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悪魔皇帝と側近



 メアリーデが寝室で休むのを見届けたターニャは皇帝の執務室に向かった。


 執務室にいた皇帝キースは部屋の外で待機していたブランを呼び寄せ執務室の隣の会議室に移動しキース、ヨハン、ターニャ、ブランが席に座る。


「ターニャ、姫をどう見る」

「はい!!姫様はとても可愛らしい方でした!!」

「……そういうことではない。ブラン」

「……」

「は?セレナ嬢が心配?誰だそれは」

「ちょっとキースーそれはないって。姫様の侍女でしょ」

「ヨハン、お前は黙っていろ」

「酷くなぁい?ちょっと可愛い侍女さんと喋っただけなのに」

「ブラン、姫の侍女の話は後で聞くから今は姫の話をしろ」


 皇帝キースは頬杖をつき、ブランを促す。


「……戦いに慣れていそうだ?そうか、やはり魔物の討伐に関わっているか」

「あ、そういえば魔の森で戦いたそうにしてましたよ」

「ターニャ、そういう話を聞いているんだ」

「だって可愛い方なんですもん。え?兄様何?姫の神聖力と魔法?ああ、そうそう、姫様の神聖力も魔法もすごいんですよ。通常の人の3倍はありますね。しかも風魔法のコントロールが抜群です。それも息をするのと同じように自然に」

「そうか。ブランは?人をよく見ることが癖付いてる、か。魔物以外と戦っていそうか?それはない?そうか」


 キースは息を吐いてヨハンが持ってきた紙に目を通す。


「マールスの国王は頭の切れる男だ。現国王だけじゃない。歴代の国王も他の国からすると他国に守らせるばかりの弱い王だと思われているがそうではない。魔鉱石に女神の愛し子。他国より遥かに優れたカードを2つ持つからこそ他国から狙われる」




 キースが現マールス国王と直接話したのは一度きり。ハルセントの先代国王、キースの父と兄と共にマールス王国を訪れた時だった。


 他国の王族が大勢集まる会談が行われた日、会談に出席した兄とは違い散策していた時偶然メアリーデ姫と会ったからだった。


 いつ他国に狙われ拐われるかわからない女神の愛し子であるメアリーデは嫁ぐまで他国の人間に会わない決まりだった。


 それなのにメアリーデは部屋の窓から脱走し護衛を撒き、自由に歩き回っていた。それを見つけたキースがマールス国王に伝わるよう父王に報告したのだった。


 女神の愛し子は伝え聞く女神の特徴を持つ美しい姫だ。力のことなしでもその美しい姫を手に入れたいと望む者は多い。


 国を庇護を求めるために嫁がせると言ってもその嫁ぎ先は慎重に選ぶ必要がある。拐ってでも奪おうとするような者に嫁がせて姫が幸せになるはずがない。そう思いマールス国王は幼いキースに尋ねたのだ。


『そなたはメアリーデを拐うか』


 キースは応えた。


『僕をその辺の野蛮な男と一緒にしないでほしいな』


 では拐わないのだなと聞くマールス王国にキースは応えた。


『拐わないとは言ってないよ。でも拐うとも言ってない。ただ拐ったとしても僕は姫を幸せにする自信があるんだ』


 眉を潜めたマールス国王は、それはメアリーデを嫁に望むということかと尋ねた。


『どうだろうね。確かに愛らしい姫だったし僕は野蛮な男じゃなくて紳士だから姫の嫁ぎ先になっても良いけど僕は帝国の皇子だからね。国益になる姫を貰うよ。それは僕が決めることじゃなくて父上が決めることだ。だけど姫とは約束があるから約束を果たすためにまた会いはするだろうね』


