異なる世界”でやり直すのだ』
「……やり直す?」
『十年前、お前が軍に入るよりも前。記憶を持ったまま転生する。ただし、一度だけだ。未来を変えられるのは、その一度きり』
沈黙。
俺の中で、さまざまな映像が去来した。仲間たちの最期、自分の叫び、届かなかった想い。
──もう一度、あいつらと出会えるのなら。
「……わかった。やってやるよ。俺が……今度こそ未来を救う」
『よかろう。その覚悟、確かに受け取った』
その言葉に俺の意識が、まばゆい光に包まれていった。