表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
3/9

たぶん人間じゃない



 窓から見える景色がだいぶ鮮やかになってきた。濃い橙にほのかに紫が混じり出す。


俺は冷めたコーヒーを眺めながら状況を整理した。


 悪夢に悩まされて、なにかしらの疾患を疑って精神科医に行った。結果、精神科医に売られた。


鬼海(きかい) (しょう)先生、こいつが諸悪の根源で全ての元凶。環境問題もきっとこいつのせいだ。ほとんど説明がないままとある喫茶店へたらい回しにされた。


 翌日、言われたまま行けば一時間以上待たされた上、変な女に気に入られた。


唯一の救いは喫茶店の店主の(さかき) (あき)さん。怒ったら怖そうだけど、穏やかでまさに紳士って感じ。尊敬できる。しかも常識人っぽくて、あの女の手綱をちゃんと握ってくれてる。この人がいなかったら俺はそのまま帰ってた。そして死んでたらしい。


そんなことを俺に言い放った厄介な女

名前はソラナギ。ナギって呼ぶと喜ぶんだと。

口調と人称が安定しない。話が通じない。胡散臭い。嫌な三拍子が揃った人間の言葉を話す災害。俺はこいつに買われたらしい。未だになにをさせられるかわかんない上に、嫌な予感しかしない。


 この女、っていうか人?なんかわからん。

榊さんはまだ普通の人ではないんだなっていうか、すごい力持ってる人だろうなって雰囲気。

でもコイツは違う。知らない概念に出会ったような変な感じがした。見た目は、銀髪を除けばズボラな女の形をしている。深夜のコンビニで缶ビール買ってそう。


「君、いまだいぶ失礼なこと考えてるよな?あと気づいてるみたいだね〜まだ教えないよ!」


「だからなんでわかるんですか?ってか早く俺に何が起こってる説明してください。その酒結構かかってるんですから」


鬼海先生に言われて持ってきた酒をナギは頬擦りしながらにやけている。それが俺の代金らしい。待って、安くない!?


「ごめんね千葉くん。ナギは、こう、、アレなんです。」


「榊さんは悪くないですよ。むしろ榊さんがいてくれて助かってます。というか榊さんはわからないんですか?」


「うーん、、」


榊さんはナギを横目で伺った。ナギは卑らしい笑みを浮かべて頷いた。


「察してはおられるかと思いますが、憑かれてますね。それでなんですが、その存在がだいぶタチが悪くて、、、君が生きてるのが奇跡的なんですよね。だからナギにしか解決できないというか。

そして、その代わりに僕らにやってる仕事に協力して欲しいんですよね」


「そういうことです!アキちゃんさすがっす!さぁ!千葉!ウチに縋るがいい!」


とりあえず相当やばいことはわかった。けれどコイツに頼るのはなぁ。


「千葉詩生。24歳無職現在彼女なし。剣道の有段者。工学系の学校行ってたくせに勉強そっちのけでアーティストをやっていたんだろ。でも普通に就職して鬱になって退職。まぁお前に社会人は無理だな。あと覚醒しつつあるね?自覚ないだろう?直感がいいくらいに思ってそうね。ラノベ主人公なみに要素てんこ盛りだな」


「うるさい!なんでそんなことまで知ってんだよ!?先生にも言ってないぞ。ってかあんたにそんなん言われる義理ねぇよ!自分でもんなことわかってんだよ、、、」


思わずタメ口で飛び出た。ってかこいつに気を遣うのは無理だ。限界。


「全部中途半端で終わってる。でもだからこそ面白い。お前みたい人間そういないヨ。ひとつを極めたやつはすげぇ。けど君みたいにいろんな経験をして、それなり本気で取り組んでたんだろ?そういうやつは味が複雑で上質なんだよ。」


「なんなんだよお前!それにさっきの覚醒とかなんとか、、知らないぞ?」


「まぁ置いておけ。都合がいいんだ。それよりも悪夢のこと教えてちょうだい?アッキー!コーヒーちょうだい!」


 見られたくない部分まで見られて、訳知り顔で好き勝手言われていい気がしない。しかも口調が安定しないのが地味に鼻につく。よくわからないことを言うし。確定した。俺はこいつが嫌いだ。人の悩みを肴のように聞こうとすんじゃねぇ。


「悪夢っていうか、夢かもわからないんだ。寝起きによく俺に殺意を持ったなにかに襲われたよ。直前までは金縛りみたいなんだけど、掴まれた瞬間に動けるようになるんだ。条件反射みたいに俺もやり返すんだけど、押し倒したり腕の骨を折ったり首を絞めたり、、それでもあいつ笑顔を向けてきてどうすればいいかもうわかんねぇよ!」


「千葉くん、意外とやりますね」


榊さんが目を丸くして、ナギは大笑いしていた。


「千葉!アンタ最高を更新し続けるねぇ〜聞いたことないよそんなん!思った以上に使えるな」


「そうですね。彼なら特にあまりサポートも入らなそうですね」


「なんの話?」


俺が知らない話を勝手に進めんなよ、、

早く教えて?俺どうなるの?


「君、絵が描けるんでしょ?」


「あ、そうだけど、、」


「まぁそういう仕事」


「はぁ?」


もっと詳しく説明しやがれや。

このぶっ壊れAI女。

最終学歴は幼稚園の中退だろ。


「幼稚園は知ってるぞ?」


「当たり前のように思考の返事すんな」


「千葉くんだいぶナギに慣れてきたみたいですね。さっそく行ってきては?」


「榊さん!?」


「説明が難しいですし、実際に体験した方が早いんですよ。あと千葉くんの為でもありますし」


「千葉ちゃん、これ紙と画用紙入ってるから。行きましょう。行ってまいりましょう」


「私はここで留守番してますね」


「え?は?」


ナギがカバンを俺に持たせて、手を引っ張り強引に連れ出された。


うん、流されたな。

俺が流されやすい性格だからと言ってここまで流暢に巻き込まれる体験は稀なんじゃない?

感情が置いてけぼり。

唯一の救いの榊さんにも見放されたよ。


千葉は典型的なダメ人間です。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