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第五話 姉妹共々修行中。

王城の上空。そこには二人の影がある。目を凝らすと、エル・エリクシア様を、聖麗院 歩由美が追いかけているのが見えた。


「あんなの、よくやるよなあ……」


俺は相も変わらずに毛の生えない頭を撫でながら、空を見上げてそう言った。


二人は空を走っているように見えるが、実際は『障壁』の紋章を使い、板状の足場を生み出して走っているのだ。

障壁を足場にするのは基本的な戦術の一つとはいえ、かなりの集中力を要する上、魔力消費量の多い『障壁』で空を駆けるのは、至難の業と言うほどでもないにしろ、わりかし面倒だ。


「あっ」


歩由美が落ちた。障壁を踏み抜いたのだろう。粉々になった障壁の青い欠片が、消えていくのが見えた。


「お、ちょうど来たか。……おらおら、何足止めてんだ。お前のお姉ちゃんも頑張ってんぞ」


「っはあ、っはあ……そうですね……」


空中に新たに障壁を作り、そこになんとか着地したものの、ますますエル・エリクシア様と距離を取られてしまっている聖麗院 歩由美。

その妹であるところの聖麗院 撫々花は、膝に手を付きながら、ぜえぜえと息を吐いていた。


「おいおい、大丈夫か? まだ全然走ってねえぞ?」


「あ、あの、ロイスさん……もう二時間ぐらい、走ってませんかあ……?」


「おう。この世の戦いが全部二時間で終わるって思うならやめていいぞ」


「ぐ、ぐぅう……すいません! がんばりますっ!」


運動用の、丈の短い服――特別に作らせた、『すぽーつうぇあ』だそうだ――を引っ張って汗を拭い、撫々花はまた走り出した。

城壁に囲まれている王都の中、それよりも頑丈で高い城壁の中に、この王城がある。撫々花はその王城の城壁に沿い、かれこれ数時間走らされているのである。


「ここ半年でそこそこ身体を動かしてたとはいえ、元がほとんど寝たきりだったんじゃしょうがねえが……」


体力が無ければ、そもそも『神獣祭』の開催されるトレンティアにすら辿り着けないだろう――あれ、そもそもなんでこいつも着いてくんだ? どうせ戦闘で役立つのは姉だけなんだから、メイロールに居ればよくねえか?


「……あ、そうだそうだ。『神獣祭』の規則だっけか」


ぱし、と自分の頭を叩き、その内容を思い出す。


『神獣祭』において最も活躍した『英雄』は、祭壇に立ち神に祈ることで、何か1つ、願いを叶えることができる。

それで、確か――「叶えられる願いの対象に、その場に存在しない人間や物体を含むことはできない」だったか。


まあ、この大陸にも色んな国がある。


例えば、他国の王様を殺害するとか、他国の秘宝や重要な情報の書かれた文書を自分のものにするとか、そういうことがまかり通れば、『神獣祭』は戦争の場になる。


他にも、死んだ人間を蘇らせたり、失われた伝説の魔術を知ったりできたら、この世がめちゃくちゃになる。


それを防ぎ、純粋な武の祭典にする――その為の規則であると、聞いたことがある。


「ま。とにかく、撫々花が死なねえようにしごいていかねえと」


こういうことを考えるのは苦手なんだよな。撫々花が戻ってくるまで剣でも振ろう。


「……あ、そうだ」


さっきはああ言ったが――忘れてた。撫々花には『水』の制御の修行もさせなきゃいけねえ。


▽▲▽▲▽


王都上空。歩由美ちゃんには、『空中で私に追いつく』という修行させていた。


「止まっていいよ、一旦休憩しようか」


両手の甲の『障壁』の刻印を光らせ、青色の障壁の上で膝を着いている歩由美ちゃんは、二回だけ深呼吸をして跳び上がってきた。


歩由美ちゃんの位置よりも少し下に障壁の足場を作る。

彼女は手で汗を拭きながら、そこに座った。おさげにした綺麗な金色の巻き髪が左右に揺らいでいる。

――たてろーるって言うんだっけ。撫々花ちゃん曰く。


「ありがとう、ございます」


「結構な距離を動いてるけど、身体の『光』の制御は出来てるね」


歩由美ちゃんの額に刻まれた『光』の紋章は、今も淡い輝きを放っている。

ちなみに、『刻まれた』と言っても本当に肌に傷をつけているわけではなく、特殊な液体を染み込ませているだけである。魔力を通していない間は紋章は輝かず、位置も分からないのだ――それはそれとして。


その『異能』の性質上、どうしても裸体を晒さなければいけない。歩由美ちゃんはこの問題について、局部に当たる『光』を操り歪曲させるという方法を取った。


光源から放たれた光が身体に当たり、跳ね返ってきた光が眼に入ることで、私たちはそれを視覚情報として認識する。

だから、身体の一部分に当たろうとする光を無理やり迂回させることで、その部分は誰にも見ることができなくなる。というわけだ。


今も、彼女の胸の部分などは、その背後の景色が透けて見えている。


これを撫々花ちゃんは、「背景があって、その上にあるレイヤーにお姉様のイラストが描かれたとするなら、一部分だけに消しゴムを走らせて、透過させたみたいな!」と語っていた。

――れいやーってなに? いらすと? けしごむ?


光を操る感覚は、空気中に満ち溢れる無数の矢印のそれぞれに意識を向けるようなものだ。相当な難度のはずだが、歩由美ちゃんはものにした。


ちなみに、光を生み出して隠せば良いのでは? と言ったら、撫々花ちゃんに「謎の光みたいだからちょっと嫌」って却下された。

――謎の光ってなに? 本当になに?


(なんにせよ身体を隠せるならいいんだけどね、こっちの方が魔力の消費を抑えられるし)


「私の開発した『光』の紋章。上手く使ってくれて嬉しいよ」


「本当に、適性があってよかったですわ……」


そう言って、歩由美ちゃんは額の刻印を撫でた。


人によって、魔力の性質にはかなりの違いがある。

『適性がある』というのは、簡単に言えば、歩由美ちゃんの魔力(精神のエネルギー)は『光』に近かった、ということだ。


両手の甲に刻んだ『障壁』も加えて、攻撃への転用方法もいくつか思いついているらしい。

身体の光の操作に慣れるまで併用は難しいと言っていたが、そのうちなんとかなるだろう。


「撫々花ちゃんの『水』もうまくできるといいけどね……えっと、じゃあ休憩終わり!」


「え――ちょっ!? 急すぎじゃありませんの!?」


歩由美ちゃんの座る障壁を消し、慌てて障壁を足元に生み出す彼女を尻目に空を走り出す。


ちょっと長かったかな。考え込む癖、良くないなあ。


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