神獣保護施設
「それから姫様に紹介したい人がおりまして、よろしいでしょうか」
「ええ、どなた?」
ヨハンが部屋に呼び込んだのは白衣を来て茶色い髪の毛がボサボサでほぼ髪で隠れていて目が見えないが眼鏡をかけた男だ。
「お初にお目にかかります。私神獣保護施設の署長をしておりますセルサ・マイセルと申します」
「メアリーデ・マールスよ。神獣保護施設?」
「その名の通り神獣を保護する場所ですよぉ。あ、ちなみに彼はこんな成りをしてるけど全然不潔じゃないから安心してくださーい。むしろ潔癖で女の子に触れられたくないから色々試行錯誤してこんな結果になったんですぅ。神獣は喜んで触れるけど女の子に触ると湿疹が出ちゃうから姫様気を付けてくださ……痛っ」
セルサがヨハンの頭をグーで叩く。
「先輩喋りすぎ。ウザい」
「酷いなぁ。あとグーは止めてって言ってるじゃない」
「煩い。話が進まないから黙って」
「酷っ。先輩に対して酷い」
「……はぁ。姫様、姫様が連れて帰ってきた神獣を見せてもらえますか?」
なるほど、キウイのために呼ばれたのかとメアリーデはベッドに寝かせていたキウイをつれて戻ってくる。
「ずっと眠っているの」
「少し弱っていますね」
「え、弱ってるの?」
ただ眠っているだけだと思っていたメアリーデは不安になる。
「キュイ……?」
セルサがキウイに触れようとするとキウイが目を覚ます。
「キュイ!!キュイキュイ!!」
嬉しそうにセルサに向かって鳴くキウイ。
「お、他の神獣の匂いがわかるのか。子供なのに賢いな」
「キュイー!!」
「あの、他の神獣って?」
「ついさっきまで陛下のところにいたんです。そこにいた神獣を撫でてきたから匂いがついているんでしょう」
キウイはポンとメアリーデの腕からセルサの腕に飛び体に自分の体を擦り合わせる。
陛下のそばにいる神獣といえば狼。手だけじゃなくて体に匂いがつく撫で方をしてるのかとメアリーデが思っているとセルサの手が淡く光る。
「神聖力?」
「はい。神獣は神聖力が急激に減ると弱ります。時間が経てば戻りますがこうして誰かから与えることもできます」
「私がやるわ、私が」
メアリーデはキウイに神聖力を与える。
「キュイ!!」
キウイはセルサの腕から飛び降りると床をぴょんぴょん跳び跳ねた。
「元気になったみたい。良かった」
「この神獣はまだ子供ですね。毎日少しずつ神聖力を与えると成長が早くなりますからできるだけ与えた方が良いでしょう」
「わかったわ」
メアリーデはペットを飼ったことはなかったがペットの飼い方を習うようだとわくわくしながら聞く。
「他には何をしたら良いの?ボール遊びとか?」
「神獣は犬ではありませんからボール遊びはしません」
「あら、そうなの?」
「散歩はさせると良いでしょう」
「お散歩ね。わかったわ」
「私はできるだけ毎日様子を見に来ます」
「ありがとう。でもどうして?」
「陛下の命令ですから」
「姫様、私が魔の森で陛下に文を出していました」
メアリーデはターニャの言葉に納得する。神獣の保護施設があるくらいだ。神獣を保護したら報告義務でもあるのだろう。
「姫様が神獣飼うって言うからぁ姫様につく神獣に詳しい専門家がいた方がいいだろうってねぇ選定したんですよぉ。でもねぇ、神獣保護施設の保護員ってみんな変わってるから結局セルサしかいなかったんですよぉ。まだマシだって痛っ」
またしてもセルサにグーで叩かれるヨハン。
「お前ねぇ、もっと先輩を敬えってー」
「ウザい。僕が敬うのはキース先輩だけ」
「えっと、セルサさんとヨハンさんは先輩後輩なの?」
「私にさんなんてつけないでください」
「あー私もヨハンって呼んでください。あだ名つけてくれても良いですよ」
「わかったわヨハン」
「ガーン」
全く落ち込んでなさそうなヨハンに後ろで控えていたクレランスはやはり要注意人物だとマークする。
「学園の先輩です」
「そぉなんですよ。でも家の都合で学園に入る前からの付き合いでしたけどねぇ」
「付き合ってない。顔見知りだっただけ」
「お前本当俺だけ態度違うのなんなのー」
「キース先輩は全てがカッコいいから尊敬する。ブラン先輩は強くてカッコいいから尊敬する」
「ブラン……?」
「私の兄です」
「俺はー?俺も頭よくて尊敬するでしょう」
「キース先輩に学園のテスト勝ったことないんでしょ」
「それは仕方ないのー。あいつ出題してる教師の性格読んで引っかけ問題解くから満点にプラスアルファがついちゃうのー。俺だってたまに満点とってたのにー」
「そこが差なんだよ」
「もー酷いなぁ」
気楽なやり取りにクスリと笑うメアリーデ。
「そろそろ戻らないとキースに怒られちゃうから戻りますねぇ」
「ええ、ありがとう」
「そうだ、これ姫様の侍女さんにどうぞー」
「まあ、飴?」
ヨハンに差し出された飴をメアリーデが受け取る。
「はい。先程咳が酷いようだったので風邪かなと」
「まあ」
メアリーデはクレランスに睨まれているのを感じる。
「ありがとう。クレランスに渡すわ」
「クレランス嬢というお名前なのですねぇ。よろしくお願いします」
クレランスは眉間にシワが寄るのを長年の侍女経験から抑え込みカーテシーをする。
「そちらの侍女さんのお名前は?」
「ふぇ!?」
クレランスが警戒オーラ満載な様子をびくびくしながら見ていたセレナがビクリとする。
「セレナよ。連れてくる侍女の情報は伝えてると思うけど」
「ええ、もちろん存じ上げていますよぉ。経歴や交遊関係、その他諸々。でも実際に対面しないとわからないこともあるでしょう。例えばクレランス嬢は絵姿も美しかったけど実物はより美しいとか」
大変だ。クレランスの警戒心がマックスだとメアリーデとセレナが思う。
「あーキース先輩にヨハン先輩がキース先輩の姫様の侍女口説いてたって告げ口しよ」
「止めてよぉ。これ以上仕事増やされたら俺過労で倒れちゃうよ」
「じゃあさっさと戻れば」
「戻るよぉ。では姫様失礼しますぅ」
「ええ」