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封 神 伝  作者: 原 海象
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第61話 姜子牙 道術をもって難民を助ける。善行、善行……?

初めまして!原 海象と申します。


今回は有名な『封神演義』の編集・アレンジバージョン『封神伝』を投稿致しました。


「封神演義」は明代以前に発行された神魔小説で、今の形になったのは明代の編者 許仲琳によって現在の形になりました。また漫画やアニメとなったのは安能務先生の封神演義版によって一代ブームとなり、皆様のよく知っている形となりました。原作と安能務先生の翻訳ではかなり違いがありますが、ライト小説らしくできるだけ読みやすいようにしております。


<封神伝>


第61話 姜子牙 道術をもって難民を助ける。善行、善行……?


姜子牙は荷物をまとめて、出立にのぞんで宋異人夫婦に別れを告げた。

「仁兄ご夫婦にはたいへんお世話になったが、今日はお別れしなければなりません」

宋異人は別れにあたって、姜子牙と酒を酌み交わした。酒を飲み終えると、見送りに出た宋異人は姜子牙に尋ねた。

「それで賢弟はどこに行くつもりなのだ?」

「仁兄と別れたら、西岐に行って事業に携わるつもりでいる」

「西岐に行って、落ち着いたら知らせてくれ。わしも心配せずにすむから」

二人は涙を流して別れた。


姜子牙は宋家荘を離れると、孟津もうしんを経て黄河を渡り、臨潼関りんとうかんまで来た。そこで、姜子牙は朝歌から逃れてきた七、八百人の難民に出会った。涙を流して悲しみに暮れている難民を見て、姜子牙は尋ねた。

「お前たちは朝歌の民か?何故泣いているのだ」

難民の中には姜子牙をしっている者もいて、口々に訴えた。

「大夫様、わたしたちは朝歌の民です。これはすべて天子が鹿台建造の監造官を祟黒虎すうこくこに命じたためです。あの奸臣は、一家に三人いたら二人を、一人だけだったらそれを捕らえ、鹿台の建造工事にかり出します。すでに数万人の人夫が死に、遺体が鹿台に埋められています。わたしたちはその苦しみに耐えきれず、ここまで逃げて来たのです。ところが張総兵が関外に行かせてくれません。もし捕まって連れ戻されたら殺されるに決まっています。それで、どうしたらよいかわからず泣いているのです」

姜子牙は難民を哀れに思い言った。

「泣くことはない。わたしが張総兵と会って、おまえたちを関外に出られるように話してやろう」姜子牙は荷物を彼らに預けて、一人で総兵府に向かった。


すると門番がいてどこから来たのかと尋ねた。姜子牙は殷都の下大夫姜尚が総兵殿に会いに来たと伝えるように頼んだ。

門番は下大夫様が来たということに驚いて急いで張総兵に知らせに行った。

「張総兵様、殷都の下大夫の姜尚様があいさつに見えました」

張総兵は首を傾げて考えた。


下大夫の姜尚が何故来たのだろう?彼は文官で俺は武官だ。彼は朝廷に近く、俺は辺境にいる。いったい何の用だろう


張総兵は、急いで通すように命じた。しばらくすると門番に連れられて姜子牙がやって来た。

いまの姜子牙は道士の身なりで、官服を着ていない。張総兵は姜子牙が道服を着ていたので座ったまま質問をした。

「大夫が何故道服を着ているのだ」

「わたしがここへ来たのはほかでもない。大衆が苦しみから救うためだ。愚かな紂王は妲己の言いなりに土木工事を起こし、鹿台を建造し、その監造官に巣黒虎すうこくこに命じた。彼は食糧や資金を横領し、万民を虐待し、過労で死んだ者を鹿台に埋めている。初めはわたしが鹿台建造の監造官を命じられたのだが、わたしはそれを戒めて諫言した。しかし、紂王は諫言を聞かず逆にわたしを処刑しようとしたのだ。わたしは死をもって爵禄の恩に報いようとしたが、かろうじて郷里に帰ることが許された。その途中、この地を通りかかったところ、大勢の老若男女が嘆き悲しんでいるのを見かけてな。送り帰されたら、彼らは炮烙などの刑に処されるに決まっている。しかし、それではあまりにも哀れだ。その為、わたしは恥を忍んで張総兵殿にお会いして大衆を関外に逃がして頂けるように頼みに来たのだ。もし難民を関外に逃がしてくれれば、死を免れた大衆は将軍の恩に心から感謝するだろう」

張総兵はそれを聞くと、激怒して言った。

「おまえはやはりただの術士だ。高貴の身分になりながら主君の恩に報いることをせず、巧みにわしまで惑わそうとしおって。民を逃がすことは不忠であり、おまえの言うことを聞いたら、わしまで不義者になってしまう。わしは命を受けて関所を守っているのだから、臣としての節をつくさなければならん。逃民は違法であるから本来なら捕らえて朝歌に送り返さなければならない。しかし、この関所を通らなければ彼らは自分で朝歌に帰るだろう。だから命だけは助けてやる。国法に照らせば、貴殿も捕らえて朝歌に送り返すべきだが、今回は初めて事例のことなので許してやる」


