第53話 哪吒 燃灯道人の宝貝でBBQにあう
初めまして!原 海象と申します。
今回は有名な『封神演義』の編集・アレンジバージョン『封神伝』を投稿致しました。
「封神演義」は明代以前に発行された神魔小説で、今の形になったのは明代の編者 許仲琳によって現在の形になりました。また漫画やアニメとなったのは安能務先生の封神演義版によって一代ブームとなり、皆様のよく知っている形となりました。原作と安能務先生の翻訳ではかなり違いがありますが、ライト小説らしくできるだけ読みやすいようにしております。
<封神伝>
第53話 哪吒 燃灯道人の宝貝でBBQにあう
しかし、哪吒は急いで洞外に出ると風火輪に乗って李靖を追った。さっき李靖は出たばっかりだから、すぐに追いつくと考え、しばらく追うと、李靖が土遁の術で陳塔関に向かう姿が見えた。
哪吒はそれを見て「李靖、逃げるつもりか!」と叫んだ。
李靖は哪吒の姿を見ると、大いに驚き苦々しげにつぶやいた。
あの道士は約束を破ったのか。わしを先に出立させておいて、哪吒の奴を下山させるという法はない。たいして時が経っていないというのに、あいつにわしを追わせるとはなんというやり方だろう。いったいどうしたらいいのだ
李靖は仕方がなく前方に向かって逃走した。だがまもなく哪吒に追われて逃げ道がなくなった。そのとき。山頂の老師が声を掛けてきた。「山嶺のいるのは李靖か?」
李靖は山頂の老師に答えた。
「そうです、李靖です。今哪吒の奴に追われているのです。老師様、どうかお助けください」
「山に登ってわたしの背後に来なさい。哪吒から助けてやろう」
李靖が山に登って、老師の背後に隠れて荒い息をしていると、哪吒が風火輪で山頂までやってきた。哪吒は二人がたたずんでいるのを目にして冷笑した。
「今度はひどい目に合うことはないだろう」とつぶやいて風火輪で山頂に向かった。
すると老師は哪吒に尋ねた。
「おまえが哪吒か?」
「そうです。老師様は何故李靖を背後にかばうのです?」
「逆に問う。おまえはなぜ執拗に李靖を追うのだ」
哪吒は翠屏山の一件を説明した。すると老師は言った。
「五竜山での問題は解決したのに、なぜまた彼をおうのだ。おまえは約束を破るつもりか」
「放っといてください。どうしたって今日はあいつを捕らえて恨みを晴らしてやるんだ」
「おまえがそう言うなら……。李靖、哪吒と戦ってみてはどうだ」
李靖は恐れをなして答えた。
「老師。こやつは神通力広大でとんでもなく強いのです。とてもかなうはずがありません」
老師は李靖に唾をかけ、手で背中を叩いてから言った。
「そう怖がるでない。戦ってみるがいい。場合によってはわしが助太刀するから恐れるな」李靖は戟を手にして攻撃し、哪吒は火尖鎗を手にして応戦した。親子二人は山頂で五、六十合渡り合った。
李靖の攻撃を受け、哪吒は全身から汗を流し息が荒くなる。李靖の画戟を防ぎながら哪吒はひそかに思った
李靖が僕にかなうはずがない。これはさっき老師が唾をかけ、背中を叩いたことに、きっと何か隠された秘密があるんだろう。よし僕にも考えがある。逃げるふりをして、まずこの老師を刺し殺し、それから李靖を始末しよう。
哪吒は身体を躍らせ、李靖から離れ、老師に向かって鎗をくり出した。すると老師は口を開き、白蓮花を出して槍を受け止めた。老師は李靖にしばらく待つように告げた。
李靖はそれを聞いて、火尖鎗を受け止める。老師は哪吒に問いただした。