 そんな会話が数年前行われた。そして時は流れキースの取り巻く環境は大きく変わりつい先月のことだ。


 マールス王国を攻め入る国の話が出てきた。中心は前マールス国王の妹姫が嫁いでいた国でその周辺国も協力しているという話だった。


 キースはマールス王国に密偵を放ち国内の様子を探った。その報告の中に紛れ込まれたのがメアリーデとの縁談の打診だった。


 そこにはこう書かれていた。


『幸せにする自信があるのだったな。約束とやらを果たしてもらおう』


 キースは一瞬迷った。自信があると言ったのは父がいて兄がいた、何の憂いもなくただ自分は何でもできると自信があった過去の話だ。


 迷ったが承諾しない選択はなかった。内々に協力する国を集め勢力を拡大していくかの国に対抗できるのはハルセント帝国くらいだ。


 こうしてメアリーデの身を保護し守るためメアリーデはハルセント帝国皇帝キースの元に嫁いでくることになったのだった。


 マールス国王からの脅しとも取れるメッセージを手に、再びキースは息を吐く。


「マールス国王は演技派だ。姫が知っているかはわからんが。だが姫がか弱いと思われていることが姫自身を守ることになる。いざという時身を守れるならその方が良いだろう」


 実のところメアリーデは父が演技派かどうかは知らないがマールス国王はただ娘に過保護で甘いだけである。


「姫にはこの国でもか弱王女を演じてもらう。ここにいる者とセルサ以外には知られないように注意しろ」


 キースの言葉に3人は頷く。


「次に神獣についてだ。ヨハン」

「はぁい。姫様が保護したのはウサギ神獣の子供だよ。調べた結果親は魔物に殺られて子供だけ逃れて姫様に保護されたみたいだね。神聖力の消耗が大きかったから逃れる時に使ったんだろう。やっぱり魔の森で異変が起きてるかもしれないな」

「この前話した魔物の力が強くなってるんじゃないかっていうのは今日も感じましたよ。騎士団のメンバー3人で3体の魔物を浄化しましたが普段より力を使ったと言ってました」

「いつもなら1人で3体浄化できるはずなのにねぇ。レイル様は何か言ってるの?」


 キースの隣で伏せていた狼神獣は片目だけ開く。


「魔の森だけでなく各地で同じようになるだろうと。もうすでになっているところもある。それからそのウサギ神獣に会わせろと」

「あ、では陛下も姫様に会われますか!?」

「会わない。レイルだけ向かわせる」

「なんだ……姫様は陛下に会いたがってますよ」


 ターニャが言うとブランもキースに訴える。


「困ってることはないか聞いたら、か。だが会うことはできない」

「もー何でですか」

「言ってるだろう。あの日の俺はいない。姫に会わせる顔がない。姫は俺に気付かないだろうが」

「なら良いじゃないですか」

「そういう問題じゃない。くどいぞターニャ」

「口説いてるのはヨハン様ですー」

「ちょっと、無理に繋げないでよ!!もう良いからぁ」

「ヨハン、姫の侍女を怪しんでるのか?」

「違うよぉ。ちゃんと俺が鍛えた密偵放って調べたんだからそれは大丈夫だってー。俺が人に絡むのって探るか罠に嵌めるのかの二択じゃないからぁ」

「じゃあ何なんだ」

「普通に興味あるだけー」

「……姫を悲しませることは」

「しないしないってー」

「あ、陛下。兄様ももう1人の姫様の侍女に気があるみたいです」

「なに?」


 キースがブランを見る。


「可愛いとは思う、だと?……お前たち、仕事をしにいったんじゃないのか」

「仕事してるってー。何だかねぇ、クレランス嬢って自分でもマールスの女性にしては自立してるって思ってるからか自分がしっかりしなきゃって気持ちが全面に出てるとこが面白くてー」

「もう良い。とにかく仕事に支障がないようにしろ。ブラン、お前もだ」

「わかってるってー」

「陛下、私は兄様を応援しても良いですか!?」

「好きにしろ」

「やった。兄様、私応援するよ!!え?そんなんじゃない?大丈夫、頑張れ!!」

「ところでキース、のど飴って甘い方が良いのかなぁ。甘くない方が良い?」

「……どっちでも良いだろう」

「やっぱ好みだよねぇ。今日あげたの僕が普段から持ってる甘いのだったんだよねぇ。甘いの駄目だったかなぁ」

「知らん」

「兄様、まずおしゃれに気を使ったらどう?私服が全部同じデザインじゃそれしか持ってないと思われちゃうよ。私服を見る機会なんてない?デートに誘うんだよ!!」


 狼神獣レイルは4人中2人しか主に話してないのに騒がしい空間に呆れ欠伸を1つすると眠りについた。


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