張総兵は話しおわると、姜子牙を追い出すように配下に命じた。

総兵府から追い出された姜子牙は、自分の過ちに恥じいった。

大衆は姜子牙が戻ると口々に尋ねた。

「大夫様、張総兵はわたしたちを出関させてくれるのですか?」

「張総兵殿は、わたしも捕らえて朝歌に送り帰すと言っている。わたしの考えが間違っていたようだ」

これを聞きた難民たちはいっせいに泣き出した。姜子牙は見ていられなかった。

「泣くことはない。わたしがそなたたちを五関から送りだしてあげよう」

姜子牙を知らない者は、それを聞いて気休めにすぎないと思っていた。

「大夫様も出関できないのに、どうしてわたしたちを救うことができるのです?」

そこで、姜子牙は難民たちを安心させるために言った。

「五関を出たい者は、夕刻になったら、わたしが目を閉じろと言うから、しっかり目を閉じるのだ。耳の中で風の音がしても目を開いてはならん。目を開くと頭から落ちてしまうからな。万が一そうなっても、わたしを怨まないでくれ」

難民は皆承知した。そして一更のころになった。

姜子牙は崑崙山を望んで拝礼し、口の中で真言を唱えた。すると大きな音が響き、大衆はひゅうひゅうと鳴る風の音を聞いた。姜子牙は道術の土遁の術で難民を救うことにしたのだった。あっという間に四百里を過ぎ汜水関しすいかんを出て金鶏嶺きんけいれいについて、姜子牙が土遁の術を収めると、難民たちは地に降りた。


姜子牙が難民たちに目を開けなさいと言うと一同は目を開いた。

「ここは汜水関しすいかん外の金鶏嶺きんけいれいで、西岐領地だ。安心して行くがいい」

大衆は叩頭して礼を述べると姜子牙は立ち去った。姜子牙はこのときから渓流に身を隠した。

夜が明けてから難民たちがよく見ると、そこはたしかに西岐領内だった。金鶏嶺きんけいれいを超えると首陽山があり、燕山を超え、白柳村を過ぎると西岐山で、さらに七十里行くと西岐城に着く。城内に入ってみると、民は豊かで物資は多く、人々は道を譲り合い志井は穏やかで、いにしえ堯舜ぎょうしゅんの時代を思わせる風情であった。難民たちは書簡を書いて上大夫府に難民の申請を提出した。

散宣生さんぎせいがそれを受け取った。翌日になって西伯候代行の伯邑考はくゆうこうが難民の申請した書簡を読んで命令を下した。


「朝歌の難民が紂王の失政のため当地に来るというなら、妻のいない者には銀を与えて妻を娶らせよ。また、人々に銀子を与えて落ちついたところに住まわせてやれ。身寄りのない者には三済倉さんせいそうに名簿を渡し食糧を支給させるがいい」


散宣生さんぎせいは、そのとおりにとり計らった。

ある日、伯邑考はくゆうこう散宣生さんぎせいに相談した。

「父君が羑里ゆうりに監禁されて七年になる。父君に代わって朝歌に贖罪しょくざいに行こうと思うが、どう思うか」

散宣生さんぎせいは奏上した。

「公子に卒直に申し上げます。それは絶対に賛同しかねます。主君は別離の際、『七年の厄が満ちれば、災難を免れ帰国することになる』と申されました。軽率なことをしたら、主君の離別の教えに背くことになります。公子が不安に思うなら、人を派遣して安否をたずねればよろしい。そうしたところで、自分で駆けつけていって、危険に身をさらすことはありません」


伯邑考はくゆうこうはため息をついて言った。

「いや、父君は七年も異郷に監禁され、肉親にも会えず苦しい思いをされているのだ。子息として忍び難いのは当然だろう。わたしは伝来の家宝三点を携え、朝歌に行って献上し、父君の贖罪をしようと思うのだ」

「堪えがたいのは父子の情からでも君臣の義からでも同様でございます。軽率はお慎しみください」

「子が父を思ってやることが、なぜ軽率なのだ?」

「感情を政治の場に持ち出すことこそ、まさに軽率でございます。この静かな西岐の城で育った公子には、まだ、冷酷な天数(運命)の機微や残忍な政治の魔性をおわかりありません。絶対になりません。思い止まり下さい」と散宣生さんぎせいは断固として反対した。


しかし、伯邑考はくゆうこうは朝歌に行き、父君のために贖罪をすると言う。上大夫の散宣生さんぎせいは忠告したが公子は聞こうともしなかった。


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