4話
◆◆◆◆◆4話
白で覆われ閉ざされた山間の里から大人の足で三日間、後ろに背負った背負子しょいこは
俄かに無臭の獣道に匂いを放つ。
向かう先での小商い、同時に我が身が生き延びさせるための貴重な食料。
凍て付く寒さの中で夜を明かし寝ずに歩き続ける獣道は時折、大きな吹き溜まりとなって進む道を掻き消す。
道を塞いだ吹き溜まりに真っ暗な中、月明かりを頼りに身の丈半分の穴を掘りそこへ「どっこいしょ」
背負子に手を伸ばし、悴む片手で背負子に積んだ大袋の太い紐を手探りで解く。
中から取り出した一本の食べかけのそれは、穴の中に里の匂いを充満させる。
「ポリッ、ポリッ」と、口で齧ると匂いに誘われたのか、何処からともなく風が巻き起こり粉雪を舞い上げた。
頬かむりの手拭いに粉雪が触るとゆっくりと凍り、頬に小さな氷柱つららを作る。
「ポリッ、ポリッ」と、噛締めるようにゆっくりと頬を揺らすと「ポキッ、ポキッ」と静寂な闇の中に氷柱の音が響く。
眠ることが出来ないながらも、腹を満たし身体を休める。
薄っすらと夜が明けだした頃「よいしょっ」と心の中で自分に掛け声をかけて立ち上がる。
辺りを見回し、吹き溜まりを避けて降り積もった雪の下の獣道を見分ける。
白い衣に身を包んだ樹木達に挨拶するように凍りついた手袋でペタペタと軽く叩いて自然の道標を探す。
歩き出すこと数時間、ようやく向こう側に拓かれた集落と、その奥に白い波のうねる海が広がった。
眉毛も睫も凍り黒かったヒゲも白に変わる頃、辿りついた漁業の集落。
「かっちゃーん、こどしもまだ来たぞぉ」と、集落の民家の戸を開くと「待ってたよぉ」と、温もりが迎えた。
背負子を降ろして取り出した里の自慢の沢庵を取り出すと、さっそくオケを片手に小商い。
「アンタのとこの沢庵たら美味しいすけ毎年、楽しみなんだぁ」と、口元を緩ませる漁師の奥さん。
毎年、山越えをして里の沢庵を漁村に届け、干した魚を買い求める風習は今もマブタの奥に焼き付いている。
山越えは命がけだが、命をかける価値を里の人々は見出しているのだと思う。




