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封 神 伝  作者: 原 海象
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第77話 聞仲 凱旋パーティーの主賓が苦情係になる

初めまして!原 海象と申します。


今回は有名な『封神演義』の編集・アレンジバージョン『封神伝』を投稿致しました。


「封神演義」は明代以前に発行された神魔小説で、今の形になったのは明代の編者 許仲琳によって現在の形になりました。また漫画やアニメとなったのは安能務先生の封神演義版によって一代ブームとなり、皆様のよく知っている形となりました。原作と安能務先生の翻訳ではかなり違いがありますが、ライト小説らしくできるだけ読みやすいようにしております。


<封神伝>


第77話 聞仲 凱旋パーティーの主賓が苦情係になる


聞仲は黒麒麟こくきりんに乗って北門に向かうとき

紙の旗がひるがえっているのを見て先に斥候していた者に聞いた。

「あの棺の者は誰だ?」

斥候の者は答えた。

「亜相の比干様です」

「え!老殿下が、なぜ?」

葬礼には亜相のものが亡くなったなら宰相府にて葬儀がおこなわれるが、亜相の身分の者がこのような北門のお粗末な小屋で葬儀などと考えていると、そうこうして聞太師が北門に来ると武成王黄飛虎が出迎えたに来た。

「聞太師、お疲れのところ恐縮ですが、下乗をお願います」

黄飛虎はニコリともせず、淡々と言った。

「一言には尽くしがたいことです。まずは線香でもあげてください」

と言って黄飛虎が先に立って歩き出す。二人が小屋に入ると、比干の遺子 微子徳が聞仲の足に抱きついて号泣した。黄飛虎がそっと微子徳を抱き起す。口を閉ざして聞仲は顔を歪んで、目から涙が流れた。


そして聞仲と黄飛虎は肩を並べ小屋を出た。歩きながら黄飛虎が聞仲に、比干の死をかいつまんで話した。

聞仲は驚かずにいられなかった。城内に入ると、そびえ立つ鹿台ろくだいが目に入る。午門に着くと、百官が両側に並んで出迎えた。聞仲は黒麒麟こくきりんから降りると、百官に動揺が立たないように笑いながら言った。

「大夫、将軍各位。聞仲が北海まで遠征し、朝歌を離れること十数年、その間、城内の景色がずいぶんと変わったものですな」


黄飛虎が進み出た。

「聞太師が北征中にて、天下の乱れ、朝政の荒廃、諸侯の離反のことはご存じかな?」


聞仲は深々とうなずいた。

「年々、月々知らせは受けている。幾度も途中で遠征を打ち切って帰城しようと考えたが、実は妙な妖怪どもが入れ替わり立ち代わり現れて、進むに進めず、退くに退けなかった。それで思わぬ歳月が経過したのだ。そのため北海をなかなか平定できず。いまようやく天地のご恩と陛下の威福によって北海の災いの種を滅ぼすことができた。私に翼があればすぐにでも朝歌に飛んでいき、陛下のお会いしたい気持ちでいっぱいだった……」



衆官は、聞仲に従って九間大殿に入った。聞太師はそこで、天子の机の上が、砂ぼこりが積もっているのを見た。すべて清涼としている。殿内の東を見ると、黄金色に輝く大きな柱が立っているのを見た。聞太師は従僕に聞いた。

「この黄金色に輝く柱を、なぜ殿内に置いているのか?」

従僕はひざまずいて答えた。

「この大柱は、新しい刑具で名を炮烙ほうらくと申します」

炮烙ほうらくとはどういう意味だ」

返答に困っている従僕に代わって黄飛虎が答えた。

「聞太師、この刑具は天子を諫める官が事を阻み、天子の過ちを指摘し、天子の不仁を説き、天子の不義を正したとき、焙烙ほうらくに火を焚き赤く熱して、忠義の者を灰と化するまで焼くのです。この刑具のために、忠良は隠居し、賢者は職を辞退し、能ある者は他国に逃げ、忠者は死を賭して節を全うしたのです」


