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封 神 伝  作者: 原 海象
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第56話 姜子牙 占いは統計学ではありません。

初めまして!原 海象と申します。


今回は有名な「封神演義」の編集・アレンジバージョン『封神伝」を投稿致しました。


「封神演義」は明代以前に発行された神魔小説で、今の形になったのは明代の編者 許仲琳によって現在の形になりました。また漫画やアニメとなったのは日本人の安能務先生の封神演義によって一代ブームとなり、皆様のよく知っている形となりました。原作と安能務先生の翻訳ではかなり違いがありますが、ライト小説らしくできるだけ読みやすいようにしております。


<封神伝>


第56話 姜子牙 占いは統計学ではありません。


姜子牙は宋異人に伴われて、気晴らしのために広い裏庭に行った。あたりを眺めると、そこは素晴らしい庭園だった。ここに入るのは初めてであった。姜子牙はあたりを見回して牡丹亭の裏の一角に目を止めて言った。

「仁兄、この空き地になぜ五間楼ごけんろうを建てないのだ?」

「五間楼を建ててどうする」

「これまで仁兄の恩に報いることができなかったが、これでも私は風水を視ることができる。ここに楼を建て、住まいを移せば風水によると三十六本の玉帯があり、子孫から一升の胡麻の数ほどの顕位高官を輩出することは確実だ」

「賢弟は本当に風水を視ることができるのかね?」

「これでもタオの使徒だからね」

「そうか、実は、さる偉い風水師にも言われて、ここには七,八回楼を建てたのだが、そのたびに建てるとすぐ火の玉が出て火事が起きて焼けてしまう。それで建物を建てるのは諦めたのだ。そのため、いくら素晴らしい風水の恩恵でも、福気フーチーがないのさ」


「私が日どりを選ぶから、仁兄は職人を用意してくれ。そのあいだに、私が邪気を払おう。もう何事も起こりはしないよ」

宋異人は姜子牙の言葉を信じ、日どりを選んで工事を開始した。楼の梁をかける日、宋異人は職人をもてなした。姜子牙は背後に束ねた髪をほどき、牡丹亭に座って、何が起こるかじっと待っていた。


しばらくすると、強風が吹きだし砂塵が舞い上がった。火の光の中に、顔色の違う五匹の獰猛怪異な妖魅ようみが姿を現した。

牡丹亭で待機していた姜子牙は、火の玉の中に豚、犬、猫、鶏、鴨の五匹の妖怪を見つけた。姜子牙は手中の竹剣を抜くと片手で妖怪を指し、竹剣を一振りして叫んだ。

「畜生ども、動いたら切り捨てるぞ」

姜子牙が上げていた手を下ろすと、妖怪たちは地上に降りてきて、ひざまずいて姜子牙に許しを請うた。

「仙人様がおいでとはしりませんでした。どうかお許しください」

「畜生ども。楼に何度も火をつけたのもお前たちだな。その罰として、成敗してやる!」


姜子牙は竹剣を下げて近づき、妖怪を斬ろうとした。すると妖怪たちは哀願した。

「この素晴らしい風水の地に、いつか、我らを祀る廟でも建てて貰おう、と夢見てまいりました。ですから、この上に邸宅を建てられたら廟を建てて貰えなくなります。それだけのことで、邪心があってのことではありません。仙人さま、道心は慈悲深いと言われています。私どもは何年も修行しましたが。一時の迷いから過ちを犯したのです。哀れに思ってお許しください。ここで処刑されたら、数年の苦業が水に流されてしまいます」

五妖怪は地に伏し、何度も哀願した。姜子牙は戒めて言った。

「命を失いたくなければ、ここで万民に危害を加えるようなことをするのでない。お前ら五畜は、私の命に従い西方の岐山に行き、土砂運びをしながら知らせを待て。功績があれば、おのずと報いられる日がこよう」

五妖怪は叩頭して岐山に向かった。


さて、その日の三更時分、宋異人が前堂で職人たちをもてなしているとき、馬氏と宋異人の妻の孫氏は姜子牙の様子を見るため、ひそかに裏庭に行った。二人が裏庭に来ると姜子牙が何か命じている声が聞こえた。馬氏は孫氏の袖を引いて嘆いて言った。

