5話
◆◆◆◆◆5話
薄暗い家の中の真ん中にある囲炉裏の真ん前にある、一際大きな麻で出来た御爺ちゃんの座布団。
いつかあの囲炉裏の一等席に座ってみたいと手に棒を持って、板の間を駆ける雪ん子。
外から聞こえる吹雪の音がバンッバンッと閉め切った木戸を叩いて揺らす。
時折バタバタバタと小刻みに寒い音を家中に伝え、誰かが外にいるように雪ん子たちを騙す。
囲炉裏の横で編み物をする母親と、藁で雪ん子たちの靴を作る御婆ちゃんを見ては
「かあちゃん! 婆ちゃん! 外に誰か居るよ!」と、母親と婆ちゃんを交互に見る雪ん子。
少し離れた土間の引き戸の前で、春に備えて農具の手入れをする御爺ちゃんが…
「まんだまんだ、あっはははは♪ 騙されおってぇ~」と、雪ん子を見て微笑む。
すると外からドンドンドンドン!と、戸を叩く音がして御爺ちゃんが「おぉ、終わったようじゃの」と笑うと、
「あっははははは♪ 爺ちゃん騙されでらぁ♪」と、さっきの仕返しとばかりに笑い転げる雪ん子。
寒さで凍りつく木戸は叩いて開けるものだった……
木戸がガアァーっと音を立てると、頬かむりして顔を真っ赤にした父親が姿を現す。
「あぁ! 父ちゃだ! 爺ちゃんすげえなぁー!」と、御爺ちゃんの後ろにひっついて木戸を見詰める。
雪かきを終えた父親から沸き上がる風呂の湯気のような白い靄もやを雪ん子が指差した。
「あははははは♪ 父ちゃ、風呂から出たみたいだ♪ あははははは♪」と、爺ちゃんの手に頬寄せる。
そんな雪ん子を見てニンマリと口元を緩める父親が大きな藁靴を脱いで小上がりに置く。
「うんしょ! うんしょ!」と、水を含んで重たくなった藁靴を雪ん子が掛け声と共に囲炉裏のそばへ。
母親と御婆ちゃんに「腹減ったなぁ」と、父親が囲炉裏の前に座りながら声を掛けると、
笑みを浮かべた御爺さんが居間の奥から丸く硬い緑色を持って来ると、囲炉裏の網の上に並べた。
「どっこいしょ」と、一声かけて座った囲炉裏の真ん前の一等席の御爺ちゃんを見ていた雪ん子が、
「どっこいしょ」と、御爺ちゃんの真似して御爺ちゃんの胡坐の上に座った。
網の上の緑色は少しずつ焼けて香ばしい匂いを囲炉裏の前に漂わせる。
「オド! そろそろいいんでないか?」と、腹を空かせて網を見る父親。
無言のまま網の上の緑色を見詰める御爺さんが「おお、忘れておった!」と、慌てて火箸で緑を反した。
「おお、忘れておった!」と、爺ちゃんの胡坐に座る雪ん子が真似して火箸を使うフリをした。
何もない山里の一軒家の中に広がったささやかな温もりだった。
そして翌朝、早起きした雪ん子が囲炉裏の一等席の横に座って御爺ちゃんを待っている。
するとそこへ母親が静かに来て「爺ちゃんなぁ… 遠いどこさ行ったはんでぇ、こごさ座ってろ」と、母親。
雪ん子は御爺ちゃんの起きて来るのをずっと座って待っていると声がした「坊、座れてえがったなぁ♪」
と、雪ん子の前に現れた白いヒゲの御爺ちゃんは微笑んでスーッと壁の中へと消えていった。
雪ん子が一等席に座れたのは御爺ちゃんの死んだ朝のことだった。
そして雪ん子が本当の一等席とは何んだったのか知ったのはずっと後のことだった……
「どっこいしょ」




