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封 神 伝  作者: 原 海象
54/84

第54話 姜子牙 崑崙山の元始天尊から蹴り出される。

初めまして!原 海象と申します。


今回は有名な『封神演義』の編集・アレンジバージョン『封神伝』を投稿致しました。


「封神演義」は明代以前に発行された神魔小説で、今の形になったのは明代の編者 許仲琳によって現在の形になりました。また漫画やアニメとなったのは安能務先生の封神演義版によって一代ブームとなり、皆様のよく知っている形となりました。原作と安能務先生の翻訳ではかなり違いがありますが、ライト小説らしくできるだけ読みやすいようにしております。


<封神伝>


第54話 姜子牙 崑崙山の元始天尊から蹴り出される。


さて、崑崙山玉虚宮掌 闡教せんきょうの道法、元始天尊は、それぞれ独立して一山一洞の主となった門下の弟子十二名が浮世を犯した罪で殺罰を受けた為、閉宮して講義をやめた。上帝が仙首十二名を臣に任命したため、闡教せんきょう截教せっきょう、仏教の三教が一緒に論じ、計三百六十五位の神を編成した。また、上四部、下四部の郡星列宿、三山五岳、歩雨奥雲、善悪之神八部に分けた。


 当時、殷が衰え、周が興り、かつ天界に住む仙人が殺生戒を犯したため、元始天尊が封神され姜子牙は将相に任命される。これはその時期がきたのであって、決して偶然ではない。『五百年に一度は王者が生まれ、そのときにはかならず世俗に明るい者がいる』と言われるが、まさにそのとおりであった。


 ある日、元始天尊は八宝雲光座に座って白鶴童子に姜子牙を連れてくるように命じた。白鶴童子は裏庭に行った。そこでは、姜子牙は煉丹炉の前で火加減を見ていた。いつもなら不老不死の霊薬である金丹を練っていたがその炉では、来るべき殺戒に備えて反魂の薬丹が作られていた、炉にくべられる薪炭が松ではなく桃の枝だったことで白鶴童子はそれを知った。

白鶴童子は姜子牙に告げた。「姜 師叔ししゅく老爺ラウエがお呼びです」


姜子牙は急いで宝殿に行き、座前で拝礼した。

「師父、弟子の姜子牙が拝謁にまいりました」

天尊は姜子牙に尋ねた。「お前は崑崙に来て何年になる?」

「私は三十二歳の時に来まして、もう七十二歳になります」


「お前は生まれつき薄運で、仙道に入ることは難しい。だが、俗世間の福運を享受することができる。これから殷が滅び、周が興る。お前は封神されたわしに代わり、下山して盟主を補佐するのだ。将相としてなら、お前の崑崙山における四十年の修行は無駄にはならないだろう。ここはお前が長く住むところではない。用意を整えて早く下山しなさい」




姜子牙は哀願した。

「私は心から仙道をめざしており、苦労を積んでかなりの歳月になります。修行はまだいたりませんが、哀れに思って迷いを指摘し論じてください。崑崙山で苦行を積むことは一向にかまいません。俗世間の富貴にも興味がございません。どうかずっと弟子にしてください」


「だが、それがお前の天数(運命)なのだ。天の教えに従い、背いてはならぬ」

姜子牙は、それでも思いきることができなかった。そのとき南極仙爺なんきょくせんおうが近づいてきて言った。

「姜子牙、この好機を逃してはならない。逃がしたら二度とやってこないぞ。しかも日数は決まっており、避けることはできない。いまお前が下山するが、事が成就すれば、そのときは再び帰ってくることもできよう」


姜子牙には下山しか選択肢はなかった。琴、剣、衣、背嚢はいのうを整理して天尊の前にひざまずいて涙を流し拝別した。

「師父のご命令に従って崑崙山を下山致します。師父、私の将来はどうなるのでしょうか?」

「下山にあたって。八句の詩を贈ろう。後日、霊験が現れるだろう」

そう言って元始天尊は詩を詠みあげた。



二十年は巷間こうかんに苦労すれど

耐えて分を守れば安然とする。

渭水いすいの石にて釣竿を垂らせば

賢者を求める高明自ら訪ねてくる

聖君を補佐する相父となりて

十二年にして兵権を握る

戌甲年に諸侯会盟すれば

封神は十七年目、四年ののちなり



「いまは離れても、またここに帰れる日があるだろう」

姜子牙は天尊に別れの言葉を述べ、他の道士たちにも別れを告げ、背嚢はいのうを携えて玉虚宮から立ち去った。南極仙爺が麒麟崖まで姜子牙を送って前途の無事を祈った。南極仙爺と別れたあと、姜子牙は内心考えた。


 それにしても、わたしには伯父、叔父、兄もいなければ弟、妹、甥、姪もいない。どこに行ったらいいのだろう。これでは樹林を失った鳥も同じだ。わたしにはとどまるところさえない。


考えるうちに、朝歌に義兄弟の交わりを結んだ義兄、宋異人そういじんがいることを思い出し、彼を訪ねることにした。そう考えると姜子牙は土遁の法を用いて、あっという間に朝歌に着いた。そして南門から三十五里の宋家荘へ行った。

