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三角関係

 春香からの誘いで、映画館に来た。観る映画は教えてくれなかったけど、今上映中のラインナップを見るに、恋愛映画だろう。春香はホラーが苦手だし、アニメを観るような話を聞いた事は無い。


「チケット買ってきたよ」


「ありがと。あ、やっぱり恋愛映画」


「前から気になってたの。一人で観るのもなんだし、ミチルと一緒に観ようと思ってさ」


「ふーん。僕、恋愛映画なんて初めてなんだけど、どういう話?」


「それを言ったら面白くないでしょ。飲み物とかも買う?」


「コーヒーだけ買おうかな」


「はい、コーヒー」


「ありがとう……なんで沙耶さんがいるんですか?」


 いつの間にか、僕達の間に沙耶さんがいた。春香が怪訝な顔をしている事から、春香が沙耶さんを呼んだわけじゃなさそうだ。多分、偶然なのだろう。


「アナタは……!」


「私は沙耶。この子と最近知り合った友達よ」


「……ミチル。アナタが呼んだの?」

 

「まさか。朝から一緒にいたから分かると思うけど、僕が誰かと連絡をとってる素振りは無かっただろ?」


「朝から一緒に?」


「そうよ。私とミチルは、昨日から今までずっと一緒だったの。寝る時も、同じベッドで寝たわ」


「あら、奇遇ね。私も一昨日ミチルと寝たわ」


「本ッ当に気が合うわね……! 仲良くなれそう……!」


「そうね。よろしく、ミチル君の幼馴染さん」


 二人はニコニコと笑いながら、固く握手を交わした。やはり同じ女性、しかも歳も近いとなれば、意気投合するのも早いか。

 なにはともあれ、気まずい空気にならなくて良かった。


 会場に入り、指定された席に座った。座席は丁度真ん中辺りで、前後に人がいない。映画館に来ておいて言うのもなんだが、周囲の音や動きに気を取られたくない。そう考えれば、かなり良い席だ。

 ただ一つ、懸念点があるとすれば、両隣にいる沙耶さんと春香が僕の手を掴んでる事だ。両手を握られた状態でどうやってコーヒーを飲めというのだろう。それに今から上映される映画は恋愛映画で、恐怖で不安になるような場面は無いはず。


「ミチル君。喉が乾いたら私の手を強く握ってね。飲ませてあげるから」


「それは私の方にしなさいミチル。私が、アナタに、飲ませてあげる」


 僕は二人の手を同時に強く握った。すると、二人はほぼ同時に僕の口元にストローを近付けてきた。二つのストローを口に含み、二つのコーヒーを同時に味わってみた。コーヒーマシンになった気分になれたが、それ以上の感動は無く、飲みづらさがその感動を大きく上回っている。


 会場の照明が薄まっていき、暗闇に包まれた会場をスクリーンの光が照らし出す。出始めの大音量にはいつも驚かされるが、すぐにその大きさに慣れると、映画に集中出来る準備が整う。


 映画は約二時間の恋愛映画。田舎に帰った少年が大人の女性にひと夏の恋をして、最後はお互い再会を誓って別れる物語。ベタな展開が多く、それ故に予想通りのシーンが続いたが、面白い映画だったと思う。

 エンドロール中に二人の様子をうかがうと、春香は微笑んでいて、沙耶さんは不満げにしていた。


 エンドロールが終わると、会場の照明が点き、観客が続々と会場を出ていく。僕達は他の人が帰った後に席を立ち、会場から出ていった。


「どう? 面白かった?」


「ベタだけど、良かったと思うよ」


「ミチル君は、自分があの映画の主人公だとしたら、最後はどうしてた?」


「帰りますね。学校はあっちですし、あくまでも祖父母の家に遊びに行ったんですよ。あのまま居座ったとしたら、祖父母も、連れてきた両親も困るでしょ。またここに来るって約束もしません。来年は連れてってくれないかもしれないし、小学生が自分一人で行けるはずも無いですし。不確定な事を安易に約束するのは、誠実さに欠けます」


「……なんか、現実的だね」


「まぁ、映画は映画。現実では起こり得ない事が起きるのが、フィクションの醍醐味ですから」


「ミチルは昔からそうだね。キッパリ分けててさ。そんな考えなのに、映画を楽しめてるの?」


「もちろん。現実とフィクションを分けて考えているからこそ楽しめてます……それより、僕の両手はいつ解放されるんですか?」


 映画が終わり、映画館から出たというのに、僕の両手は二人に握られたままだ。別に嫌な訳じゃないが、通り過ぎていく通行人が僕を浮気者を見るような目で見ていく。


「美女二人に手を繋がれて、ミチルも嬉しいでしょ」


「ミチル君。もしかして、恥ずかしいの? 私に手を繋がれて」 


「私と手を繋いで恥ずかしがってるに決まってるじゃない。そうでしょ、ミチル」


「いえ、通行人の邪魔になってないか心配でして。三人横一列に並んでますから」


「「……そっか」」


「特に寄り道が無ければ家に帰りましょう。あ、そうだ。沙耶さんも来ますか? せっかくですし」


「フフ。いいの? お邪魔になって」


「邪魔だなんて。まぁ、何も無い家ですけど、お茶くらいなら出せます」


「それじゃあ、お言葉に甘えて」


「……ミチルが言うなら、別にいいけど……ハァ……」 


 こうして、僕達は家に帰った。出来るだけ通行人の邪魔にならぬよう、二人を僕の方へ寄せて。

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