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封 神 伝  作者: 原 海象
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第64話 姫発 費尤にれっつえんじょい山吹色のお菓子!!

初めまして!原 海象と申します。


今回は有名な『封神演義』の編集・アレンジバージョン『封神伝』を投稿致しました。


「封神演義」は明代以前に発行された神魔小説で、今の形になったのは明代の編者 許仲琳によって現在の形になりました。また漫画やアニメとなったのは安能務先生の封神演義版によって一代ブームとなり、皆様のよく知っている形となりました。原作と安能務先生の翻訳ではかなり違いがありますが、ライト小説らしくできるだけ読みやすいようにしております。


<封神伝>


第64話 姫発 費尤に れっつえんじょい 山吹色のお菓子!!


西伯候姫昌は羑里ゆうり城に監禁されていた。ある日のこと、姫昌が琴を弾いていると、弦がいきなり異様な響きを発した。

この音はいったい……。何事が起ったのだろうか?と驚いて呟いた。


姫昌は琴の演奏を中止し、急いで金銭を出して金銭占きんせんせんで占ってみると事の全てがわかった。姫昌は、痛哭してつぶやいた。


「わしの言うことを聞かず、息子は醢尸の刑(身体を切り刻む刑)により砕身の災いにあったか……。息子の肉を食らわなければ、わしも処刑の難を免れることができない。そうかといって、息子の肉を食することなどできるはずがない。哀れで胸が締めつけられる思いで涙さえではしない。だが、この機会を失ったらわし自身の身も危ないのだ」


左右の者は、西伯候の心中を察することができず、黙り込んでいた。

そのとき、朝歌から紂王の王命を受けた使者が来た。

姫昌は「罪臣死罪」と述べ、使者から王命が書かれた書簡を受けとり開いて読んだ。


上座に立った使者は料理を入れた竜鳳 膳盆ぜんぼんを右側に置き王命を伝えた。

「陛下は、西伯候が久しく羑里ゆうりに幽閉されていることを哀れに思っておられる。そこで、昨日、陛下が狩りで鹿や猿などの獲物を採ったので、調理人に肉餅にくへいを作らせ西伯候に賜るように命じた」


姫昌は机の前にひざまずき、膳盆ぜんぼんを開いた。

「陛下が騎馬の苦をいとわず、罪臣のために鹿の肉餅を賜ったことに感謝いたします。陛下の万歳をお祈りします」

姫昌は感謝の言葉を述べると、つづけて三つの肉餅を食べ膳盆ぜんぼんの蓋を閉めた。これを見た使者は西伯候が自分の息子の肉を食べるのを見て、ひそかに眉をひそめた。




西伯候は神のように吉凶を識別できると言われているが、子息の肉を見てまったく気がつかず、うまそうに食べてしまった。いわゆる陰陽吉凶がわかるというのは、すべて虚言であったようだ。




姫昌は、息子の肉と知っていたが、苦痛を忍び、悲しみを隠し、無理に笑顔を見せて使者に告げた。

「使者殿、罪臣は陛下に直接お礼を申すことができません。わたくしの代わって、感謝の言葉を陛下にお伝えください」と言って西伯候は、使者に金子きんすを渡し、跪いて八回拝礼した。


使者は朝歌に帰還し紂王に報告に行った。紂王は顕慶殿けんけいでん費仲ひちゅう尤渾ゆうこんと碁を指しているときに、奉御官が使者が戻ってきたことを報告した。

使者は顕慶殿けんけいでんにやってきて奉上した。

「臣が陛下の王命に基づき肉餅を羑里ゆうりに届けますと西伯候様は感謝して、『姫昌の罪は死に値します。陛下が命を助けてくれたご恩に感謝し、これ以上何も望んでいません。陛下が騎馬の苦をいとわず、罪臣に鹿の肉餅を賜ったことに陛下の寛大なご恩に心から感謝しております』と述べました。そのあと、ひざまずいて膳盆を開け、肉餅を三つ食し、叩頭して感激いたしました。さらに、西伯候様は臣に対して『罪臣は陛下にお会いできないから』と言って八回拝礼し感謝の気持ちを陛下にお伝えするように頼みました」


紂王は使者からの報告を受けると費仲ひちゅうに向かって言った。

「姫昌は、吉凶と禍福を正確に占う術を心得ていることで知られている。ところが、肉餅が自分の息子の肉とは知らず。それを食べるとは……。人の噂を信じてはならんものだ。もう姫昌は監禁して七年になる。奴を赦して国に帰そうかと思うのだが、そなたら二人の考えはどうだ」

