第5話
第5話です。のんびり更新していきます。
結婚式当日。私はアルフレドとアルハードが一番褒めてくれたドレスを身に纏った。エンパイアドレスと言うのだろうか、体を締め付けない為、動きやすい。私がコルセットが苦手だといつ気付いたのだろう。
結婚式の前に、世話を見てくれていた神官が駆け付けてくれた。彼女に誓いをお願いしたいところだが、参列してくれるだけでとても有り難かった。
「エドナ様…本当にお美しいです。よかった…幸せなのですね、表情でわかりました。本当によかった……」
彼女は私の姿を見て涙を流していた。同情からくる涙ではないと私にもわかる。手を取れば、彼女の少しかさついた手が私の手を包む。
「こんなに喜んでくださるとは思いませんでした……私は幸せですよ、ちゃんと。だから安心してくださいね。」
「ええ…ええ…!」
今度彼女にハンドクリームを贈ろう。私の祈り付きで。彼女と別れた後、アルフレドがやや固い表情で扉の前に立っていた。彼も緊張するのだと、思わず吹き出してしまった。
「何か変でしょうか?騎士服ですが……」
「いいえ、とても素敵です。かっこいいです。」
「そうですか…」
彼の目線が少し下を向く。照れ隠しにしてはわかりやすい。私の言葉でこんな風に表情を変える彼を見られるとは思わなかった。彼の腕に手を添える。前回は彼の顔を盗み見ることしかできなかった。今回はしっかりと目に焼き付けておこう。彼の美しい赤い騎士服を、緊張で眉間にしわを寄せている表情を。
今日が初夜になるが彼のことだ、手は出さないだろう。肌磨きもそこそこに私はベッドに腰掛けた。途中まで読んでいた神官達からの手紙を一枚一枚目を通した。ふと、ノック音が響く。メイドだろうか。
「どうぞ。」
振り向きもせず、返事をした。いつまでも用件を言わないので、何用かと顔を向ける。そこにいたのはアルフレドだった。
「アルフレド様…?どうされたのですか?」
「どう…いや、そうですね…それはそうだ……」
質問に答えず、立ち尽くす彼。前回はこんなことなかった。まさか、本当に夫婦の務めを果たそうとしているのだろうか。いや、彼に限ってそれはない。
「アルフレド様。よければお掛けください。」
いつも執務で忙しい彼。マッサージでもしたらよく眠れるだろう。これでも神官達のマッサージをしたこともある。施術中に寝る人もいた。恐る恐る隣に座った彼の肩に触れると思ったより凝っている。
「エドナ…?何を……」
「アルフレド様、横になってください。」
彼は置き物のように動かなくなってしまった。私が倒そうとすると大人しく倒れた。仰向けは困るのだが、腕から始めるか。手を取り、腕を揉むとアルフレドは予想外と言ったような、拍子抜けした顔をしている。
「マッサージ…ですか?」
「はい。いつもお疲れでしょうから、今日くらいはゆっくりしてください。私、神官達の間で有名になるくらい上手いのですよ。」
「あぁ、そう、ですよね。ありがとうございます。貴方も疲れているでしょうに……」
「いいえ、ちっとも疲れておりませんよ。やっと貴方と家族になれたのですから、これほど喜ばしい日はありません。ふふ、少し浮かれているのかもしれませんね。」
大好きな人と家族になれることがこんなにも心を満たすとは知らなかった。前回は本当に家族ではなかったのだと自覚する。温かい食事に、優しい夫と息子、素敵な部屋。充分だ。
「私も、浮かれていますよ……今も。」
彼の手が私の髪に触れる。アルフレドと目が合う。薄明かりに照らされた彼の表情は柔らかく、しかし、私が見たことがないほど真剣な眼差しだった。射貫かれたような感覚。彼はひょっとして、私を本当に妻として。
「アルフレド様……」
「…………………。」
次に顔を見た時、彼は眠っていた。私は一世一代のチャンスを逃したのではないだろうか。大事な時にマッサージなんてするものじゃない。良い教訓になった。