14話
◆◆◆◆◆14話
白が少しずつ消え地面から黒が恥ずかしげに「こんにちは♪」と、顔を出し、ポツポツと緑が山から吹く風に肌寒さを感じるように「寒いよぉぅ」と、全身をサラサラと揺らす。
降り積もった白が空に帰る準備をする時、送り出す側の黒は太陽の光を溜め込んで最初に空から降りた順番に白を透明に変える。
太陽の光が辺りをポカポカさせ心地よくさせると、焼餅を焼くように山の風が何処からか白を運んでは黒と緑に吹き付ける。
遠くの方から風に乗って聞こえる鈴の音が里の家々に遅い春を告げて回ると、水で湿った重たい引き戸が開かれる。
黒の上に丸い穴がポツポツそして後ろから、細長く平べったい物が開いた穴を隠すように里の家に向かうと、開けられた家の引き戸から次々に頬を緩ませた人々が出て来て手を振る。
「ばっちゃーん、じっちゃーん♪」と、笑顔で手を振る馬ソリの男と、時折り「ヒヒィーンブルブルブル♪」と、再会を祝う大きな身体のお馬さん。
家の前に止まった馬ソリから次々に降ろされる、味噌塩醤油の入った樽が遅い春を里に届けていた。
「次は秋口に来るからよぉぅ~」と、背を向け手を振る男と、馬の尻尾は左右に揺れていた。