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四畳半に住んでる神さま


ナギに手を引かれて20分以上歩かされた。


 ナギは楽しそうに、鼻歌交じりにスキップしてハイキング気分。俺は後悔が席巻していた。側から見たら人身売買にでも見られるんじゃないだろうか?ってかされたんだよ俺は。


「着いたよ!」


 連れてこられたのは何十年も前に建てられたようなボロ団地。人の住んでる気配はない。それでも国道が近いせいか車に走る音は絶え間ない。月明かりが照らすそこは、心霊スポットと言われても信じられる。ってかたぶんそう。


もう普通の家庭が夕食を囲んでる時間なのに俺は何をしてるんだろう。


「いい加減休ませてくんない?」


「待たせるわけにはいかないから。ほら動く!」


引きこもってたせいで体力はゴミカスなのに5階まで登らされた。エレベーターつけとけよ。


「シャキッとしろ!」


「急になんだよ!?」


「今から仕事」


 505号室と書かれたドアの前でナギは立ち止まった。流石に扱いが雑すぎない?

 さっきまでルンルンしてやがったくせに、到着するなり急に真剣な顔つきになって、厳しい。

俺もうわかんない。なにもわかんないよ。


「今から会う方には敬意をもって接しな」


ナギが意味不明なことを神妙な顔付きで言う。

さっきまでスキップしてたくせに。


ねぇ、これからなにすんの?


「いい?君がこれから相手するのは神さまだから。あいつは優しいけど、私みたいにアホみたいな態度を真似したらダメだから。」


自覚あったのかよ。


「アタシはいいだもん」


もんってなに?急に態度変えないくれ。

こいつ怖い。


「えー可愛いでしょ?」


 ナギが中腰になって猫のようなポーズをとる。

そのあと馬鹿みたいに口を大きくして笑い出した。


「お前の態度のせいで混乱してんだけど。ってか神さまってなんだよ」


 俺は今なにかしらに取り憑かれてるらしい。それに変な人や人もどきに会った。だからそういが存在がいることも予想できる。けれど場違い過ぎないか?


「今は言うこと聞いてね?君に嘘は言ってない」


「あー!もうわかったよ!そんでなにをすれば??」


「しょうがない奴だねぇ。まずは敬意を持って接しろ。これから君が対峙するのは信仰が薄れ、泣く泣く拠点を移した神だ。忘れされつつある彼に、記憶を思い出させて欲しい」


「俺にどうしろと?それと俺の問題と何が関係あんの?」


「絵を描けばいい。やればわかる。」


俺に拒否権はないのね。


「皆無だ」


「だから思考に返事すんな」


ナギが俺の方を見て、初めてまともに微笑んだ。


「君ならできるよ」


こんな風に誰かに信頼されるのは久しぶりだ。


「行くよ」


 ナギが祝詞のようなものを唱えて扉を開けた。

中は昔のアニメに出てくるような、四畳半の畳が広がる寂れた部屋だった。生活感はなく、廃屋とでも思ってしまう。思ったより普通な見た目。ある一点をのぞいて。


中央に祠がある。


 石造りの丁寧な衣装の見たこともない形の祠。

そこから異様な空気が溢れ出ている。冬のはずなのに、生暖かい。暖房が効いてる感じはない。っていうか音が消えた。道路も近くて、車が通る音が聞こえてたはずなのに、扉を閉めてから無音になった。


ナギの言葉が証明された。

ここに神さまがいるんだ。


「駿河の爺さん、邪魔するよ。」


「久しぶりだな、ソラナギ」


「今はナギって呼んでよね」


「そうだったな。でも未だにその姿には慣れんよ」


 一向に姿は見えないが、声だけは聞こえる。というかわかる。音は聞こえていない。認識だけできてる感じ。その存在に対してナギは親戚とでも話すように会話している。


「今日は助っ人もとい便利道具を連れてきたんだ」


ナギの頭にタライでも落ちればいいのに。


「いたっ」


急にナギが頭を抱えた。喫茶店でのリアクションと明らかにダメージが違う。なんだ?


「おまえのその態度も相変わらずだな。小僧、強めにやってやったぞ。これは儂が勝手にやったことだから代償はいらん」


なんか怖いこと言ってたけど、とりあえずナイス神さま!


「あんた、、、ふふ。いいねこういうのも」


ナギが頭を抱えて悶えつつ、暗い笑みを浮かべてた。こいつマジで怖い。ってかなにしたの?


「勝手に願いを叶えただけだ」


この人も思考に返事するタイプか。下手なこと考えたらやばいな。


「だからちゃんと敬意を持ちなさい!」


ナギがジト目でこちらを睨む。タライは良かったのが尚更わからん。ってかムカつくなこいつ。

それでも癪だが、一理ある。対峙しているのは神さまだ。必要とされてここに来ている。


「あの、俺なにをすればいいんでしょうか?」


「とりあえず千葉は話聞いてて。わかるから」


「は?」


こいつと話すのもうやだ。


「ああ、そうか。この子が、、」


視線を感じる。でもこれは敵意じゃない。

どちらかというと、、、


「逸材なんだよ〜友達がくれたの!」


やっぱ売られたのか。ってか今更だけど、俺の所有権は俺にあるべきじゃないのか?


「小僧、苦労するだろうな。でも悪いことにはならないから安心しなさい。君のそれもナギに任せれば大丈夫だから」


「あー、はい。が、頑張ります」


緊張感はあるが。威圧的ではない。なんとなく信じられる気がする。

でも苦労するのは確定なのね、、、


「いい子だな」


「褒めていいよ?」


なぜかナギが自慢気だ。俺はナギの道具じゃないんだが。


「よし!ナギ、話を聞かせておくれ。そして小僧!期待しているぞ」


見えないけれど、たぶん笑っている気がする。

地名の駿河とは一切関係ございません

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