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第六話 王都騒乱 ①

「『神獣祭』も、君たちなら大丈夫だよ」


「ええ、ありがとうございます」


王都、その隅の城門の前で、何人かの精鋭の護衛に囲われ、私たちは別れの言葉を交わしていた。


「……どうしても寂しいね、旅立ちの日というものは」


そう言ってセンリィ様は肩を竦め、「私もです……」と撫々花は下を向いた。


「またいつか、会いに来ますわ」


『神獣祭』で願いが叶えば、もうセンリィ様と会うことはないかもしれない――それでもそう言って、微笑んだ。


「いいや、僕から会いにそっちに行くよ。『王国最強』様に『転移』の刻印を作ってもらう」


「おい、そういうこと簡単に言うなよ……一つの紋章を完成させるのにどれだけの時間と素材が必要だと思ってるんだ。お前が融通効かせてくれても確実に数年は――」


「冗談だ、本気にするなよ」


「あっ、あのなぁああ……!」


「いてっ」


エル様はぽか、とセンリィ王子の横腹を叩き、こほんと咳払いをしてから、私たちに向き直った。


「……歩由美、撫々花。修行、本当によく頑張った。私は、二人のような弟子を持てて良かったと思う」


「こちらこそ、エル様のような師匠を持てて良かったと思いますわ」


「私も、そう思いますっ……!」


「……ど、どうする? なんか、飴とかいる?」


「あっはは! 慣れてなさすぎだろ、()()さん!」


「ぐう……! だから直に会いたくなかったんだ、このばか……」と、ぷい、とそっぽを向いたエル様に、センリィ様は「お、不敬か?」と肩に手を乗せて笑った。


「なんか……意外ですね、センリィ様とエル様の関係って」と、撫々花が不思議そうな顔をした。


「ああ、エリクシア家は遠縁だが僕の親戚に当たる。幼い頃から付き合いがあったし、まあ、実質妹みたいなものだから」


「そっ、それは違うだろ! っていうか姉だろうが年齢的には! お前が幼い時に、私がどれだけっ――」


顔を赤くして抗議の声をあげていたエル様は、唐突に頭を抱え、俯き、その口を閉じた。


「………?」


「……エル様?」


「いや、待て。少しでいい」


先程とは一転、センリィ様は真剣な表情を浮かべて「緊急事態か? エル」と問いかけた。

目を細めたエル様は「ああ、王都の『風』が……良くない予感がする」と頷きながら、その濃い赤色のコートの内側から、素早い手つきで折り畳まれた地図を取り出した。


エル様は「違和感があるんだよ。一人じゃない、沢山居る……」と呟き、地面に地図を押し広げて、ある場所を指し示した――王都の中央、人の行き交う大通りだ。


私は「……撫々花、これをお願い」とだけ言って、胸の『ボタン』を押して『裸身強化』を発動させ、服の塊を撫々花に手渡した。

額に刻まれた、『光』の紋章が輝く。


「あ……はい」と声を漏らした撫々花は、訳が分からないといった様子で、きょろきょろと辺りを見回して、ぱちぱちと瞬きをしている。


「歩由美はこの場所へ。青年が居る。とりあえず、戦う覚悟はしておいて」


エル様の言葉に、私は「分かりましたわ」と小さく頷いて、少し屈んだ。


(何故、こんな時に――いや、仕方ない)


撫々花の方を見る。心配そうな顔をしていた撫々花に、私は「待っていてね」と微笑んで、額の『光』の紋章を輝かせながら、地面を割って空に跳び上がる。


飛び上がる最中、センリィ王子が「厶レク、フリストはここで待機! グラウはケットラに事情を伝え――」と指示をしているのが聞こえた。兵士たちも動いてくれる――きっと、大丈夫だ。


赤い煉瓦の屋根を軽々と飛び越え、空から王都を見渡す。障壁で空に道を作り、巻かれた金髪を靡かせながら一気に駆け抜け、目的地に向かう。


(『戦う覚悟が必要』ということは、おそらく危険な『青年』とやらがそこに居るはず――だから、私が、やるしかない)



▽▲▽▲▽



『王国最強の魔術士』こと、エル・エリクシアは、王都全域の『風』を読むことが出来る。


『風』――つまりは、空気の流動。それを読み取れるということは、『何処に誰が居るのか』、『何処で何が起こったのか』ということを把握出来ることに他ならない。


これは『風』の紋章を持つ者なら誰にでもできることである。だが、大抵の場合、その探知が可能な範囲はせいぜい数十メートルに限られる。


しかしエル・エリクシアは、王都を丸々覆えるほどの領域内において『風』の流れを把握できる。


彼女の異常なまでの魔術のセンスは、それだけでは留まらない。彼女は、脳内で処理した情報から『誰が何をしようとしているのか』、つまりは『これから何処で何が起こるのか』を感覚的に理解することができた。


範囲を絞り、極度の集中をする必要があるが、それは実質的な予知能力の域にまで達する――それが、エル・エリクシアが『王国最強』たる所以である。


彼女はそれにより、王都の各地点に『不審な人物』を感じ取った、そういうわけである。


(やはりそうだ。不自然な場所に、不自然なほど人がいる。それも魔術士の気配――何かが変だ)


彼女は目を見開き、最小限の大きさの『障壁』を次々と生み出し、『風』を操ることで加速を続け、王都の空を駆ける。



(大通りのあいつは歩由美に任せた。外周は兵士の奴らが動いてくれてる――だから、残りは()()私一人でやる)



「――舐めた真似したこと、後悔させてやる」



青いコートを羽織った少女の眼前に降り立ち、そう呟いた。その右手の先に、赫々たる火を浮かべながら。


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