ルームメイトだった貴女は、正妃になって私を投獄した
「今日からよろしくね」
微笑みながら白い手を差し出す、この美しい公爵令嬢が、私のルームメイトらしい。
貴族の令嬢が通う全寮制の女学校。何故特別室ではなく、相部屋に彼女が居るのか。何かの間違いではないかと内心首を傾げつつも、遠慮がちにその手を握る。
しがない辺境の子爵令嬢の私でも知っている彼女……アナ嬢は、王太子妃候補と言われている方だ。身分はもちろん、何よりその美貌に、王太子殿下が夢中になっているとか。
「お友達と、普通の学生生活を送りたかったの」
その言葉通り、彼女は特別扱いされることを嫌がった。分け隔てない朗らかな彼女に、最初は萎縮していた私も、身分の壁を感じなくなっていく。
「友人どころか、まるで姉妹が出来たみたい」
そんな風に言ってくれる彼女と、親友にならない訳がない。
共に寝起きし、学ぶ日々の中で、特に楽しかったのが夜のお喋りだ。アナがくれる外国の珍しいお菓子を食べながら、消灯時間ギリギリまで、他愛ない話で笑い合う。悩んだり躓いた時も、子守唄みたいに優しいアナの声と、甘いお砂糖の星が慰めてくれた。
三年間は瞬く間に過ぎ、永遠に来なければいいのにと願っていた卒業の日を迎えてしまった。
「必ず手紙を書くわ。遠く離れても、私達は親友よ」
泣きながら何度もそう言い、抱き締め合う。
愛する親友の温もりと青春を、胸の奥の大切な場所へしまった。
◇
月明かりの差す、冷たい牢の床にひれ伏す私。
顔を上げれば、かつての親友が哀れみの目で私を見下ろしていた。
楽しいお喋りはもうない。
こうして向かい合うのは、これが最後なのに。
あれから十年。私達の関係はすっかり変わってしまった。
公務先で王太子に見初められ、正妃になった彼女。最後まで反対していた大臣達は、私を側妃にすることで渋々納得した。
姫ばかり授かる哀れな正妃に対し、王子を一人生んだ側妃の私。次第に辛く当たられたけれど、気にしなかった。歪んだ道は、自然と元に戻るものねと。
七歳になった我が王子が立太子にという時、運悪く彼女が妊娠し保留になった。
生まれてしまったのは……王子。
希望を失った私は、小さな命に毒を盛ったが、結局正しい道には戻せなかった。
「ルームメイトになった初日に、身分の違いを知らしめておくんだった。そうすれば……」
ニコラは微笑み、後悔する私の掌に懐かしいお菓子を乗せる。
ふふ……
苦痛に身を横たえる。
ほろ苦い毒の星に導かれ、私は大切な場所へと還っていった。
ありがとうございました。