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第3話

アルフレドの視点となります!

 彼は、静かに絶望へと落ちていた。彼の名はアルフレド・エルピン。騎士として名高い彼には妻、ミモザがいた。彼女は賢く、明るく、そして優しい女性だった。しかし彼女は、息子であるアルハードを産んだ後、すぐに亡くなってしまった。彼女とこれから生きるだと思っていた彼は、酷くショックを受けた。たった二年の夫婦生活だった。遺されたのはアルハードと悲しみだけ。

 三十歳の彼は、夜に酒を飲まなくては眠れなくなっていた。息子は五歳。後妻を娶るように分家は言い、娘達を紹介していた。うんざりしていた彼は、ある話を耳にする。それはエドナ・グラビールという剣術の天才の話だった。既に兄達を超え、剣術の師範からも剣を奪う程だと。彼は彼女に会うことにした。スカウトのつもりであった。

 彼女は随分と大人びた子供だった。彼の何気なく言った本音にも、彼女は冷静に答えた。それでいて、声はとても優しく、目の前にいるのは成熟したレディかと、彼は心の中で感嘆の声を吐いた。

 彼女から言われた通り、彼は息子に話をする時間を作らないかと提案した。息子は二つ返事で了承し、夕食は必ず一緒に摂るようになった。息子は暫くすると彼に甘えるようになり、彼らはやっと家族になれたのだった。

 助言をくれた彼女は、騎士になることなく、神子として担ぎ上げられてしまった。神殿から出ることも許されないようで、彼女と面会できないかと彼は訴えたが、神殿は聞き入れようとしなかった。


 国は外交に失敗し、戦争が始まった。彼は前線の指揮を執ることになった。彼は傷を負い、処置を行ったが、それは適切ではなかった。傷が化膿して熱を出し、彼は前線に一番近い病院に運ばれた。そこで朦朧とした意識の中、必死に励ます声があった。温かい手が彼の手を包んだ。医者が来るまで、それは続き、去ってしまう影を彼は掴もうとした。

 意識が戻って、彼はあの声を探した。それはエドナだった。院内を過ごしやすく清潔に保ち、患者を励まし、仕事をする彼女を見ていた彼は、彼女に助けられた命を想った。そして、あの優しい声に惹かれつつある自分を律した。貴族でも普通ではない年の差、おまけに子供までいる男の下へ嫁ぐなど、耐えられないだろう。彼は、自分は彼女からしたら、老人と変わらないのだと言い聞かせた。

 彼女と対面した日、成長した彼女は美しく、優しい笑顔を見せた。礼を言えば、仕事だから当然だと笑った。一度神子になった者は、役目を終える時、修道院に行くことが殆どである。それならば、彼女が不自由なく生きていけるように、自分の養子に迎えるのは良いのではないかと考えた。彼女に聞き、意思を確かめたかった。しかし、その機会は与えられず、戦争はこの国の勝利で幕を閉じる。

 彼女の為、そう言い聞かせながら、彼は彼女を迎え入れる準備をしていた。何年経っても構わなかった。そして、外の神子が現れた。彼は彼女を養子として家に入れることを提案した。しかし、国王と教皇は彼女を息子と結婚させよと言った。それは彼女の意思も、息子の意思もない選択だった。貴族とはそんなものであると、彼も分かっていた。それでも、彼の恋心がそれを受け入れなかった。

 そしてついに、彼は国王と教皇に自分との結婚を提案した。計算高い彼らは驚きつつも、それを了承した。彼は彼女との結婚が決まった日、背筋が冷たくなり、頭を抱えた。彼女の意思は全くないこの結婚、自分が受け入れられることは永遠にないのだと顔に青筋を立てた。そもそも自分のこの想いさえも忌まわしく、恐ろしいものだというのに、それを彼女に知られるのを彼は恐れた。

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