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封 神 伝  作者: 原 海象
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第79話 紂王 牡丹亭にて宴会し、妲己原形を現し神鷹に襲われる

初めまして!原 海象と申します。


今回は有名な『封神演義』の編集・アレンジバージョン『封神伝』を投稿致しました。


「封神演義」は明代以前に発行された神魔小説で、今の形になったのは明代の編者 許仲琳によって現在の形になりました。また漫画やアニメとなったのは安能務先生の封神演義版によって一代ブームとなり、皆様のよく知っている形となりました。原作と安能務先生の翻訳ではかなり違いがありますが、ライト小説らしくできるだけ読みやすいようにしております。


<封神伝>


第79話 紂王 牡丹亭にて宴会し、妲己原形を現し神鷹に襲われる



紂王は、目の上のたんこぶであった聞仲が出兵したことにより、心晴れ晴れとして文武百官とともに九間大殿に戻った。衆官は立って待っていた。紂王は早速、王命を伝えた。

「費仲と尤渾を釈放せよ」

そのとき、親族である微子が進みでて進言した。

「費仲と尤渾は、聞太師が陳情して獄につなぎ、取り調べを待っているものです。いま、太師が出兵していくときも経たないうちに、釈放するのはどうかと思いますが……」

紂王は言った。

「いや、もともと費仲と尤渾には罪はない。聞太師が陳情して罪に陥れたようなものだ。それを余が知らないとでも思っているのか。王伯も先入観を持って忠良を陥れたりせぬことだな」

こう言われ、微子は黙って殿上を下りた。まもなく、二人は釈放され、もとの官職につき、朝廷にとどまり紂王に仕えた。紂王は聞太師が遠征の途についていることもあり、安心してだれにはばかることもなく自由に振る舞った。



*****



時は三春の時候、景色も雅びとなり、御園の牡丹も満開となった。そこで紂王は

「百官ともども御花園に牡丹を鑑賞し、君臣同楽の伝統を継ぎ、虞廷ぐていにまねき、詩歌の継ぎ歌いをして喜びの盛事となす」と王命を伝えさせた。


文武百官は王命を受けて、紂王に従って花園に入った。御花園のすばらしさは、まさにこの世のものとは思えないほどであった。百官は君主につき添い、御園の牡丹亭に入ると、そこには九竜宴席が用意されていた。文武百官は階級の順に席に着き、尊卑の違いでそれぞれ礼をした。紂王は御書閣で妲己と胡喜媚こきびを伴い、ともに大杯に酒を注ぎ大いに飲んだ。


一方で牡丹亭では、武成王黄飛虎が微子、箕子きしの両名に語っていた。

「いま、兵士たちは縦横に駆け巡り、戦火は四方に起きている。こんなときに優雅に牡丹宴などを楽しむ気持ちになれるはけがない。陛下ははたして過ちを改め、善を行うことができるのであろうか。辺境ののろしが消え、反逆者を滅ぼし、凶悪を除いてこそ、初めて唐虞とうぐをともに楽しみ、太平の福を享受できるというものだ。もし改めないのならば、このような日は少なく、憂いる日が長くなるだろう」

微子、箕子きしの二人もこれを聞き、ただうなずいて嘆くばかりだった。



衆官は正午まで飲み続けた。そろそろお開きになり百官は御書閣まで足を運び,紂王に別れの礼に来る。ある官は「百官、君主の恩に感謝致します」と声高らかに叫んだ。

紂王は「感謝など水臭い、余が自ら相手をすること伝えよ」とご機嫌であった。


百官は紂王が同席すると聞いて帰るわけにはいかなくなった。仕方がなく恭しく待っている。紂王は自ら牡丹亭に姿を現し、一席を置いて衆臣とともに歓声を上げた。

音楽が奏でられ、君臣は盃を交わした。


****


知らず知らずのうちに日が暮れた。紂王は蝋燭をともすように命じた。笙歌しょうかがとどろき、その観楽ぶりはいつものにぎやかさに倍するものだった。二鼓の刻が近づいたころ、御書閣にいた妲己と胡喜媚は天子の酒に酔い潰れ、竜床に寝ていた。

三更になって、妲己は何を思ったのか原形を現し、人間を食べようと竜床から出てきた。一陣の怪しげな風が吹き、土やちりを巻き上げ、牡丹亭を揺らす。

衆官はあっけにとられて見ていると,酒を持った侍従が「妖怪が出た!」と悲鳴を上げた。


黄飛虎は、この一声で酔いも半分醒め、立ち上がって席を外した。

見ると、果たして何かが寒露の中をこっちにやってくる。



その目、金灯に似て姿特別

尾は長く爪鋭く体短し

襲い掛かる姿、山を登る虎に似て

その顔、獲物を捕らえんとする

妖怪はよく人の気魄きはくを犯し

妖魔常に血を吸い、首を飲む

凝視して詳細にそのすがたを見るや

まさしくそれは中山の一老狐なり



黄飛虎が酒を手に席を外したところへ、その妖怪は襲いかかってきた。黄飛虎の手中に得物はない。とっさに牡丹亭の欄干をつかんで引きはがし、その老狐めがけて打ち付けた。が、老狐はすばしこく身をかわして、なおも襲い掛かった

黄飛虎は左右の者に叫んだ。

「北海より得た金眼の神鷹しんようを放せ!」

左右の者は、慌てて赤い鳥籠を開けて神鷹を放った。神鷹は羽ばたいて飛びたつと、両目を光らせ、老狐めがけて襲い掛かった。その鋼のかぎのような爪に、老狐は一瞬取り押さえられたが、あっという間に、太湖石たいこせきの下に潜って逃げてしまった。


紂王はこの様子を目の当たりにして、ただちに石の下を掘らせるように命じた。すると、二,三尺下に無数の人骨が積み重なっている。紂王もさすがにこれに驚いた。


諫官が妖気宮中に満ち、災いの星が天下にあまねくと言っていたが、あれは事実だったのか


そう思うと、浮きたっていた気分もいっぺんに吹っ飛んでしまった。

百官はみな席を外し、礼を言って退朝しそれぞれの邸宅に戻って行った。


さて、妲己は、酒を飲みすぎて原形を現したあげく、不意に神鷹につかまれ、顔や身体に傷を負ってしまった。驚いて御書閣に戻り後悔したが遅かった。

紂王は御書閣に戻ってくると、妲己の顔の傷に気がついてたずねた。

「正宮の顔の傷はいかがしたのだ?」

妲己は枕辺で答えた。

「陛下が臣下とともにお飲みになっていたとき、私一人で海棠かいどうの下を歩いていましたところ、枝が折れて落ちてきて、顔に当たったのでございます」

紂王は心配そうに言った。

「そうか。これからは御園に行ってはならんぞ。あそこには本当に妖怪がいるのだ。余と臣下が三更のころまで酒を飲んでいたとき、老狐が一匹襲い掛かってきた。黄飛虎が欄干を外して太刀打ちしたが、逃げようとしない。北海から持ちかえったという金眼神鷹を放し、襲わせたのだが、傷を負わせたのみで逃げられてしまった。神鷹の爪先にいまでも血と毛が残っておった」

紂王は妲己に語り聞かせていたが、よもや自分がその狐と同じ床に寝ているなどとは夢にも思わない。

これ以降から妲己は、武成王黄飛虎を深く恨むようになった

私が何をしたというのだ。よくも私を殺そうとしたな。このまま放っておかぬぞ。


妲己は黄飛虎が神鷹を放って自分に害を与えたことを恨みに思って、黄飛虎に復讐の機会を狙っていたのであった。


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