費仲ひちゅうは奉じた。

「姫昌の占術は確かです。おそらく息子の肉と知っていながら、食べなければ殺されると思って無理に食したのでしょう。刑を逃れるための方便を信じるわけにはいきません。奸計にかからないように調査すべきです」

「姫昌は息子の肉だと知っていたら、絶対に口にはするまい。彼は大賢だ。息子の肉を食する大賢などいるはずがない」

「いいえ。姫昌はうわべでは忠誠を装っていますが、心では奸計を企んでいます。人々はみな姫昌に騙されています。羑里ゆうりに監禁しておいたほうがよろしいと思います。いまは東と南での反乱が平定してはおりません。この上、奴を西岐に帰したら、さらに災いをもたらしかねません」

こうして奸臣が悪智恵をはたらかしたので西伯候は災難から逃れることはができなかった。


*****


そのころ、伯邑考はくゆうこうの従者は、紂王が公子を肉餅にしたことを知って、その夜のうちに逃げ出し、西岐に着くと第二公子である姫発に会見を求めた。

姫発は伯邑考はくゆうこうにつき従った従者たちを殿内に連れてくるように命じた。従者は涙を流しながら邑考公子は朝歌に朝貢に行くと、羑里ゆうりの西伯候様にお会いせず、陛下にお会いに行きました。そして何事があったか知りませんが、邑考公子は醢尸の刑(身体を切り刻む刑)により肉餅にされてしまったのです」

姫発は話を聞くと声を上げて泣いた。両側に並んでいた文武百官の一人、大将軍の南宮適なんきゅうてきが他の家臣に聞かせるように叫んだ。


「これまで紂王は暗愚とはいえ、我らにとってやはり君主、背くわけにはいかなかった。だが、理由もなく邑考公子を殺されたいま、君臣の絆はとだえ、義を重んじる必要もすでになくなった。朝廷は東と南の両面での反乱に苦戦を続けている。我らは国の法を重んじ、臣の節度を守ってきた。しかし、事ここにいたっては我らも覚悟をする必要がある。文武両班を統師し、傾国の兵をもって五関を奪い、朝歌に侵攻して暗君を殺害し、明君を擁立ようりつしようではないか!

まさに禍乱を平定し、太平をもたらすというもの。

臣としての節度を失うことになるまいと思うが」


南宮適なんきゅうてきの話を聞いて、その場にいた四賢八俊並びに他の者外が一斉に叫んだ。

文武百官は邑考公子の弔い合戦だと口々にいい、眉をつり上げ七間殿内は激情にあふれ、冷静に話し合いをすることを嫌い、すぐに武力を行使したがる臣が多く、姫発にはどうすることもできなかった。


そのとき、上大夫の散宣生さんぎせいが厳しい態度で言った。

「発公子、落ちついてください。お話することがあります」

「散上大夫、何を話すつもりだ」

「まずは南宮適なんきゅうてきを端門に引きだして処刑執行人に斬るようにお命じください。そのあとで大事を相談致します」

これを聞いて慌てて姫発と文武百官は尋ねた。


散宣生さんぎせいは諸将に向かって言った。

「この愚臣は、主君を不義の罪に陥れようとしている。だから、まず大将軍を斬ってから国の大事を相談すべきだと申しあげているのです。諸公の考えは勇猛なだけで無謀すぎる。邑考公子は西伯候様が臣の節度をかたくなに守って、羑里ゆうりに監禁されることを甘んじ、忍耐していることをお忘れになったのですか。我らが事を起こせば、兵が五関にいたらぬうちに、不義をはたらいたということで西伯候様は殺されてしまいます。それを南宮適なんきゅうてき大将軍は何を企んでいるのか。ですから、まず南宮適なんきゅうてき大将軍を斬ってから国の大事を相談するのです」


公子姫発と諸将軍は散宣生さんぎせいの話を聞くと何も言うことができなかった。南大将軍もうなだれ、黙りこんでしまった。

散宣生さんぎせいはさらに話をつづけた。

「あの日、伯邑考はくゆうこうさまはわたしの忠告を聞かなかったので、このようなことになってしまいました。伯邑考はくゆうこうさまは『七年の苦難』を聞き入れなかったので災いをこうむられた。しかも事前に様子を探るようなことをしませんでした。


いま、紂王は費仲ひちゅう尤渾ゆうこんの二賊を信用しております。この二人に賄賂わいろを贈って買収しなかったので伯邑考はくゆうこうさま殺されてしまったと言っても過言でもありません。そこで、とりあえず、官員を二人派遣し、賄賂を贈って、費仲・尤渾二人と私通してはいかがでしょうか?そのあと、わたしが書簡を記して嘆願します。奸臣が賄賂を受け取れば、紂王の前で色々と弁解してくれるでしょうから、おそらく西伯候様は帰国できるようになると思います。


