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第4話

お久しぶりです。第4話です。再びエドナの視点に戻ります。

 自身の耳を疑った。私とエルピン卿が結婚するなど、これでは前回と同じではないか。また、彼に愛されない日々が続くのか。神官がふらつく私を支えた。


「エドナ様!お気を確かに……エルピン侯爵は人柄も良く、穏やかな方です。世間一般の幸せと言うのは手に入らないかもしれませんが、きっと幸せにしてくださいます。」


「私が思うのは、そんな事ではありません。私のような若輩者の、力も無い者を妻に迎えるエルピン卿のお気持ちを考えると、とても辛いのです。」


 神官は黙っていた。私は神子として神殿に来た時点で、実家との縁は切れている。影響力はなくなっているのだ。結婚とは家の繋がりを持ち、家の発展の為に行われる。私では何も、何も与えられないのだ。更に気持ちを暗くしたのは、彼との結婚を喜んでいる自分がいた事だった。彼は誠実だから、決して浮気をしない。私だけが彼の隣に立つことができる。それを喜んでいる、口角を上げている自分が嫌になる。


 その日はすぐに来た。表情の暗い神官達が私の荷物を持った。部屋から、片手で数えられる程の荷物が出された。


「申し訳ありません…エドナ様…」


「構いません。貴方方に罪はありませんから。どうか貴方方に祝福があらんことを。」


 馬車に揺られ、道を曲がるまで、いつまでも神官達の声が聞こえていた。優しい神官達。閉じ込められた私の要望を何でも聞くと、奮闘してくれていた。彼らの人生に祝福を。

 それから、アルフレドを想った。これから私は、何もするなと言われるのだろう。下手したら、彼が亡くなった後、息子のアルハードと結婚することになるかもしれない。視界が揺れ、ひざ掛けが濡れた。


「どうか、どうか、アルフレドと私の先に幸多からんことを…」


 エルピン邸に着くと、従者達に迎えられた。エントランスに入れば、私の好きなスイートピーの花が添えられていた。


「素敵…」


「エドナ殿、ようこそお越しくださいました。私はアルハード・エルピンと申します。」


 目の前にアルハードが現れた。記憶で見た時よりもずっと元気そうだった。若かりし頃のアルフレドとよく似ている。思わず見惚れてしまうほどだった。きっとアルフレドにも、こんな時があったのだろう。そんなことを想った。


「エドナと申します。不束者ではございますが、エルピン卿とエルピン子息の為、誠心誠意、努めます。」


 思わず騎士の礼をしてしまった。慌てて貴族の礼をしたが、失礼なことをしてしまった。頭上から楽しそうな声が聞こえる。


「ふふ、骨の髄まで騎士であられるようだ。よろしくお願いいたします、エドナ殿。私のことは弟だと思ってくだされば。」


「恐れ入ります……」


「………父上、いつまで隠れているおつもりですか?貴方の花嫁なのですよ。」


 柱の陰に隠れてこちらを見ていたようだ。人が多くて気配に気付かなかった。申し訳なさそうに出てきた彼は、記憶の彼よりも若く見えた。髪も服も綺麗に整えられている。歓迎されているのだろうか。


「お久しぶりでございます。エドナと申します。またお会いできて、また、こうして迎えていただきありがとうございます。」


「挨拶が遅れて申し訳ありません。あらためて、アルフレド・エルピンと申します。これからよろしくお願いいたします。」


 お優しい笑顔。過去に戻ってよかった。こんなにも温かく迎えてもらえるのだから。愛されなくても家族にはなれるかもしれない。これから彼らを全力で支えよう。


 それから一ヶ月、結婚式までの準備をしつつ、アルフレド達とお茶をしたりと穏やかに時が流れていた。彼らは良好な親子関係を結んでいる。何かあっても、彼らなら乗り越えられると確信した。私にも娘や姉のように優しく接してくれる。前の人生が嘘のようだった。

 それと同時に何もできない自分を引き取ってくれたのは何故なのか、疑問が浮かんだ。恩義で迎えるにしても、私のしたことなど些末なこと。それだけではないように思えた。アルフレドが私に剣技を教えてくれるのも、何かあるのだろうか。稽古の休憩中、彼に尋ねた。


「エルピン卿、なぜ私を、家族に迎えてくださったのですか?もし私を騎士にするのであれば、弟子に取ると言えば、それだけで国王陛下と教皇は私を明け渡すでしょう?」


「……貴方は自身の価値を見誤っていらっしゃる。貴方は騎士の間だけでなく、戦争にやむを得ず参加した平民や傭兵、看護師達からとても評価が高いのですよ。女神のようだと、そう言われておりましたから。」


 女神。そこまで言われることをした覚えはない。神子として当たり前の事をしただけで、そこまで感謝されるとは。私のやったことも無駄ではなかったのだと、温かいものが胸を包んだ。


「外の神子が現れ、貴方を王族の妻にしようとした国王陛下と教皇を見て、私は……」


 エルピン卿と目が合う。こんなにも真っ直ぐ、彼と目を合わせることはなかった。彼の柔らかな森のような瞳を、見つめる。


「私は、貴方を、養子に迎えようと決意しました。」


「…それでは、国王陛下はエルピン子息と結婚させよと仰られたのでは?」


 アルフレドは頷いた。あの国王と教皇が考えることなど容易だ。それで生まれた子も神子になれば安泰だとでも考えたのだろう。浅はかな考えだ。


「……子息の為、貴方が犠牲になったのですね。申し訳ありません……」


「そんな!謝らないでください。貴方は私の恩人で、感謝してもしきれません。私は、貴方ならと…」


「エルピン卿…」


「…それから、エドナ殿。いや、エドナ。よければ…私のことをアルフレドと呼んではいただけないでしょうか。これからは、その、家族になるのだから。」


 家族。夫婦ではなくても、彼と家族に。こんなに幸福なことはないだろう。


「ええ。アルフレド様。共に生きましょう、命尽きるまで。なんせ夫婦ですから。」


「はは…そう、ですね。」


 少し頬を染めた彼の熱が移るように、頬が熱くなる。ふざけただけなのに、そんなに恥ずかしがられると期待してしまう。彼は、私をそんな目で見るわけがないのに。

前後編予定でしたが、少し長くなってしまったので、話数で管理いたします。

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