聞仲はこれを聞いて怒りがこみ上げた。額の第三の目がかっと開いた。そして即座に従僕に鐘鼓しょうこを鳴らし、天子においでいただくのだと命じた。百官はこれを聞いておおいに喜んだ。


一方、紂王は比干の心の蔵を煎じ、妲己に飲ませたところ、妲己の病は立ちどころよくなった。紂王は安心して一息をついていたところ護衛兵が紂王に告げた。

「九間殿で鐘鼓しょうこが鳴っております。聞太師が凱旋して天子に上朝するようにお求めでございます」

紂王はこれを聞いて何も言わず、ただ輿こしと玉座の用意をせよとだけ言った。


そして、御者、護衛などに囲まれて九間大殿に登った。百官が朝賀する。聞太師は入ってきて礼をし、型通りに、天子の長寿を祝って、万歳。万歳、万々歳と唱えた。


紂王が聞太師に声をかけた。

「聞太師は北海まで遠征し、身も心も疲れたことであろう。指揮に一糸の過ちもなく、今日凱旋された。その功績はたたえるべきだな。凱旋して嬉しく思うぞ」


聞太師はひれ伏したまま言った。

「これもすべて天威によるもの。陛下の盛運のたまものです。妖怪を滅ぼし、征伐すること十数年、先王に申し訳ないことをしてはならにと思い臣身を捧げ国事に尽力しました。

ところで、外にいるとき、内廷が乱れ諸侯が反逆したと聞いたときは、臣の心は両地に傾き羽があればすぐにでも飛んで帰りたいほどでした。そこで天子に直接お伺いいたしますが、天下の大諸侯の反乱は、これらはすべて事実なのですか?」


紂王は言う。

姜桓楚きょうかんそが王位の簒奪を企て、余を殺そうとした。また、鄂崇禹がくすううも悪を集めて反旗をひるがえした。それゆえ、二人を誅殺した。だが、その息子どもが国法を乱し、各地に行って人々を惑わしている。実にけしからんやつらだ」


紂王の話に、聞太師は問いただした。

「姜桓楚が天子の位を簒奪と、鄂崇禹が謀反には、確かな証拠や誰が証明できますか?」


紂王はこれにはぐっと押し黙る。聞太師は、さらに前に一歩進み出た。

「陛下、臣が北海を平定するのに十数年の歳月をかけなければならなかったのは、何故だとお考えでございますか・朝敵が朝廷の足許を見すかして頑強に抵抗したからでございます。しかも、その北海に跳梁ちょうりょうして、朝廷の権威に挑戦した強敵に遠征軍が苦戦していたとき、天下の諸侯は固唾を呑んで、戦況を注視していたに相違ありません。つまり、そのとき朝廷は鼎の軽重を問われていたのです。それを陛下はご存じないわけはありますまい。にもかかわらず、その危急存亡の時に、陛下はいったい ()()()()()()()()()()()

「…………」

「臣が外で苦戦すること十数年、そのあいだ陛下が仁政を行わず、酒色にふけり、諫める者を滅ぼし、忠臣を殺した。ゆえに、諸侯が反旗を揚げたのではないでしょうか?おたずねしますが殿堂の東にある黄金色のもの、あれはいったいなんなのです?」


「諫めるという口実で余をののしり、忠実をかさにきている者がいるので、炮烙という刑具を設けたのだ」


「臣が帰朝し、入城したとき天にまで届かんばかりの高台が見えましたが、あれはなんなのです?」


「余は夏の暑さが耐えられないので、困っていた。そこで鹿台ろくだいを造って休んでいる高いところの立ち、遠くを眺めれば、目も耳もふさがれることがなくなるというものだからな」