そうして、初めて徳をもって仁政を布き、悪事の限りを尽くしている紂王を討つこととなれば、天下の諸侯も力を貸し、万民も応えることでしょう。そして、暗愚を廃し朝綱を正せば、人々は心服するというもの。さもなければ戦いに敗れ、天下の笑い者になってしまいます」


姫発は感心して言った。

「散上大夫の意見はもっともだ。考えを聞いて、心中の迷いが晴れた。では、どんな贈り物をしたらいのだろうか?また誰を派遣させればよいか?散上大夫に考えがあったら聞かせくれ」

「贈り物は、明珠白壁、黄金玉帯といったもので充分です。二組用意して、一組は太顛たい てん将軍を遣わして費仲ひちゅうに贈り、もう一組は閎夭こう よう将軍をやって尤渾ゆうこんに贈らせるのです。二将軍は夜中に五関を通り、商人に扮してひそかに朝歌に入ってください。費仲・尤渾の二人が贈り物を受け取れば、西伯候様はまもなく帰国できるでしょう」

姫発は大変喜んで、贈り物を用意するように命じた。散宣生さんぎせいは書簡をしたため、二将軍を朝歌に派遣した。



******


太顛たい てん閎夭こう よう将軍は商人に扮装してひそかに贈り物を携えて五関を抜け黄河を渡り猛津もうしんを通って朝歌に着いた。


二人は館駅を避けて旅籠はたごに泊まり、ひそかに贈り物を整理した。そして太顛たい てん将軍は費仲府に、閎夭こう よう将軍は尤渾府に、それぞれ散宣生さんぎせいの書簡を持った。

費仲ひちゅうは日が暮れてから朝廷を出て府邸に帰った。すると守門官が報告した。

「西岐の散宣生さんぎせいが使者をよこし、書簡を届けてきました」

費仲ひちゅうは笑いながら「遅すぎるわ。使者をここに通せ」と言った。


太顛たい てん将軍は庁内に入ると平伏した。

「そなたは何者だ?この夜中に何用があって来たのだ」

太顛たい てんは頭を上げて答えた。

「わたくしは西岐の神武将軍 太顛たいてんと申します。本日は上大夫 散宣生さんぎせいの命により、ささやかながら贈り物を届けにまいりました。費大夫のおかげで主君の命が助かったことに感謝し、それに報いるため、わずかながらお礼を届けにまいりました。散宣生さんぎせいからの書簡がございますのでご覧ください」

と言って籠から明珠白壁、黄金玉帯などの宝物を取り出して見せた。


費仲ひちゅう太顛たい てんに起きるように命じ、散宣生さんぎせいの書簡を読んだ。



西岐卑職散宣生さんぎせい頓首とんしゅ百拝し、費公恩台に書簡を送ります。かねがね貴殿の大徳を耳にしておりますが、いまだご挨拶をする機会がありません。僻地へきちの恩主姫伯が陛下の暴言を吐いた罪は、赦されるものではありません。それが上大夫のお情けにより、命が救われたことを深く感謝しております。羑里ゆうりに監禁されているとはいえ、生きていられるのは上大夫のおかげです。本日将軍の太顛たい てんを派遣しささやかながらお礼の品をお贈り致します。ところで、我が主君は高齢で衰弱しており、長年 羑里ゆうりに監禁され実に痛ましいことであります。しかも老母と幼子がいて再会を願っております。なにとぞお力添えを賜り、老君の帰国が赦されるよう、特別に配慮して頂けることを切に祈っております。西岐の庶民は恩公の徳をわすれることはありません。急ぎ書簡をお許しください。 謹啓




費仲ひちゅうは書簡を読み終えると考えにふけった。

贈り物の明珠白壁、黄金玉帯は万金に値する。さて、どうしたものか……。


しばらく考えたあと、太顛たい てんに言った。

「そなたは帰ったあと、散大夫に礼を述べておいてくれ。返書をしたためるわけにはいかぬが、機会があったら陛下に話し、そなたらの主君が帰国できるようにする。かならず散大夫のご厚意に報いるようにしよう」


太顛たい てんは感謝の言葉を述べて、拝礼し、旅籠に帰った。しばらくすると尤渾府に行っていた閎夭こう よう将軍も戻ってきた。二人は話し合ってみると、双方とも様子は同じだったので、二将軍は喜んで西岐に帰って行った。


一方、費仲ひちゅう散宣生さんぎせいの贈り物を受け取ったことを尤渾ゆうこんには話さなかった。また尤渾ゆうこん費仲ひちゅうには話さず、二人とも何もなかったように振る舞っていた。


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