第7話 蘇護 紂王に正道を語るが聞き入れなく逆ギレされ死罪を言われる
初めまして!原 海象と申します。
今回は有名な『封神演義』の編集・アレンジバージョン『封神伝』を投稿致しました。
「封神演義」は明代以前に発行された神魔小説で、今の形になったのは明代の編者 許仲琳によって現在の形になりました。また漫画やアニメとなったのは安能務先生の封神演義版によって一代ブームとなり、皆様のよく知っている形となりました。原作と安能務先生の翻訳ではかなり違いがありますが、ライト小説らしくできるだけ読みやすいようにしております。
第7話 蘇護 紂王に正道を語るが聞き入れなく逆ギレされ死罪を言われる
その夜、使者が蘇護の宿泊している屋敷に来て伝えた。
「冀州候蘇護殿、陛下から国政についてご相談があるとのこと。直ちに宮中へ参内せよ」
蘇護は使者に従ってすぐに竜徳殿に参内し、紂王に拝礼して、ひれ伏して言葉を待った。
「蘇卿よ、余の聞くところによると、卿には品行しとやかで、礼儀正しい娘があるそうだな。そこで余はその方の娘を宮中に迎えようと思うのだ。そうなれば卿の身分は王族、天禄と地位を手にして、冀州の守りも安泰、我が世を楽しみ、名を四海に馳せることになり、誰もが卿をうらやむことになるだろう。どうかな?」
蘇護はこれを聞いて、八百諸侯でただ一人、あえて大臣に賄賂を贈らない蘇護のことである。紂王の御前であってもやはり忌憚はなく、厳しい顔で答えた。
「陛下の後宮には上は后妃から下は宮女まであわせて1千を下らぬ美女がおりますのに、それでもご満足なされないのでしょうか?左右の小人のへつらいごとをお取り上げになっては、陛下が不義のそしりを免れぬことになるでしょう。
その上、臣の娘は身分卑しく、とり立てて取り柄もない無作法者。品行・容貌いずれも言うほどのものではありません。陛下どうか天下の大事にお心をお配りください。くだらぬことを勧める小人は斬り捨て、天下後世に陛下が心正しく身を修め、臣下の諫言をききいれ、女色に惑わされぬ君主であることをお示しください。それこそ君主として素晴らしいことではありませんか?」
紂王は大いに笑って言った。
「卿の言いざまはおかしなことばかりだ。昔から今に至るまで、娘を道具に栄達をはかるなど当たり前のこと。ましてや天子の后妃だ。卿の娘は高貴な身分となり、卿自身も天子の外戚となることができるのだ。このような話があるか?そう頑迷になるな。すぐにでも決断するがよい」
蘇護はこの言葉に怒りを感じて大声で怒鳴った。
「君主は、品行正しく国事に尽力を尽くしてこそ、民が服し、自ら従い、また天の恵みも末永く続くというもの。今陛下はご先祖様には学ばず、亡国の傑王にならっておられる。これが滅びの道でなければなんでしょう。君主が色を好むときその国は滅び、大夫が色を好めばその一族は滅び、庶民が色を好めばその身は滅びむというもの。君主は臣下の手本ですから、君主の行いが道を背いていれば、仕える者たちも共謀して悪事に走り、天下の大事など誰も顧みなくなるでしょう。商王朝六百余年の偉業も陛下の手によって終焉を迎えることになりかねませんぞ」
紂王は蘇護の言葉を聞いて逆鱗に触れた。
「黙れ!無礼者。君主が来いと言えば、馬車の仕度を待たずに直ちに参上する。君主が死を与えれば、ただちに死ぬのが臣下というもの。それなのに娘一人を后妃に差し出すことができんとは何事だ!愚かな理屈でこの余にたてつき、亡国の君主呼ばわりするとは!無礼不敬にも程があるわ!こやつを午門から叩き出し、法司に引き渡し尋問の上、断罪せよ」
蘇護は側近の者達に取り押さえられた。そのとき費仲・尤渾の二人が進みでて伏して奉上した。
「聖旨に逆らった蘇護殿は、処刑は当然の措置。しかし、処刑の理由が娘を後宮に入れるのを拒んだことだということが天下に知れわたれば、民は陛下のことを賢臣を軽んじ色を好む、傍若無人な君主と言いたてるでしょう。
ここはひとつ、この者の罪を許して帰国させることです。
そうすれば、蘇護殿も聖恩に感じて自ら娘を宮中に送り、陛下にお仕えさせることができるでしょう。民も臣下の諫言を受け入れ、功ある臣下を大事にする寛大なお方だと思うことでしょう。
これぞ一石二鳥というもの、陛下是非ともご英断を」
紂王は納得し、いくらか怒りを鎮めた。