これを聞いた聞太師は不満の色を隠さず、眉間の第三の目を開き、怒りをあらわに堂々と言った。

「陛下、いま四海は荒れ果て、諸侯はいっせいに反逆しております。すべては陛下が諸侯の期待に添わぬことが、離反の患いを生んでいるのです。陛下は昼夜を問わずに色と酒に浸り、土木工事を起こされておられる。民は耐えられず謀反し、軍の食糧は絶たれ兵は四散している。君主が礼をもって臣に当たれば、臣も忠をもって君主に従事するというもの。陛下はいま大宝殿に登り、民を傷つけ諸侯は離反し、民は乱れ、軍は怨んでいます。北海の戦いでは、臣の忠誠により妖党を滅ぼしたものの、陛下が徳政を行わず、ただ酒色におぼれ、この数年、朝綱は大きく変わり、国体が無となったとあれば、臣の苦労も水の泡です。お考え直されよ。臣がいま朝廷に戻ったからには、治国策を考察したのち、再び陳情させていただきます。それまで陛下、どうかご退朝してお引き取りください」


紂王は聞太師の言葉に返す言葉もなく。言われるまま宮殿に戻った。聞太師は殿上に立って言った。

「お集まりの諸官、まだ帰られないでくださらんか。私と一緒に太師府においでいただき、協議にご参加いただきたいのだ」


百官は、太師のあとについて太師府に入り、銀安殿でそれぞれの順位に従い並んで座った。

聞太師は百官に聞いた。


「各位、わたしはながいこと北の地に遠征して、朝内にいなかった。しかし、わたしは先王から紂王を託された身、遺言に背くようなことがあってはならないのです。それがいま、憲章は転倒てんとうし、不道なことも少なくない。各位も公をもって論じ、本当のことを告げて欲しい」


上大夫の孫容そんようが身をかがめて言った。

「太師閣下、陛下の悪行の事実はたくさんあります。もしそれをみなが口々に言っては、太師閣下も整理がつかないと思います。ここはひとつ、武成王殿下に一部始終をお話していただいてはいかがでしょうか」


聞太師はうなずき、黄飛虎に「拝聴しているのでお話してくださらんか」と言った。


黄飛虎は身をかがめた。

「ではご命令に従って、実情をくわしくお話しよう。


後宮に妖気立ちこもると上奏して梟首きょうしゅされた天台官 杜元銑とげんせん

杜元銑とげんせんの処刑を諫止しようとして炮烙にかけられた上大夫梅伯。

冤罪で拷問にかけられて亡くなられた姜王后。巻き添えで斬首されるところを風にさらわれた王太子ご兄弟。

天子の非道を諫言した九間殿の玉柱に撞死とうしした宰相商容。

商容の死に憤激し諫言して炮烙にかけられた上大夫趙啓。

諫言でゆえなく処刑された東伯候きょう 姜桓楚かんそと、そして梟首きょうしゅされた南伯候がく 鄂崇禹すうう

蠆盆たいぼんの刑を諫止しようとして摘星楼から飛び降りた中大夫こう 膠鬲かく

鹿台ろくだい建設を諫止して死罪を賜ったが風にさらわれた上大夫 楊任。

心の蔵の提供を強要されて落命された比干殿下と、その後を追って鹿台ろくだいから飛び降りた下大夫の夏招。


国が振興すれば吉祥現れ、国が滅びれば魔物が盛んになるというが、甘言を信じ、忠良を敵とみなし、その残虐なことは実に異常で、みだらなことは節度がないとしか言えない。  

われらの奏章も紙屑のようなもので、いまや君臣上下は切り離されてしまった。どうしたら良いだろうかと困っていたとき、聞太師が凱旋されたのです。これも国の幸い、万民の幸いと言うものです」


黄飛虎のこの一部始終を聞いた聞太師は、割れるような大声を上げた。

「これほど異常なことがあるだろうか!それもこれも、北海に乱が起こったために、陛下がこのような綱常こうじょうを乱すにいたったのだ。先王に合わせる顔もない。国事の誤りはみなわたしの罪だ。では御一同、これにてお引き取り下さい。二、三日、府門を閉じてゆっくりと文章を練り上げたい。四日後に九間殿にて上朝し、陳情書を渡すつもりです」


そう言って皆を門まで見送ると、聞仲は配下の部将、吉立きちりつ余慶よけいの二将軍を呼んで命じた。

「府門を閉ざし、公文書は受けいれるな。四日後に陛下に面会する。そのあとで門を開け仕事に応じるのだ」と聞仲に言われたとおり府門を閉ざした。





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