噂の真相
「あのね、悪魔、じゃなかった、皇帝はどんな人?どれだけ忙しいの?もしかしてこれって恋物語でいうところの冷遇ってやつかしら?」
メアリーデはか弱王女になりきるため小説をいくつか読んでいた。
だがマールス王国の恋愛小説はだいたいか弱令嬢がか弱くて男性に助けてもらうストーリーでメアリーデはすぐに飽きてしまっていた。
矢継ぎ早の質問にターニャは答える。
「陛下は姫様を大切に思われていますので冷遇などされませんよ」
「まあ、会ったこともないのに大切に?お父様に何か言われてるのかしら。お父様って過保護なのよね」
「それに忙しいのは忙しいですが私も姫にお会いにならないのは納得できません」
「そうよね!!今日も明日も明後日っていつ会えるの!?」
「婚姻の儀までお会いにならないそうです」
「婚姻の儀っていつ!?」
「半年後です」
「嘘でしょ!?」
今日やっと会えると思っていたのにと、か弱王女の振りでなくとも脱力するメアリーデ。
「姫様は陛下が怖くないのですか?」
「怖いの?」
「噂はご存知では?」
「笑いながら敵を切り倒していくとか恐ろしい形相でとか?怖くないわ。むしろ面白そうじゃない。笑いながら戦うなんて」
「そ、そうですか」
「ねぇ、どんな風に笑いながら戦うの?」
「えっと……それは作り話です」
「え?」
「陛下ができる限り残忍で誰も近付いてこないような噂を立てるようにと言うので先程のヨハンが作った作り話を噂として流したのです」
「何のために?」
「陛下が即位されたのは8年前、陛下が17才の時です。国内は荒れ世界は瘴気で溢れていました。なので陛下は国を手早く掌握し瘴気の浄化に向かいました」
今より8年前突如瘴気が魔の森で一斉に吹き出し魔物の大群が現れた。
ハルセント帝国ではその未曾有の事態に先代皇帝と皇太子を亡くし第二皇子だった現皇帝が即位したのだ。
「そうなのね。では本当の陛下はどんな人なの?」
「私の兄ほどではありませんがあまり口数の多くなく笑わない人です」
「まあ、そうなの」
「はい。昔はそうではなかったのですが」
悲しそうに言うターニャにメアリーデは笑いかける。
「私はお喋りだしたくさん笑うわ。そしたら陛下だっていつかまた笑えるようになるわよ」
皇帝はあの時悪魔に魂を売ったなんて言う人もいたがその惨劇が一月で終結したのはハルセントの現皇帝のおかけだ。
そうでなければ魔物はマールスまで迫ってきていたかもしれない。
「今すぐは無理でもいつかきっとね」
「姫様……そうですね。姫様がいればまた人を小馬鹿にするような大笑いが見られるかもしれませんね」
「小馬鹿に?陛下はその、優しい人ではないの?」
「優しいとは言ってません。優秀さを鼻にかけて私たち兄妹を脳筋馬鹿兄妹と呼んでくる性格は悪魔で正しい男です」
「なんてこと……」
「まあトレーニングが好きなのも勉強が苦手なのもその通りなんですけど。でも昔憧れていた年上の騎士に私の恥ずかしい話をバラすとそれを書いた禁書をチラつかせて脅してくるのはどうにかしてほしいです。しないと思ってるとやるのですあの腹黒男」
「プッ」
キーッと怒るターニャにメアリーデは吹き出す。
「ターニャは大人っぽいのに今のはなんだか子供みたいね」
「そうですか?でも幼馴染みの中でも一番年下なので子供扱いですよ」
「ターニャは皇帝と仲が良いのね」
「仲良くはないですよ。年が離れてますからね。兄にくっついていく私をついでに構っていただけだと思います」
「お兄様はたしか」
「兄は陛下の近衛騎士をしてます」
「では先程のヨハンとの4人が幼馴染みなのね」
「そうです」
「皇帝のことはわかったけど会えないのはどうにかしなくちゃだわ。どこに行ったら会えるのかしら」
「そうですねぇ。でもやはり陛下が会う気になってくださらないと会えないとは思います」
「すごく隠れるのがうまいとか?」
「感覚が鋭いんです」
「感覚が鋭い?」
「はい。なので遠くから見るくらいしかできないかもしれません」
「それはそれで面白いかもしれないわね。良いわよ」
「では明日、王宮内を案内しながらにしましょう」
そう話している間にクレランスとセレナが戻ってきてしばらく話しているとドアがノックされた。
「姫様、ヨハンです」
ターニャが確認するとヨハンがニコニコしながら立っていた。
「姫様、部屋はどうですか?」
「とっても気に入ったわ」
「それは良かった。インテリアなどはすべて陛下がお決めになったのです」
「まあ!!」
そうだったのかとターニャを振り向く。
頷くターニャを見てメアリーデは気分が高揚する。
室内は落ち着いた淡い青色や濃い青色で統一されていたシンプルなデザインのものが多い。
マールスでは皆メアリーデはピンクやフリフリが好きなんだろうと勘違いしてそうしたもので溢れていた。
メアリーデはさきほどセレナに言ったようなこだわりなどはあまりないが好みは自分の瞳の色のような青系だった。
「素敵だわ」
「それは良かったです」
メアリーデの中で皇帝への評価が高まった。