ハルセント帝国到着
「ようこそハルセントへ。私はハルセント帝国皇帝の側近を務めておりますヨハン・リストニアと申します」
王宮に着いてメアリーデが初めに出会ったのは銀髪に碧眼のキラキラした男だった。
「初めましてメアリーデ・マールスです」
「魔の森は大丈夫でしたか?姫様は魔物なんて見る機会はありませんし」
「全く問題な「ゴホンゴホン!!」はわわぁ……とっても怖かったですぅ」
このはわわというのはメアリーデの妹がよく使う言葉だった。
驚いたときや怖いときに使っていた。幼いときのメアリーデはそんな妹を見てケラケラ笑っていたがよく見ていたため使い所はバッチリだとメアリーデは思っている。
王宮の前に出迎えていた騎士や侍女たちは女神のように愛らしい姫が涙を浮かべて怯える様子に胸を打たれた。
「部屋でゆっくりお休みください。気持ちが安らぐハーブティを用意させましょう」
そんなことより皇帝はいないのかと辺りを見渡すメアリーデ。
「姫様?どうかされました?」
「あく「ゴホン!!」あのぉ、皇帝陛下は……?」
「申し訳ございません。陛下は少々立て込んでおりまして」
「まあ、何時頃ならお会いできるかしら」
「本日は難しいかと」
「では明日になるかしら」
「明日も立て込んでおりまして」
「まあ、お忙しいのね。明後日は?」
「申し訳ございませんが明後日も明明後日も立て込んでおりまして」
目の前でニコニコキラキラしている全く申し訳なさそうにしていない男にメアリーデはムッとする。
だがヨハンの合図によりあっという間に部屋へ通されハーブティを出されのんびり休憩時間になってしまった。
「あのヨハンって人、油断ならない人だわ」
「そうですね。注意しておきます」
「あのぅ、メアリーデ様、本当に私たちもここにいて良いんでしょうか」
メアリーデと同席してハーブティを飲んでいたセレナが尋ねる。
「まあ、セレナはれっきとしたか弱令嬢なのに本当に仕事好きね」
セレナは実は真面目な努力家だった。
「好きですけど、でもだってどう思いますクレランスさん。マールスの女性は何にもできないから手伝わなくて良いって言われたんですよっ」
「正確には荷ほどきは私たちで行いますからマールスのご令嬢方も姫様と一緒にお休みください、よ」
「荷ほどきくらいできますよ!!しかもわざわざご令嬢って呼ばなくても良くないですか。侍女の方で良くないですか」
「まあまあ。悪気はないのよ。だってマールスの女はか弱いんだもの」
「メアリーデ様は全くか弱王女をしてくださいませんけどね」
「え、なんのことかしら」
「そのキウイ様に触れていると気持ちが良くてだらんとしてか弱王女ができないーとか思ってませんか?」
キウイは眠ってしまったため今はベッドに寝かせている。
「良くわかったわね。さすがクレランス」
「……」
このままではクレランスの説教タイムが始まってしまうと思ったメアリーデはふと思い付く。
「そうだわセレナ。私は家具の配置やドレスの並べ方にとてつもなくこだわりがあるからって手伝いに言ってくれば良いんじゃない?」
メアリーデの言葉にセレナは目を輝かせる。
「クレランスもついていってあげてちょうだい」
「わかりました」
「行ってきます!!」
そう言って張りきって歩いていくセレナと物言いたげなクレランスを見送ったメアリーデはそばに控えていたターニャと目が合う。
「あら?」
そういえばターニャの前でか弱王女をしてなくないかと思い付いた。
「……ふぇん、2人がいなくなって寂しくなっちゃったわぁ」
「姫様、どうぞ今まで通りで」
笑顔のターニャにメアリーデは自由自在な涙を引っ込め首をかしげる。
「私の前では普段の姫様で良いですよ」
「まあ!!よくわかったわね」
それはわかるわ、とツッコミができるクレランスは不在だ。
「あの2人の代わりにターニャがお喋りに付き合ってくれないかしら」
「私でよければ」
ターニャを椅子に座らせたメアリーデは早速と話し出す。