3話
◆◆◆◆◆3話
一面を覆う白が恨めしくなるほど何処まで進んでも変わることの無い景色。
見慣れている白が、滅多に見ぬ隣町への心細い山道を覆い隠し、獣達の足跡を道標に雪ん子は、
重たい荷物を持ち替えながら母親に言われた集落を目指す。
左手には米が一升入った袋と右手にスルメイカを30枚持ち、雪風の吹き付ける中を黙々と進む。
年の瀬、都会に出ている懐かしい顔ぶれに食べさせるために、里の小さな雪ん子は只管目的地を進む。
雪ん子を拒むように木々は、重たい雪風に押され時折バサッっと枝に蓄えた白を左に右にと落とし
吹き付ける風で、緑色した笹の葉がザワザワとざわめき、雪ん子を脅かす。
手から手袋を少しだけ外して、悴んだ手に息を吹きかけ立ち止まることなく雪ん子は足を進める。
時折立ち止まろうとするものの母親から言われた 「立ち止まるんじゃねえど」 を、思い出し前に見入る。
白で覆われた山の中には山犬(蝦夷狼)がうろつき、眠りの浅いヒグマが腹を空かして獲物を待つ。
生まれながらにして自然の中に身を置く、雪ん子たちの脳裏に焼き付けられた言葉。
「立ち止まるんじゃねえど」そして…「振り向くんじゃねえど」
雪風と山の木々と獣に脅かされながら山の道を2時間あるけば、藁半紙の欠片に書かれた集落。
「ご免ください…」 山道で疲れ果てた雪ん子の、か細い声を暖かく出迎える 「はいよぉ!」 と、主。
「遠いどこ1人で来たのか? そかそかー じゃぁこれは褒美だ♪」 と、主から雪ん子に渡されたゲンコツ。
黒い鉄で出来たストーブから見え隠れする炎と、主の笑みが雪ん子の小さな心を暖めた。
大きな四角い鉄のオバケが、横に広がった大きな口で、スルメイカを飲み込むと別の場所から音を立て
新聞紙ほどの大きさで薄くなったスルメイカを吐き出した。
雪ん子は小さな目を真ん丸くして、主の仕草に見入ると突然 「ドオォォーーン!」 と、言う大きな音。
ビックリして両耳を塞いだ雪ん子を山以上に驚かせた大砲は、次々に大きな音を鳴り響かせた。
ドオォォーーンと鳴るたびに雪ん子は店の中で飛び跳ねた。
「ほいじゃぁ、この米の2合とイカ5枚は手間代でな♪」 と、雪ん子の頭を帽子の上から撫でた主。
一升の米は八号のドンに化け、30枚のスルメイカは25枚のローラーに化けた。
山深い里で七つになった子にさせる一人旅、そして小商いの真似事は今はもう夢の中だろうか。
雪ん子は帰りの9キロの山道を、笑顔で迎えてくれる母親を頼りに只管歩き続ける……
※ドン(米を熱と圧縮で作るポップコーンの米版)
※ローラー(スルメイカを引き伸ばした食べ物)
※ゲンコツ(ドンを黒砂糖で固めた丸い菓子)