「この不孝者め。これはお前たち親子の戦いだろう。わしに怨みがないはずなのに、何故鎗を向けるのだ。わしは白蓮で受け止めることができたからいいが、そうでなければお前に殺されるところだ。これはどういうことだ」
「これまで李靖は僕に全くかなわなかった。それがお前は李靖と僕を戦わせるときに、李靖に唾をかけ、背中を叩いた。このとき陰で何かしたのにまちがいない。それで僕は李靖にかなわなくなったんだ。だから腹いせにお前を刺そうとしたんだ」
「この馬鹿者め!おまえにわしを刺し殺すことができるものか」
哪吒は激怒し、鎗を振りかざして、老師の頭めがけて一突きした。老師は一飛びして傍らに避け、袖を頭上で一振りした。すると祥雲が立ちのぼり、紫霧が立ち込め、哪吒の頭上から玲瓏塔が落ち哪吒を閉じ込めてしまった。
老師は「疾ッ!」と唱え両手で塔を叩くと、塔内に火が噴き出した。太乙真人の宝貝、九竜神火罩と異なり、塔の中で火は火炤を上げて燃えた
哪吒は魂まで焼き殺す三昧真火に焼かれ、悲鳴を上げて助けを求めた。
老師は塔の外から「哪吒、李靖を父親と認めるか」と聞く。哪吒は仕方がなく答えた。
「老師、李靖を父親だということを認めます」
老師は李靖を父親と認めたことから許してやろうと言って「解!」と唱えて玲瓏塔を手中に収めた。
哪吒は目を開けて自分の身体をよく見たが、頭の髪さえ少しも焦げていない。この老師は幻術でも使ったに違いない。ペテンにかけやがった、と考えると腹が煮えくりかえった。哪吒は密かに考えた。そして老師は哪吒に告げた。
「李靖を父親と認めたのだから、これまでに無礼を詫びて彼に叩頭するがいい」
哪吒がなかなかうなずかないと、老師は、また塔に閉じ込めるぞという。哪吒は仕方がなく、怒りを抑えて李靖に頭を下げ拝礼した。しかし、哪吒の顔には不満の気持ちがありありとあった。老師はさらに、李靖を父上と呼ぶように命じた。哪吒はこれには応じなかった。そこで老師は哪吒に言った。
「父上と呼ばないのは、まだ不服だからかな。もう一度玲瓏塔の中で焼かれたいのか?」
哪吒は慌てて父上、僕は罪を認めますと言った。哪吒は口先では父上と呼んだが、内心は不服に思い歯ぎしりをして悔しがり、李靖はいつまでも老師のそばにいられるはずはないだろう。この老師がいなくなったら李靖にこの貸しは倍にして返してやると考えていた。
すると老師は李靖に向かって言った。
「しばらくひざまずいていなさい。この金塔を授け、この秘術を伝えよう。哪吒が服従しなかったら、この金塔を使って三昧真火で焼くようにしたらいい」
哪吒はこれを聞いて心中悲鳴を上げる。老師は哪吒に諭した。
「哪吒、お前たち親子はこれで和解しなさい。今後は一人の主の臣となり、明君を補佐し、事業を成功させることだ。以前のことにこだわってはならない。哪吒、おまえはもう帰りなさい」
哪吒はどうしようもなく、おとなしく乾元山に帰って行った。
李靖は老師にひざまずいて礼を述べた。「老師様は徳を施し、私の危難を救ってくださいました。老師様のお名前を教えてください」
「某は霊鷲山元覚洞に住む燃灯道人というものだ。そなたは修練が足りず、まだ俗世間の富貴を享受しているが、現在、商の紂王は徳を失い、天下は乱れている。そなたは仕官を辞して山谷に隠遁し、しばらく名利を忘れるようにするがいい。周の武王が兵を起こしたら、それを助けて武功を立てるがいい。お前も陳塔関を離れ我が霊鷲山で時節の到来をまて」
李靖は叩首して、陳塔関に帰ったあと霊鷲山に隠遁してしまった。




