悪魔皇帝
メアリーデたちが魔の森を進んでいる間のハルセント帝国王宮の皇帝の執務室。
皇帝キース・ハルセントとその側近、ヨハン・リストニアが話をしていた。
「もうすぐだねぇ」
「……」
「本当に姫様に会わないのぉ?」
「ああ」
「いつ会うのさぁ」
「婚姻の儀だと言っただろう。煩いぞヨハン」
「仕方ないよぉ。幼馴染み4人の中で半分全然喋らないのがいるんだからぁ。お喋りにもなるよねぇ」
「……はぁ」
「溜め息止めてくれなぁい?幸せが逃げちゃうでしょー。せっかくもうすぐ幸せが訪れるっていうのにぃ」
「仕事の話をしないなら出ていけ」
「仕事の話じゃなくても愛する姫様の話なら良いでしょー。覚えてるかなぁ。感動の再会ってやつぅ?」
「覚えてない。第一今の俺を見て当時の俺だとわかるわけがないだろう」
「そおー?顔に大きな傷ができて目の色が変わって目付きが悪くなったくらいでそんなに変わらないよぉ?」
「それを変わってると言うんだ」
「変わらないってー。ひねくれてて素直じゃないところとかぁ」
「人の悪口を言ってる暇があるなら仕事を増やしてやろうか」
「仕事の報告をするよぉ。やってもやっても増やされてくから全然仕事が終わらないんだぁ。困ったなぁ」
「報告は」
キースに睨まれたヨハンは手元の書類に目を向ける。
「はいはーい。姫様のマールス王国に戦争を仕掛けようとしてるのはヤメルト王国だよぉ。でも今のところは国内で色々あってすぐ攻めてくる状態じゃないねぇ。歌姫は国民に慕われていたから反対派がデモを起こしてるそうだよぉ」
「歌姫はマールス王国の先代国王の妹姫だったな」
「そうだねぇ。数年前に亡くなってる。ヤメルトの先代国王の後宮の妃の1人だったけど歌姫として神聖力を歌に変えて国に加護を与えていたみたいだねぇ」
「今の国王は一の宮の妃が生んだんだったか」
「うん。妃の親は宰相をしていて国内で最も権力がある貴族だねぇ。デモが起きても攻めてくるのは変わらないだろうなぁ」
「あのヘタレがいる国はどうだ?」
「お前だってヘタレだと思うけどねぇ僕は」
「どうだ?」
「はいはーい。アキレア王国だねぇ。マールス王国の現国王の姉姫が正妃として嫁いでるよぉ。この国はマールス王国の味方だけど武力が弱いねぇ。ちなみにヘタレは第二王子でー調べたところによるとお馬鹿だよぉ。致命的な馬鹿ではないけど第一王子やその妃が手綱を引いてないと暴走するだろうなぁ。姫様を守るにはかなりダメダメだねぇ」
キースは両腕でバツを表す。
「バツバーツ、ぶーぶー」
「そうか」
「あーもしかしてほとぼりが覚めたら姫様をヘタレに渡そうとしてたぁ?無理だと思うなぁ」
「……はぁ」
「だから溜め息ついてるとー……ってブラン?どうしたのぉ?手紙ぃ?ターニャからぁ?なになに?ん?ねぇキース、どういうことだろぉ。姫様が道中拾った神獣をペットとして飼いたいというから一緒に連れてくるってー」
「神獣保護施設の職員から誰か姫につける。選定するから準備しろ」
「嘘でしょ。仕事増やされたぁ」
「早くしろ」
「もぉわかったよー。キースの悪魔ー悪魔皇帝ーヘタレー」
「早く行け」
「はいはーい」
ヨハンが執務室から出ていくとキースは引き出しに仕舞っていたマールス国王からの手紙を取り出しため息をついた。