30話
◆◆◆◆◆30話
山の麓からポツンポツンと一里ほどの間隔で、葉の落ちた木々の間から見え隠れする里家を左右に見ながら畑の間の道を1時間ほど歩くと、やがて見えて来る色鮮やかな雑貨屋の看板。
見慣れたはずの案山子の姿は何処にもなく、窮屈そうに軒を連ねる家並みは小さな都会の様相を見せ、飲料水や蚊取り線香の看板を空に高々と掲げている。
馬ソリが一台ようやく通れそうな道には大八車の車輪の跡がクッキリと見え、その周りを大勢の足跡が祭りの後のように人通りの多いことを伝えている。
外から見える雑貨屋の帳場に座る御婆さんも、妙に建物に馴染んでいて、中から漏れる真空管ラジオの音が乾いた空気を和らげている。
雑貨屋の隣は駄菓子屋が並び、同じように帳場には御婆さんが座り目を閉じて客の足音を聞いているのだろうか、時折り雪ん子たちが走ると一瞬だけ目を開き、そして閉じられていた。
色とりどりに、赤や青や黄色に緑色の御菓子だろうか、時の経過を物語るように黒々とした木目が微かに残る四角く斜めに傾げられた箱が縦横に並び、鮮やかな色の付いた袋や紙箱が賑やかさを醸し出している。
道の逆側には御日様の光に黄金色に輝き光を放つ鍋に、銀色のツバ釜が立ち並び暑いのだろうか縦横に区切られたガラスの戸が少しだけ開いていて、奥の帳場には金物屋とあって、御爺さんが座りキセルでタバコを吹かしていた。
金物屋の隣は店先に大きな文字で、味噌と書かれた樽がドッシリと正体を明かすように立っていて、その横にも醤油と言う大樽がまるで門のように店の入り口を守っていた。
集落には厳しい冬の形跡は何処にも見当たらず、白が覆っていたであろう黒の上にはビッシリと緑がフサフサと微風に揺られ、その横を「わあぁぁーー♪」と、走り回る着物に股引姿の雪ん子たちの巻き起こす風が微風で揺れる緑を逆側へと大きく揺らせた。
雪ん子たちの後を追うように足を動かせば、醤油の大樽の陰に年季の入った黒々とした木で出来たベンチが横たわり、大勢の雪ん子たちが歓声を上げ、開けられた木枠の出窓から何やら受け取っていた。
出窓の向こうには、喜ぶ雪ん子たちの顔を、嬉しそうに眺める優しい御婆さんが湯飲茶碗を、一つ、また一つと雪ん子たちに与えていた。
雪ん子たちの持つ湯飲茶碗からは、薄い白色の湯気が立ち上り「ふぅふぅーして飲むんじゃよぉ♪」と、楽しそうに微笑む御婆さんに「めえなぁ♪ めえなぁ~♪」と、雪ん子達は笑顔を御婆さんに返していた。
小さな口から一口の飲む度に「はぁー! ふうぅー!」と、雪ん子たちが口から熱さを逃がす光景は道行く者の心を癒す一時ひとときでもあった。
飲み終えた雪ん子たちが「婆ちゃん♪ ごっちゃーん♪」と、湯飲茶碗を次々に返すと、勢い良く手に持たれた風車をクルクル回して駆けて行った。
雪ん子たちが走り去った後、仄かに漂った甘酒の匂いが忘れられない。
里(1話~30話)