「お聞きになりましたか、あの男、一人で何かぶつぶつとつぶやいています。こんなうだつの上がらない一人でぶつぶつ言うような男が、出世するはずはありません」

馬氏は腹を立て、姜子牙に近づいて問いただした。

「ここで誰と話しをしているのです?」

「女のおまえにわかるはずがない。私は今妖怪を退治していたところだ」

「一人でたわごとを言いながら、妖怪退治などといい加減なことを」

「お前に言ってもわかるまい」

馬氏が更に言いつのろうとすると、姜子牙が言った。

「お前は何も知らないのだ。私は風水を視ることができ、陰陽の術を心得ているのだ」

「あなたは算命(占い)ができるのですか?」

「算命(運命判断)や算数(吉凶判断)なら得意だ。ただ、算命館を開く場所がないだけだ」

話し合っているところで、宋異人がやって来て姜子牙に尋ねた。

「いや、これまで火の玉が現れると火事が起こっておった。火災がおこらないところをみると賢弟が邪気を払ったのだろうか?」


姜子牙が妖怪を退治したことを話すと、宋異人は感謝して言った。

「賢弟にはそんな道術を心得ていたのか。崑崙の四十年の修行は無駄ではなかったのだな」

そこに孫氏が口をはさむ。

「姜子牙殿は算命ができるとのことです。算命館を開く場所がないそうです。貴方、どこか良い場所があったら、算命館を開いてはいかがでしょうか?」

「どれぐらいの広さが必要なのかな?朝歌の南門がもっとも賑やかなので、あのあたりの家を一軒片付けて賢弟の算命館を開いたらいいだろう」


そこで、待童たちが南門の家を片付け、対聯ついれんを貼った。

門外の一幅いっぷくは左側に「只言玄妙一団理」、右側には『説尋常半句虚』とあり、屋内の上席の一幅には『柚里乾神大、壺中日月天』と書かれていた。


姜子牙は吉日を選んで開館した。しかし、開館してから数ヵ月、占いに来る者は一人もいなかった。ある日、劉乾りゅうかんという元は朝歌の名門の出で今では落ちぶれて木こりをしていた。このとき劉乾りゅうかんまきを担いで南門にやって来た。彼は算命館を見かけると、肩から薪を降ろし、対聯ついれんを読んで算命館に入って行った。


部屋の中では姜子牙が机に伏して眠っていたので、劉乾りゅうかんは机を叩いた。姜子牙は驚いて目を覚まし、目をこすって見上げると、身長一丈五尺の目つきの鋭い男が立っていた。姜子牙は何を占えばよいのかな?と尋ねた。劉乾りゅうかんは逆に尋ねた。

「先生にうかがうが『柚里乾神大、壺中日月天』という対聯ついれんはどんな意味があるのですか?」

「『柚里乾神大』とは、過去も未来もなんでも知り得ると言う意味であり、『壺中日月天』とは、不老不死の術を心得ていると言う意味である」


「過去も未来も知り得るなどと大きいことを言うからには、先生の占いは極めて正確なんだろう。一つ俺のことを占ってくれ。当たったら二十文支払うが、当たらなかったらあんたを殴りつけた上で、ここに店を開けないようにしてやるからな」


姜子牙は劉乾に向かって言った。

卦帖けちょうを一つとりなさい」

劉乾は卦帖けちょうをとって渡すと、姜子牙は劉乾に言った。

「この卦は、私の言う通りにしなければならない」

「よし、かならず言う通りにしよう」

「私が卦帖けちょうに四句を書くから、かまわずに行きなさい」


卦帖けちょうには『まっすぐ南に行くと、柳陰に一人の老人がいる。(その老人は)百二十文支払って、饅頭四つと酒二杯をくれてやる』と書いてあった。劉乾はそれを見て言った。


「こんな卦当たるわけないよ。俺は二十年以上も薪を売っているが、いまだかって饅頭をくれたり、酒を飲ませてくれた者はいない。あんたの占いは嘘っぱちだ」

「いいから行ってみろ。絶対の間違いない」

劉乾は薪を担いで南に向かった。すると柳の木陰に立っていた老人が、薪売り、こっちに来てくれと、言った。

劉乾がすごい占いだ。まさに言うとおりだと、内心驚いていると老人は聞いた。

「この薪はいくらだ?」

劉乾は試してみる気になった。占いより二十文少なく百文ですと言った。老人は薪を見てから言った。

「なかなかいい薪だ。よく乾いているし、束も大きい。よし百文で買おう。面倒だから中に運んでくれ」

劉乾は薪を門内に運んだ。そして天秤棒と縄を整理し、代金の支払いを待っていた。すると老人がやって来て言った。

「今日はわしの末っ子が嫁を迎える日なんだよ。まったくいい人に会ってよい薪を買ったもんだ」老人がすぐにまた奥に入っていくと、待童が饅頭四個と、酒一壺、椀一つを持って出てきて劉乾に言った。

