第66話 雷震子 雲中子の宝貝により改造人間に!
初めまして!原 海象と申します。
今回は有名な『封神演義』の編集・アレンジバージョン『封神伝』を投稿致しました。
「封神演義」は明代以前に発行された神魔小説で、今の形になったのは明代の編者 許仲琳によって現在の形になりました。また漫画やアニメとなったのは安能務先生の封神演義版によって一代ブームとなり、皆様のよく知っている形となりました。原作と安能務先生の翻訳ではかなり違いがありますが、ライト小説らしくできるだけ読みやすいようにしております。
<封神伝>
第66話 雷震子 雲中子の宝貝により改造人間に!
姫昌が宿泊することになっている朝歌の館駅では、夜になっても、館駅官は寝ずに姫昌一向を待ち続けた。しかし、姫昌ら一向に姿を現わさないまま、一夜が明けた。
朝歌の館駅官は、姫昌が一晩中帰ってこないので、心中穏やかでなく、急いで費大夫府に報告した。費大夫府の従者が費仲に告げた。
「西伯候……文王様が昨夜館駅に帰らず、どこへ行ったかわからにそうです。重大なことなので費上大夫様に報告しないわけにはいかないと言って外で待っております」
「わかった。館駅官にはひとまず帰るように伝えろ」
費仲は従者に命じておいて、姫昌の逃亡は自分と関わりのあることだ。さて、どうしたものだろうと考えこんだ。
費仲は側近の者に尤渾殿をお呼びせよと命じた。
しばらくすると、尤渾が慌てて費仲府に駆け付けた。
費仲は挨拶もそこそこに、尤渾に話を切りだした。
「姫昌のやつは、賢弟が陛下に推薦保証して王に封じられた。それはよいが、陛下が三日間の誇官を許したのに、二日目で逃亡してしまった。主命に従わないからには、何か企んでいるのだろう。これはゆゆしきことだ。東と南の反乱が数年続いているときに、姫昌が逃げたなどと言ったら、陛下に憂いを加えることになる。この責任は誰が負えばいいのだ。この件をどのように処理したものだろうか」
尤渾も姫昌が逃亡したという話を聞いて顔を青くして言った。
「仁兄、心配して悩むことはない……。まずは、我ら二人のことを知られないようにすればいいだろう。そこで、まずは陛下に謁見して、将官二人を追手に出してもらい、姫昌を捕らえ、主君を欺いた罪で斬殺してもらえばいい」
二人は相談をまとめると、二人は衣服を整え、さっそく入朝した。紂王は摘星楼で遊興にふけっていた。そこに費仲と尤渾が紂王に拝礼をした。紂王が、何が起こったのだと尋ねた。
費仲は地石に額を叩きつけるように叩頭して言った。
「姫昌は陛下のご厚恩を受けながら、朝廷の命令を守らず、陛下に背きました。誇官二日目にして、聖恩に感謝せず王爵に報いず、何かを企んで密かに逃亡しました。おそらく、郷土に帰って反旗をひるがえすつもりでしょう。わたくしどもは彼を推薦したこともあり、罪になることを恐れてご報告にまいりました。どうしたらよいでしょうか?」
紂王はこれを聞いて激怒した。
「そなたら二人は、姫昌が忠義であり、毎月一日には香を焚き風雨順調、国民安泰を祈っていると申したではないか!余はそのため奴を釈放したのだ。今度のことは、すべて軽率であった卿ら二人の罪だぞ」
尤渾も費仲にならい地石に額を叩きつけるように叩頭して言った。
「昔から、人心ははかりがたく、面と向かっても服従し背後で背き、うわべを知り得ても内心は知り得ずと言われております。姫昌はまだそう遠くへは行っていません。殷破敗将軍と雷開将軍に三千の騎兵を与えて、姫昌を捕らえに行くように命じてください。逃亡した官吏は処罰しなければなりません」
紂王は奉御官に殷破敗と雷開に兵を率いて姫昌を追うように命じた。殷破敗と雷開は、王命を受けると武成王府に赴き、騎馬兵三千を調達し、朝歌の西門を出て姫昌のあとを追った。
そのころ、文王は朝歌を離れたが、文王の進む速度は遅く、殷・雷二将の追う速度が速いので、双方の距離は次第に縮まってきた。文王は背後を振り返ってみると、遠くで砂ぼこりが舞いあがっており、人の叫び声と馬の嘶く声が聞こえたので、追手が来たことがわかった。
姫昌は驚いて魂が抜けたようになり、天を仰いで嘆いた。
「武成王はわしのことを思って忠告してくれたが。わしはついうっかりして夜中に逃げ出した。おそらく、それを知った誰かが紂王に報告し、紂王は逃亡の罪をとがめて追手を差しむけたのだろう。今度捕らわれたら、命が助かる見込みはない。こうなったら馬に鞭打ち、災難から逃れるしかない」
