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第三話 陽光に照らされて

「懐かしいね、僕たちの出会いも半年前か……ははは、命の恩人が別の世界から来たお嬢様だとは、思いもよらなかったよ」


「それもすっぱだかの、ね?」


「ふふ、もう。怒りますわよ?」


「あはは、すいません、お姉様」


――この世界に来てから、もう半年が経つ。


メイロール王城の一室にて、センリィ様、撫々花と一緒に、(わたくし)たちは食卓を囲んでいた。窓からは、暖かな陽の光が差し込んでいる。


センリィ様は王子である。そのため、私は正装としてこの制服を着用している。撫々花は、私の制服を模したものを着ていた。


ちなみに、この国の主食は芋である。元の世界のじゃがいもに似ているが、ややオレンジがかっていて、少し大きい。食文化が元の世界のものとそう離れていなかったのは運が良かったと言う他ない。


「あそこで君が来てくれなかったら、僕は本当にどうなっていたことか……本当にありがとう、歩由美」


「ふふ、感謝されるのもこれで何回目でして?」


優しい笑みを浮かべるセンリィ・メイロールに、そう答えた。


――あの日、「実戦経験を積むため」として、センリィ様方は樹木の魔物の討伐を任されていた。次代の国王たるもの、戦闘能力に劣ると国の威信に関わるらしい。


そもそも、さほど危険な任務ではないはずだった。センリィ様の一行は掃討に成功した――しかし運の悪いことに、魔力の少ない状態で火竜に襲われてしまう。

そこに私が駆け付け、討伐した。そういうわけだった。


火竜討伐、センリィ王子の救助。その報酬として、私と撫々花は王城に住むことを許されたのだった。

(ただし、王城とはいえ隅の方である。このメイロールの王がいる場所とはやや遠い位置にあった)


――この一件で、王子は少し立場を悪くしたと聞いた。彼の優しさに甘えてばかりではいられない。


そんなことを私が考えているのも、気付いていないかのように王子は微笑む。


「僕は君たちを尊敬しているんだよ。二人揃って、たったの半年でこの世界の言葉をほとんど完璧に覚えたのだって、凄いことだよ」


「ふふ、ありがとうございます」


「ありがとうございます、センリィ様――でも、私も、センリィ様には本当に感謝しているんですよ」


私に続いて撫々花はそう言って、自身の首の裏に刻まれた紋章を撫でた。


「僕は魔術士を紹介しただけだよ――エリクシアのみんなが頑張ってくれただけで、僕は大したことは何も」


「あら、謙遜がお上手ですのね。センリィ様に人望があったからこそ、魔術学院の皆さまも協力してくれたのではなくて?」


「そうだね、ありがとう」


そんな会話をしながら、食事を続ける。


それにしても――この世界の『魔術』と同じように、私たちの世界の『異能』が、『精神のエネルギー』を基にしていたのは、僥倖と言わざるを得ない。


『異能』と『魔術』。この二つは『精神のエネルギー』を元に、世界に干渉する力として共通している。


しかし、そのエネルギーを注ぎ込む回路となるものを、『異能』として生まれ持つか、『魔術』として外付けの紋章を利用するか、その点において相違する。


この世界で言う『魔力』――つまりは『精神のエネルギー』を適切に制御できず、異能が暴走してしまう。

それが私たちの世界では『異能制御不全症』と呼ばれていたのだ。


エリクシア魔術学院――センリィ様が紹介してくれた王国随一の魔術研究組織の協力により、撫々花の首裏には『魔力制御』の紋章が刻まれた。撫々花はこうして、病という呪縛から解き放たれたのである。


「魔力を制御する感覚を掴むのはけっこう大変でした」と、撫々花はまた首裏を撫でる。


「最初はそういうものさ、慣れないうちは魔術士が付きっきりで見るのが普通だよ」


「そう言えば、なんか……ぎゅっ! って全部出しちゃって、ほとんど魔力がなくなっちゃって、数日寝込んだこともありましたし」


「あ、そうだ。その時ねえ、歩由美、泣くほど心配してたんだよ?」


「ちょっ、それ言わない約束じゃありませんの……!?」


「お姉様……!」


困った顔で、隣に寄ってきた撫々花を抱きしめた。


「も、もう……」


「ふふ、仲が良くてなによりだね」


暖かな空気が部屋に満ちていた。


▽▲▽▲▽


昼食を終え、白いタイルの敷き詰められた廊下を歩く。


窓から差している光が心地いい。


「近々、『神獣祭』というものが、開催されるようでね――二人は知ってるかな」


撫々花と私は、首を横に振った。


「いえ、他国の文化にはまだ疎いもので……」


「私も知りません……」


「まあ、どちらかといえば、文化というよりは歴史のお話だからね――ほら、『トレンティア聖王国』、聞いたことはあるだろう? そこの儀式なんだ」


「トレンティア――あの、神の眠る大木があるという?」


王子は「そうだね」と頷き、足を止めた。

それにつられて立ち止まると、真剣な面持ちで彼は続ける。


「神樹に眠る神によって放たれる、『神獣』と戦う――それが『神獣祭』だ。その戦いにおいて最も活躍した者は――何でも一つだけ、神様が願いを叶えてくれるらしい」



「たとえば、『私たちが居た世界に帰してください』とかね――もし、君たちが元の世界に帰りたいなら、逃す手はないと思うよ」



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