「員外が召し上がってくださいと言っております」

劉乾はため息をついて呟いた。


先生は天上の仙人なのか。よし酒をつぐとき一杯目をたくさんつげば、二杯目は足りなくなるだろう。そうすれば占いが完全に当たったとはいえなくなる。


しかし、劉乾が一杯目を椀の縁までなみなみと注いだが、二杯目も同じようにいっぱいになった。酒を飲み終えると、老人が出てきたので劉乾は礼を言った。老人は二封の金を取り出し、まずは百文を劉乾に薪の代金を支払った。また二十文を劉乾に渡して「今日は息子のめでたい日なので、これは心づけだ」と言った。


劉乾は、朝歌城に仙人が現れた、と大変に喜び、天秤棒を手にして姜子牙の算命館に戻って行った。


その頃、占いをしていたときの劉乾の言葉を聞いていた人たちは姜子牙に言った。

「姜先生、あの劉乾は乱暴者だ。占いが当たらないと思ったら、早く逃げた方がいいよ」

これに対して姜子牙はかまわんよ、と言う。そこで皆は劉乾の帰りを待っていた。


しばらくすると、劉乾が矢のように走って戻って来た。姜子牙が占いはどうだったかと尋ねた。

すると劉乾は興奮しながら大声で言った。

「先生は天上の仙人のようだ。占いはどんぴしゃだ。朝歌に先生のような偉い方がいれば、朝歌の万民は吉を知り凶を避けることができるだろう」

「占いが当たったのだから、料金二十文を払ってもらおう」

「いやぁ、二十文なんかじゃ失礼ってもんだ」劉乾は口先だけで金を出そうとしない。

姜子牙は催促する。

「占いが当たらなければ、悪口を言うつもりだっただろう。占いが当たったからには、料金二十文を払ってくれ」

「百二十文すべてあげても少なすぎるくらいですよ。まあ焦らずに、ちょっと待ってください」劉乾は軒下に立って、誰か人が来るのを待った。


すると南門のほうから革帯を締め、布の服を着た男が早足でやってきた。

劉乾は男に近づいて腕をつかんだ。

「何をするのだ!」

「ほかでもないのだがね。算命館であんたの天数(運命)を占ってもらおうと思いましてね」

「私は急ぎの公文書を届けるのだ。占ってもらう暇なんてない」

「ここの先生の占いはすごくよく当たるのです。視てもらいなさい。決して悪いことにはならないから」

「おかしなやつだ!いいと言っているのだ」

劉乾は怒って、視てもらうか、視てもらわんか、はっきり言えと怒鳴った。

男は怒って、お断りだ、と怒鳴り返した。

「よし、じゃあ俺を一緒に河に飛び込んでもらおうか」

劉乾は男を引っ張って河の方へと走りだそうとする。

周囲の者たちがとりなして男に言った。

「劉兄の顔を立てて、占ってもらったらどうかね」

「何事もないのに、何を視てもらったらいいのだ」

劉乾は言った。

「もし当たらなかったら、金は俺が出す。しかし、当たったら俺に酒を振る舞えよ」

劉乾の横暴ぶりに恐れをなした男は、仕方がなく算命館に入って行った。男は公務のために派遣された下級役人で急ぎの用事があるので急いで占うように姜子牙に頼んだ。

姜子牙は、何を占いますかと尋ねた。男は食糧と金の催促ですと答えた。


卦帖けちょうはご自分でご確認なさい。卦はコンと出た。食糧と金は問題がない。相手は百三錠を用意して待っている」

男は卦帖けちょうを受け取り。料金はいくらかと聞いた。劉乾が横から口を出した。

「この卦は、他と違うので銀五銭だ」

「お前は算命先生ではないのに、なんで勝手に料金を決めるのだ?」

「当たらなければ金は返す。銀五銭なんて安いものだ」

公務に差しつかえるのではないかと焦って、男は無言で銀五銭を支払って立ち去った。

劉乾も姜子牙に別れを告げる。姜子牙も劉乾に礼を言った。

しかし、周囲の人たちは姜子牙の算命館の前で、食糧と金の催促の結果がどうなるのか結果を待っていた。

一刻ほど過ぎたころ、男が食糧車を護送して算命館にやって来た。

「先生は、天上の仙人の生まれ変わりだ。金はぴったり百三錠です。一卦銀五銭は決して高くはない!」

こうして姜子牙の名は、このときから朝歌城内に知れ渡り、兵士も庶民も一卦銀五銭で算命してもらいに来た。姜子牙が収入を得るようになってので、馬氏は喜び、宋異人もこれで安心した。


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