精神科医に専門外と言われた。
鬱になって、休職。
そのまま復職できずにダラダラと無職になった。
家で漫画や小説を読み漁るばかりで時間は無為に過ぎていった。
もともとはアーティストになりたかった。
けれども今は停滞中。
なにか起こればなんて期待をしてたら、最悪な形で応えられた。
よく嫌な夢を見る。夢どうかもわからないが。
一人暮らしの二階建てのアパートに、なにかいる。寝起きに足音が聞こえて、金縛。明らかな殺気を向けてくるやつに首を絞めかけられて取っ組み合い。なんとか押し返したと思えば目を覚ます。声も聞こえたし、触られたこともある。この前なんとか指の骨を折ってやった。そしたら笑ったんだよ。もうダメだと思った。
どうにもならないと思って、行きつけの精神科医に相談をしたら、開口一番にこう言われた。
「ごめん。君のそれ専門外だ」
「まだなんも言ってないんですけど」
頼むからあんたの専門であってくれよ。。。
俺の心の嘆きも言葉も気にせず、先生はそのまま話を進めた。
「明日ここ行ってね」
メモを一筆したため俺に渡してきた。
「実は僕、見えはするんだけどねー正直手に負えない。ってかそんな力ないし。だから僕の友達を頼るといいよ。たしか君って今は惰眠を貪るだけでしょ?」
なんか無責任な上に失礼なこと言われた。
「そもそも治療中で就業不可能じゃないんですか?」
先生は苦笑しながらおかしなことを言った。
「ちょうど治療にもいいんだよ。いろいろと。じゃあいつもの薬出しとくから。そこ行ってきてね」
俺のことをなんだと思ってるんだろうこの医者は。不安と疑問しかない。
翌日、夕方
俺は今、喫茶店にいる。
メモにはこの時間にここにいれば会える、らしい。ちなみに好きな酒を持っていけって変なことこと言いやがる。
店内は、昭和で時間止まってるような雰囲気で、壁の模様はシミが作ってる。ありがたいことに室内でタバコが吸えて、コーヒーが美味い。ただ、もう五本目を吸い終えてケーキまで頼んだよ。待ちくたびれた。
「おっせぇな」
声が漏れた。
「誰かお待ちなんですか?」
壮年の店主が声をかけてきた。いかにもな「マスター」って雰囲気だ。髭が似合う。
「紹介でここで待つように言われたんですよね。それなのに全然来ないもんで」
「もしかしてナギですか?」
「たぶん?鬼海先生の紹介です」
「あぁ!だったらナギですね。あいつ何してるんだ、、」
「申し訳ありません。呼んできます」
一瞬だけ堅気じゃない顔見せたけど、優しそうな人だったな。ってか今になって名前知るとかどうなってんだよ。あの人、小指を箪笥の角にぶつければいいのに。
なんて考えてた店主は消えていた。音がしなかったぞ。いつのまに移動したんだ。
ちょうどその時、上から騒がしい音がした。女の喚き声とおそらく店主の怒号が聞こえて、ドタバタと何度か物が落ちた音がした。少しすると足音とともに件の人物が降りてきた。
おそらく地毛のような銀髪で肩にかからくらいの長さ。白のタンクトップにボロボロのジーンズのショートパンツに紅色の大きいカーディガンを羽織っていた。目は少し吊り目で猫みたいな顔をしている。欠伸をしながら寝癖が遊んでる頭をボリボリかきながら、のんびり話だした。
「あー、お前か。」
じろじろとこっちを見てくる前に、まず謝れよこいつ。
「謝ることが先だろう」
あっ店主さんが言ってくれた。俺の中で好感度上がってきた。
「すまんすまん!昨日ひさびさに鬼海のやつと電話したもんだから、つい酒が進んでね〜」
俺は心の中で先生にボディーブローを喰らわせて、この女にはパイを投げつけた。
「お前、、最高だなー!鬼海はまだしも、アタシにパイ投げとか流石だわ!」
女は豪快に笑いながら、まるで体験したかのように言った。口にすら出さずに無表情でいたのに、思考を見透かされた。なんだコイツ?
「ごめんワザとじゃないよ。我はそういうもんだと思ってくれればよい。多少は君のせいでもあるけどね。」
何を言いだすんだ。しかも口調が安定してないし、怪物が人間のフリしてるみたいだ。
「それで、、ナギさん?帰っていいですか?」
「鬼海から好きにしていいって言われてるから無理。ちなみに帰ったら死ぬぞ?」
は?
「こらナギ!ちゃんと説明しろ!
申し訳ありません、、えっと、、」
「そいつの名前は千葉だぞ」
「千葉さま。大変ご迷惑をおかけします。
今更ですが、私は榊秋と申します。こちらの喪女はソラナギと言います。ナギと呼ばれると喜びます。基本的に性格が悪いのですが根はいい子なのでどうかご容赦ください。」
「おいアキ!私は猫か何かなんですか?失礼にも程がある。まぁ、悪くないが」
この人たち絶対やばいよ。でも榊さんは少し信用できる気がする。
「榊さん!助けてください!」
「おい!お前は俺のものだぞ?」
「ナギさんせめて一人称だけでも統一してください。話はそれから数十年後で、、」
「あっはっはっは!アキ!こいついい!いいぞ気に入った!」
「ナギ、ちゃんと説明を。夕飯なしでいいな?」
榊さんが急に怖くなった。もしかして堅気じゃない?
「じゃあまず、、千葉!我に酒を供えよ。話はそれから、だね!」
「だから人称を、、、」
諦めつつも酒を差し出した。
これが俺が最悪に巻き込まれた経緯である。
まじで意味わからん。
ナギはノリで口調が変わります。それで、相手が困惑しているのを楽しんでいる困った性格です。