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監視塔の聖女~炎の中、真実を知った少女は復讐を誓う~  作者: ふとんねこ


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第15話.兆しと宣言


「――ふむ」


「報告は以上で~す。ねっ、僕頑張ったよ、魔王様、褒めて褒めて!」


「はいはい、分かっている。お前はいい子だ、セシリージゥ」


 でろでろ溶けながら(比喩ではない)カルラルゥに撫でられるセシリージゥを見ながら、あたしは報告の内容を反芻していた。


『サルザリアが襲来する魔物の観測記録を詳細につけている』


 今まではなかった動きだという。


 カルラルゥは椅子の上で長い足を組み、愉しそうに笑っている。それを隣に立って眺めながらあたしは肩を竦めた。


 流石のサルザリアも気づいたか、と思って。


 最近、カルラルゥの指示でサルザリア大壁に襲撃をかける魔物の数を増やしているのだ。



 魔境で暮らすようになってしばらくしてから知ったことなんだけど、魔物には大きな区分で二種類の魔物がいる。


 それは、魔境の住人として生きている、ある程度知性を持った魔物と、魔境の奥にある『魔の淵』と呼ばれる場所から湧き出る理性のない危険な魔物の二つ。


 それらはその時『魔王』の称号を冠する存在の命令を聞く兵隊蟻のような存在だという。


 サルザリア大壁にぶつけられるのは基本彼らなんだって。

 大陸の南の極地たる魔境に渦巻く太古の魔力から生まれてくる人類の天敵。魔境の続く限り尽きない兵隊ってこと。

 魔王の称号にこんな意味があったなんて。


 それで今、カルラルゥがサルザリア大壁に襲撃をかける魔物の数を増やしている理由は単純明快。


 監視塔の聖女たちを――あたしの知人だった彼女たちの呪いを疲弊させること。


 聖女交代の日、あるいはその直前。サルザリア大壁が最も無防備になって、人類側が緊張感を持つ日が瞬く間に近づくように。



「人と魔物が敵対したままに共存するのが、実はこの大陸で人類が生きるのには正しい在り方なんだ」


「そうなの?」


「サルザリア大壁にぶつけて魔物の適正量を保つ。魔境の人口が溢れて困るのは人間だけじゃない」


 なるほど、とあたしは窓へ目を向けた。


 魔物だって生物だ。生きていくには食料がいるし住むための土地もいる。


 そう考えると『魔王』ってちゃんと王っぽいな。


「――まあ、人類の土地が我等のものになるならば話は別だがな」


「うわびっくりした」


「騒がしいぞ小娘」


 考え事をしていたあたしの真横に突然ヒースラウドが現れて物騒で楽しそうなことを言うので、驚いて半眼で見上げると通常通りの「不愉快である」と言いたげな顔で見下ろされた。


「閣下は歴代最強の魔王、いっそのとこ、この大陸を手中に収めてしまえば良いのでは?」


「ふふ、愉しいことを言うじゃないかヒースラウド」


『わあ、魔王様、侵略するの?! 最高!!』


「うわあ……」


 大喜びしているセシリージゥの声が変だなぁと思って見れば彼はカルラルゥの足元で完全に粘液そのままの正体を晒している。

 紫の粘液からぼこぼこ声がするのはとても不思議な光景だ。


「そうだねぇ……」


 配下二人の喜色に満ちた声を受けて、カルラルゥは紫の目を細めた。美しい横顔に妖しい笑みが浮かぶ。


「ララが来た日に考えてはいたんだ。私の逃亡で隙がなくなったはずのサルザリアから逃げた同胞……これは兆しだと思った」


 目を丸くするあたしを、カルラルゥは静謐な光を湛えた目で見上げた。


「私の後、二百年も動かなかった状況に変化が生まれた」


 あたしが、兆し。


「恐らくサルザリアも痺れを切らす頃だろう。同じようなことを話しているかもしれないね」


 そう言ってカルラルゥは足を組み換え、ゆるりと頬杖をついた。


 ヒースラウドとセシリージゥの魔力が沸騰するみたいに熱くなっているのを感じる。

 彼らが信奉する魔王が開戦のときを宣言しようとしているからだ。魔物《彼ら》の時代の訪れをひしひしと感じているからだ。


 反対に、カルラルゥの魔力は冴え冴えと、万年氷の如くに冷えていく。

 あたしも同じ。ついに復讐のときが来るのだと胸の内の憎しみが叫ぶからだ。敵討ちだと心の底の悲哀が吼えるからだ。


 やるの、とあたしは言葉にせずにカルラルゥを見つめた。


「――ああ、やってやろうじゃないか」


 戦だ。復讐だ。誓いを果たす日だ。


「待っていろサルザリア、お前たちが生み出した厄災が、お前たちを蹂躙する日を」


 あたしたちは胸の内から迸る思いを、ただ溢れるままに叫んだ。


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