第82話 姜子牙 独断専行し文王を病気にさせる
初めまして!原 海象と申します。
今回は有名な『封神演義』の編集・アレンジバージョン『封神伝』を投稿致しました。
「封神演義」は明代以前に発行された神魔小説で、今の形になったのは明代の編者 許仲琳によって現在の形になりました。また漫画やアニメとなったのは安能務先生の封神演義版によって一代ブームとなり、皆様のよく知っている形となりました。原作と安能務先生の翻訳ではかなり違いがありますが、ライト小説らしくできるだけ読みやすいようにしております。
<封神伝>
第82話 姜子牙 独断専行し文王を病気にさせる
祟黒虎は崇侯虎親子を連行して周営にやってきた。轅門で、崇侯虎は妻の李氏と娘が立っているのを見た。崇侯虎親子は大声で泣き出した。
「肉親の弟に兄が陥れられるなど知っていたなら、一族が滅んだほうがどれほどましか!」
祟黒虎が轅門に来ると、馬から降りた。斥候が中軍に報告し、姜子牙がすぐに通すように命じる。祟黒虎は幕舎に入り、姜子牙に拝礼をした。姜子牙は急いで巣黒虎を出迎えた。
「賢候、大徳をもって悪党を除かれましたな。これぞ天下の英雄というものです」
と心からたたえた。
祟黒虎は恐縮して身をかがめて言った。
「丞相の御恩に感化され、肝胆を照らしあい、ご命令どおりにしたまでのこと。捕らえた不仁の兄は轅門で文王さまと丞相殿のご裁決をお待ちしております」
姜子牙は文王をお呼びするように命じた。まもなくすると文王が幕舎に入ってきた。祟黒虎は礼をして「大王さま」と呼びかけた。文王は幕舎に祟黒虎がいることに気づいた。
「おおっ!祟家の次男ではないか。なんの用事で来られたのだ?」
祟黒虎は答えた。
「残念なことに、兄は天命に逆らい、悪事をはたらき、不仁を行い、善良な人々を残虐に苦しめました。その不仁なる兄を捕らえ、轅門まで連行してきました。いま文王さまと丞相殿のご裁決をお待ちしております」
祟黒虎の言葉に文王は、肉親の兄弟であるのに、一族に反逆することは不義ではないか、と不快に思った。しかし、そばにいた姜子牙は文王の考えを悟って言った。
「崇侯虎の不仁は明らかです。祟黒虎殿がご命令に従い、骨肉の関係を顧みず反逆者を討伐いたしました。これこそ真の賢臣というものです。天下の者は崇侯虎を恨み、その肉を引き裂いて、かみ砕きたいほどです。しかし、崇侯虎を捕らえたいま、今度は祟黒虎の賢明なることが世に広がり、人々は喜ぶに違いありません。善し悪し賢愚は一例で論じるわけにはまいりません」
姜子牙は崇侯虎親子を連れてくるように命じた。諸兵士が、群がるようにして崇侯虎親子を中軍に引きずりだし、ひざまずかせる。崇侯虎は顔を上げると、中央には文王が、左には姜子牙、右に祟黒虎が立っていた。
「崇侯虎は悪事の限りを尽くして、今日は自ら天の罰を受けるのだ。言い訳することがあろうか」姜子牙はそう言い放った。しかし、文王は極刑だけは避けたいと思っていた。しかし、姜子牙は文王の心中を察して、この二人を処刑して、首を持ってまいれ!と命じた。すぐに司法官が二人を外に連れ出し、崇侯虎親子の首を斬り落とした。司法官はその首を持っていき文王に献上した。文王は献上された首級を見て肝を潰し、袖で顔をおおった。
姜子牙は轅門にさらし首にせよと命じた。そして姜子牙は祟黒虎に言った。
「そなたの兄は悪を極めたが、妻とは関係ない。ましてや姓も違うし、悪事をはたらいたわけでもない。君候は義姉と姪を別邸に住まわせ、衣食の面倒をみてやり不憫のないよう計らってやってくだされ。曹州はいましばらく他の将に守らせ、この崇城において、すべてを怠りなく取り計らってください」
祟黒虎は言われたとおり、兄嫁や姪を釈放した。そして、文王に城に入って府の倉、住民の戸籍を確認するように求めた。しかし、文王は「賢候の兄上が死んだあと、賢候が崇城の管理に当たるべきである。わしが行く必要はないでしょう」と祟黒虎の提案を断った。
そうこうして、文王は西岐に帰還するため祟黒虎に別れを告げた。崇黒虎は再三引きとめたが、文王はきかなかった。文王、姜子牙は祟黒虎に別れを告げ、兵を率いて西岐に帰還して行った。
しかし、文王は崇侯虎の生首を見たときから心が落ちつかず、いつも暗い顔をしていた。帰途についたときも食欲がなく、よく眠ることもできない。目を閉じると崇侯虎の姿が目の前に浮かび、驚いて目を覚ましてしまい、とうとう病気になってしまった。
兵は西岐にいたり、文武諸官が文王を迎えて入宮した。文王は医者にかかり、薬を飲んだが、病はいっこうに治らなかった。
そのころ、祟黒虎は周営に渡した兄が文王に親子そろって梟首されたので、祟城をそのまま治めることになった。この一部始終を朝歌から派遣された間者に知られて、このことは朝歌に報告された。
そして文書官の微子は奏章を見て北方の一帯が朝歌の支配下でなくなったことを知り、喜びと憂いで複雑な気持ちになった。罪の大きい崇侯虎が死んだのは当然のことで喜ばしいほどであったが、祟城がほかの者の手に渡ってしまったことが不安だった。
これは良策とはいえない。姫昌が勝手に討伐を行ったのは、商の力を弱めることを狙ったのではないか。これは重大なことだ。陛下に報告しないわけにはいかない。
と、微子は奏章を手に紂王を訪ねた。紂王は報告を見ると顔をこわばらせた。
「崇侯虎は何度も大きな功績を立てている。それが謀反の臣に殺されたとは、まったく憎むべきことだ。ただちに将兵を集め、まず西岐を討伐し、曹州候祟黒虎を捕らえ不臣の罪を正してやれ!」
これを聞いた大夫の李仁が、一歩前に出て進言した。
「崇侯虎は、陛下のために大きな功績があるかもしれませんが、万民にとっては憎き者。諸侯の恨みを買い、だれもが歯ぎしりし、人々の心に傷を負っています。いま文王さまによって鎮められ、天下はこれを謳歌しております。このようなときに、そのようなことをなさっては、諸侯の疑惑が増すばかりです。このことは、きちんと計画を立てて解決したほうがよいと存じます。もし行動が行きすぎれば、文武も陛下が悪者をかばい、諸侯を軽くあしらっていると思うでしょう。崇侯虎さまは死にましたが、これは疥癬のようなもの。天下の東と南にはもっと大きな問題が山となっています。陛下のご裁決にお任せします」
紂王は、これを聞いてしばらく考えこんでいたが、やがて考えを改めた。




