第9話 猛将の祟候虎と仁義の姫昌の意見対立、他の二大諸侯はほのぼの
初めまして!原 海象と申します。
今回は有名な『封神演義』の編集・アレンジバージョン『封神伝』を投稿致しました。
「封神演義」は明代以前に発行された神魔小説で、今の形になったのは明代の編者 許仲琳によって現在の形になりました。また漫画やアニメとなったのは安能務先生の封神演義版によって一代ブームとなり、皆様のよく知っている形となりました。原作と安能務先生の翻訳ではかなり違いがありますが、ライト小説らしくできるだけ読みやすいようにしております。
<封神伝>
第9話 猛将の祟候虎と仁義の姫昌の意見対立、他の二大諸侯はほのぼの
紂王はしばらく考えたのち、魯雄の案を取り上げ、西伯候と北伯候の二名に
割符と斧鉞を与えて遠征させることにしました。
そして、使者にその詔勅を手に顕慶殿に向かった。
このとき、四人の大諸侯と二名の丞相は、まだ宴会の途中であった。
そこへ突然、天子の使者が現れたので一同は何事だろうと驚いた。
「西伯候、北伯候、天子の詔勅である」二伯候は席を立ちひざまずいた。
詔勅の内容に曰く、
冠と履の分は厳しく、仕君の道は二つないと聞く。これらいずれも尊と卑を定め、任用の便としたもの。いま大逆非道の蘇護なる者、狂いて無礼をはたらき、殿に立ち君に逆らい、紀綱を失った。とくに赦し帰国させたが後悔せず、敢えて午門に詩をしたため、叛意を示した。その罪は赦されがたし。よって汝ら姫昌・祟候虎に節鉞を与える。便宣に事を運び、その忤を恁し、寛縦することなかれ。その罪、帰すべきところあり。よってここに汝らを往かせることを詔示する。これを尊守せよ
使者が詔勅を読み終えると、二人の大諸侯は礼を述べて立ち上がった
。姫昌は丞相二人と他の大諸侯三人に語った。
「蘇護殿は陛下に拝礼に来てまだ朝廷にもまいらず、
陛下にもお会いしていないのに、詔勅に『殿に立ち君に逆らう』とあったのは、いったいどういうことなのだろう?
そもそも蘇護殿は忠義の人で戦功も多い。午門での詩のことは、きっと偽りではないかと思う。
陛下は何者かの讒言を聞きいれ、功ある臣下を討伐させようとしているのではない
だろうか。これでは天下の諸侯は納得しないだろう。
申し訳ないが、商容殿、比干殿、明朝入朝して、陛下に蘇護殿がいったい何の罪を犯したのか
ご確認頂けないだろうか?
理由のあることなら蘇護殿を討伐いたしましょう。
しかし、もしそうでないなら、うかうかと討伐に向かうわけにはいけません」
「それはもっともなことです」
と比干が答えた。
しかし、傍らから北伯候祟候虎が異を称える。
「すでに詔勅が下ったいま、その命に誰が背こうというのでしょうか?
蘇殿の午門の詩の件には、かならず根拠があるはずだ。
陛下が理由もなくこのようなことを言われるわけがないだろう。
仮に八百諸侯が君主の命に従わず、勝手に振る舞えばどうなる。
君主の命は意味をなくし、天下大乱が引きおこることが必定ではないか?」
これに対して姫昌は反論した。
「それはごもっともです。しかし、やはりある一面の理屈でしかない。
蘇殿は忠良の臣で、国に尽くし、民の教化に努め、兵を率いて戦で武功を立て、
数年来過ちを犯したことがない。それを今、陛下が何者かに惑わされ、忠臣の
罪を問うなどと言うことになれば、これは国が乱れる兆しというもの。
正しい理由のない出兵や討伐は、太平の世に起こるべきものではない」
だが、姫昌の講釈に祟候虎は開き直って言った。
「もっともらしげに言いながら、貴候は明らさまに、君命を軽視している。
君命であればやむを得ぬ。すでに君命は下ったのだ。
あえてそれに逆らい、欺君の罪を犯そうとなら、それは別だが?」
祟候虎の言葉には棘がある。もはや議論の余地はなかった。
姫昌は言った。
「わかった。では、貴公は先に軍を率いて出立されるがよい。
私の軍はその後に続くこととしよう」
それで、その場は解散となった。姫昌は商容と比干に言った。
「祟候虎殿は先に出発されるが、私はまず西岐に戻り、軍を率いてそれに続くつもりです」