姫昌は愛馬に鞭打ち、疾駆させたが臨潼関まで二十里ほどのところに来たとき、追手が背後まで迫ってきた。
*****
さて時間が数更にさかのぼる。終南山の雲中子は玉柱洞で神気を養っていたところ、突然何かを感じた。雲中子は急いで指を折って占ってみると西伯候が災難にあっていることがわかった。
そうか、西伯候が災難にあい、危険にさらされているのか。今日は彼ら父子の再会の日にあたる。わたしは燕山での約束を守らなければならない。
雲中子は大声を上げて金霞童子を呼び、雷震子呼ぶように命じた。しばらくすると雷震子が現れ、雲中子の前に出ると拝礼した。
雲中子は雷震子に言った。
「雷震子、おまえの父が危険にさらされている。すぐに行って救ってあげなさい」
「師父、僕の父とはだれのことですか?」
「そなたの父親は、西伯候、そう姫昌殿だ。臨潼関で危険に直面している。我が洞の最高傑作の宝貝が虎児崖にある。行って自分に合う武器を探して来なさい。その宝貝の使い方を教えるから、父親を救うのだ」
雷震子は師父の言いつけどおり、洞府を離れて虎児崖に行った。あちこち探したが何もなく、また宝貝とは何を指しているの自体がわからなかった。
雷震子は内心考えた。
武器というならふつう鎗、刀、剣、戟、鞭、斧、爪、錘などだけど、師父のおっしゃる宝貝とはいったいなんだろう。洞内に戻って詳しく聞いたほうがよさそうだ
雷震子が引き返そうとすると、どこからともなく甘い香りが漂ってきた。注意してみると前方に渓流があり、緑葉の下には二つの紅杏が見えたので、雷震子は喜び、険しい山を顧みることもせず、そこまで行って枝をつかみ二つの紅杏をもぎ取った。
雷震子はこの二つの紅杏、一つは自分で食べて、もう一つは師父に持って帰ろうと考えた。しかし、一つ食べてみると、大変美味しかった。そして気づかぬうちにもう一つの方までかじってしまった。
雷震子はどうしたものであろうかと考えたが、結局それも食べてしまった。
紅杏を食べ終えると、再び宝貝を探しはじめた。そのとき、左脇下で音がしたと思うと、いきなり地に届くほどの翼が生えてきた。困りはてて雷震子は両手で翼をつかんで抜こうとした。すると今度は右脇下から翼が生えた。
雷震子は驚き焦ったが、どうしょうもなく地面に座り込んでしまった。
彼の身体は、両脇に翼が生えただけではなく、容貌も変わっていた。鼻は高く、顔色は蒼く、髪は赤く、目は凶暴になり、歯が唇から牙のように飛び出した。その上、背丈も二丈にも伸びた。雷震子は呆然として、口をきくこともできなかった。
そのとき、金霞童子が姿を現し、雷震子に言った。
「師兄、師父がお呼びです」
「見てくれ!こんな姿になってしまったのだ」
「どうしたのですか?」
「虎児崖で宝貝を探して父を助けに行けと師父に命じられた。だけど、宝貝なんて見つからない。かわりに二つの紅杏を見かけたのだが、それを食べたらどうしたわけかこんな姿になってしまったのだ。こんな姿で師父に会いに行けるはずがない」
「そんなことを言わずに早く行ってください。師父がお待ちしております」
雷震子は立ちあがって歩き出したが、翼が地面まで垂れ下がり、格好が悪くて気になってしょうがない。雷震子は、思い悩みながら歩いて玉柱洞まで戻った。
雲中子は雷震子の姿を見ると「奇なるかな、奇なるかな一切衆生悉ことごとく皆な如来の智慧徳相を具有す。ただ妄想執着あるがゆえに証得せず」と喜んだ。そして雷震子にわしについて洞内に来なさいと命じた。
雷震子は、師父に従って桃園に来た。雲中子は一本の金棍を取り出して雷震子に渡した。この金棍は長さ五尺ほどのただの金棍に見えるが金属で出来ているが、中が空洞になって軽い。この空洞には恐るべき陰陽の氣が封じこめられ、雲中子が千五百年をかけて造り上げた必殺の宝貝であった。
「この金棍は使い方を知らなければ、ただの金棍でしかない。しかし上手く使えば、一撃で巨岩をも叩き割り、一振りで巨木をもなぎ倒すことができる」と雲中子は語った。
雷震子は「師父ぜひ、その使い方を教えてください」と言った。こうして雲中子は秘法を皆伝するまで伝授すると、雷震子の二つの翼の左側に風の字を、右側には雷の字を用いて真言を唱え、「疾ッ!」と気合をかけた。
すると、雷震子は空中を舞いあがり。頭を下、足を上にして、翼を広げて飛び回った。空中で雲中子の施した「起風発雷」の術で左翼では風を起こし、右翼では雷をおこせ、風雷の音があたり一面に鳴り響いた。
雷震子は地に舞い降りて師父を平伏して拝礼した。