宋家荘は昔と変わっておらず、柳の木も残っていた。姜子牙はため息をついて呟いた。

「ここを離れて四十年、風光は変わりないが、人は変わってしまったな」

姜子牙は門前にいた門番の荘童に尋ねた。

「当家の員外はご在宅かな?古い友達の姜子牙が訪ねて来たと伝えてくださらんか」

荘童は員外に古い友人の姜子牙が訪ねて来たことを報告した。

宋異人は帳簿を整理していたが、姜子牙が来たと聞いて信じがたい、といった表情で急いで出迎えた。

「おお間違いなく賢弟だ。心配したぞ、何故数十年も便りをよこさなかったのだ」

「申し訳ない」


二人は手を取り合って草堂に来ると、互いに礼を施し席に着いた。宋異人は話しかけた。

「貴君のことはずっと気にかかっていた。こうして再会できて本当に良かったよ」

「仁兄と別れてから、仙人を志していたのだ。しかし、仙骨がなく願いを遂げることはできなかった。今日こうして貴宅を訪れ、仁兄に会えて、わたしも本当にうれしいよ」

宋異人は急いで食事の支度をするように使用人に命じ、菜食にするか、肉食にするか姜子牙に尋ねた。

「わたしも道士のはしくれ、酒を飲んだり肉を食べたりするわけにはいかん。菜食にしてくれ」

「天上界では『酒は瑶池玉液ようちぎょくえき』といい、天上の仙人も蟠桃ばんとう会に催して、飲むというではないか。まあ、少しぐらい酒を飲んでもかまわんだろう」

「そうだな、仁兄の考えに従うことにしよう」

そう言って二人は酒を酌み交わすこととなった。

「賢弟、崑崙山に行って何十年過ごしたのだ?」

「四十年になる」

「そんなになるのか。崑崙山では何を学んだのか?」

「何も学ばないわけはない。さもなければ、無為に日を過ごしたことになる」

「それでどんな道術を学んだのだ」

「水汲み、水撒き、桃植え、火炊き、煉丹れんたんなどだ」

宋異人はこれを聞いて噴き出した。

「それは使用人のすることではないか。口にするほどのことではない。賢弟、こうして帰ってきたからには、何か事業に携わったらどうだ。出家することはないだろう。よそへは行かずに、私と一緒に住んだらいい。私と君とは知己であり、他人ではないのだからな」

「そうだな」と言って自分の数十年が無為であることを言われ姜子牙は酒を痛飲した。


「ところで、『不孝は三通りあり、子孫断絶がもっとも不孝だ』と言われている。お互いに遠慮えんりょする仲でもない。明日は賢弟の縁談について相談しよう。息子か娘が生まれれば、姜家が断絶することはなくなる」

姜子牙は手を振って断り「仁兄、その件は次の機会に話そう」と言った。

こうして姜子牙と宋異人は夜中まで話し合い、姜子牙はそのまま宋家荘に泊まった。


翌日早朝、宋異人は縁談をまとめるため、驢馬ロバに乗って家荘に行った。馬家荘に着くと荘童が馬員外に宋員外が来訪したことを告げた。

馬員外は宋員外を喜んで出迎えた。

「宋員外、どうした風の吹きまわしですかな」

「あなたの娘さんの縁談のことです」

馬員外は大変喜び、お互いに礼を施し席に着いた。

「縁談というと、相手はどんな人です?」

「東海 許州きょしゅうの者で、姓を姜、名が尚 字が子牙、あだ名を飛熊ひゆうという人物です。私の友人でしてね。いい縁組みだと思って相談にきたのです」

「あなたが仲人になるからには、まちがいないでしょう」

それを聞いて宋異人は懐から黄金四錠を取り出し、結納として差し出した。

馬員外はそれを受け取り、急いで酒席を設け異人をもてなした。

異人は夕刻になって帰途についた。

姜子牙のほうでは、朝からずっと異人の姿が見かけないので荘童に尋ねた。

「員外はどこに出かけられたのか」

「旦那様は、朝早くお出かけになりました。あそらく集金に行ったのでしょう」

しばらくすると、異人が帰宅して驢馬から降りた。姜子牙は急いで出迎えて尋ねた。

「朝からどこに行っていたんだね?」

「賢弟、おめでとう」

「何がめでたいんだ」

「賢弟の縁談をまとめてきた。この上なくふさわしい姻縁だ」

「今日は期日が悪い」

「陰陽無忌、吉人天相だ」

「だれの娘だ」

「馬洪の娘で、才色兼備で賢弟にふさわしい。私の義妹でもある。六十八歳の生娘だ」

宋異人は、酒席を設けて姜子牙を祝福した。酒を飲み終わったあと異人は姜子牙に相談した。

「吉日を選んでめとることにしよう」

「すべて仁兄に任せる。恩は決して忘れないよ」

こうして、姜子牙は吉日を選んで馬氏を娶った。宋異人は酒宴を設け、隣近所の者、縁者、親を招いて婚姻を祝った。


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