「師父は、僕が父を救わせるために、道術の秘伝を伝授してくださったのですね。必ずや父上を助け師父のご厚意に報います」
「よし、おまえはすぐに臨潼関に行って、父親の西伯候姫昌殿を救いなさい。急いで行ってすぐに帰ってくるのだ。父親を救い五関を通ったあとは、一緒に西岐に行ってはならない。また、紂王の将兵を傷つけてもならない。おまえが終南山に戻ってきたら、また秘術を伝授するから、しばしのあいだ我慢しておれ、お前たち兄弟が団円する日はかならずやってくる」
話し終えると雲中子は、すぐに行くがいいと促した。
雲中子は洞府を出ると、双翼で空中を駆けぬけ、あっという間に臨潼関まで来た。丘を見つけたのでそこで降り立ち、あたりを見渡したが人影さえない。雷震子は考えこんだ。
「またしくじった!父上がどんな姿の人なのか、師父に聞くのを忘れた。どうしたらいいのだろうか?」
とつぶやきも終わらないうちに、青い笠をかぶり、黒い服を着て、白馬に乗って疾走してくる人物が目に入った。
雷震子は、この人が父上かもしれない、と思い大声で叫んだ。
このとき、文王はだれかが自分を呼ぶ声を聞いて、馬を止めてあたりを見回した。しかし、声が聞こえるだけで姿は見えない。文王は自嘲気味に乾いた笑いをした。
「わしの命もこれまでだ。声だけ聞こえて、誰の姿も見えないとは……。鬼神が戯れているに違いない」
雷震子の顔色が青く、水と同じ色の服を着ていたので、山の色と混同して、老眼の文王にははっきりみえなかったのであった。雷震子は、文王が騎馬を止め、あたりを見渡して何も言わずに立ち去ろうとするのを見てもう一度叫んだ。
「あなたは、西伯候姫昌殿ですか?」
文王が丘を見上げると、青い顔、赤い髪、牙のある口の人物がいる。文王は恐れおののき、気を失いそうになった。しかし、すぐに気をとりなおして考えた。
はて、鬼魅なら人語を話すはずがない。ここまで来たからには、避けることはできない。呼ばれたからには、丘に登ってみよう。もうどうなってもかまわん。
文王は、騎馬で丘に登って尋ねた。
「そこの傑士、なぜわしが姫昌だと知っているのだ?」
雷震子はそれを聞くと、平伏して言った。
「父上、僕が遅れたために父上を危険にあわせしてしまいました。不孝な息子の罪をお許しください」
「傑士、それは何かの間違いであろう。わしはそなたと面識はない。それなのに、なぜわしを父上と呼ぶのだ?」
「僕は、父上にその昔、燕山で拾われた雷震子です」
文王はこれを聞いて大いに驚いた。
「あの赤子か?しかし、なぜそのような姿をしているのだ。息子なら、終南山の雲中子が山に連れていき、いまは七歳になっているはずだ。どうしてここにいるのだ?」
「師父の言いつけに従い、父上を五関から送り出し、追手を退けるためにまいりました」
文王はそれを聞くとひどく驚き、ひそかに考えた。
わしは逃亡したことによって、朝廷に罪を犯している。この息子の顔色からすると、善人ではありえない。雷震子が追手を退けに行ったら、将兵を殺すだろう。そうなったら、わしの罪はさらに重くなる。雷震子に狂暴なことをやめるよう、一言注意をしておかなければ。
文王は雷震子に向かって言った。
「雷震子よ、紂王の将兵に傷を負わせてはならんぞ。彼らは紂王の命により追って来たのだ。わしは紂王の命に背いて逃亡し、すでに紂王の恩を裏切っている。おまえが朝廷の将兵に傷を負わせたら、この父を救うどころか、逆に危害を加えることになりかねんのだ」
「師父も、将兵の命を奪うな、父上を救って五関から送り出すだけにしなさいと申しております。僕は紂王の将兵に引き返すように説得します」
ちょうど、追手の将兵は砂塵を巻き上げ、姫昌を包囲するように、旗をひるがえし、銅鑼や太鼓を鳴らし喚声を上げて、潮のように近づいてくる。
雷震子は、金棍を手にすると両翼を羽ばたいて空中に舞いあがった。それをみた文王は、驚いて腰を抜かしてひっくり返った。
雷震子は追手の将兵の近くまで飛んでいくと、上空から一陣の疾風を起こし、一発の雷を落とし、雷震子は地上に降りた。騎兵隊の馬は嘶き、兵は落馬する。その前方に舞い降りた雷震子は、金棍を手にして大声で叫んだ。
「それよりまえに進むんじゃない!」
前線の兵卒は雷震子の容貌を見て、急いで殷破敗将軍と雷開将軍に報告した。
「将軍、前方に獰猛な悪神がいて、前進することができません」
殷破敗将軍と雷開将軍は一喝して、その兵卒を退けると、ともに騎馬を駆けて前方に行き、雷震子と向かい合った。




