第51話 哪吒 改造するならオプションで自爆装置をつけてくれ!
初めまして!原 海象と申します。
今回は有名な『封神演義』の編集・アレンジバージョン『封神伝』を投稿致しました。
「封神演義」は明代以前に発行された神魔小説で、今の形になったのは明代の編者 許仲琳によって現在の形になりました。また漫画やアニメとなったのは安能務先生の封神演義版によって一代ブームとなり、皆様のよく知っている形となりました。原作と安能務先生の翻訳ではかなり違いがありますが、ライト小説らしくできるだけ読みやすいようにしております。
<封神伝>
第51話 哪吒 改造するならオプションで自爆装置をつけてくれ!
哪吒の魂がふわふわと金光洞に漂っているのを見て金霞童子は洞内には入り、太乙真人報告した。「哪吒兄はどういうわけか風に吹かれるとゆらゆらして、まるで魂が抜けているようです」
これを聞いた太乙真人はすぐに原因を察し、急いで洞外にでて哪吒に言った。
「ここはお前が身を寄せるべきところではない。陳塔関に帰って夢に託して母親にこう告げるのだ。『陳塔関から四十里のところに翠屏山がある。山頂に空き地があるから、そこに哪吒 行宮を建ててくれ』とな。三年ほど受香すれば、再び俗世間に戻って来て君主を補佐することができるようになる。急いで陳塔関の母親の元に行け。遅れてはならんぞ」
哪吒は時をおかず乾元山を離れ陳塔関へ向かった。時は既に三更になっていたが、哪吒は香房に入って叫んだ。
母上、息子の哪吒です。僕の魂は宿るところがありません。もし可哀そうだと思ってくださるなら四十里ほど離れた翠屏山に僕のために行宮を建てて、受香させてください。
殷夫人は目を覚まし、夢だと知って声を出して泣き出した。そこに李靖がやって来て、何故泣くのだと尋ねたので、殷夫人は夢に見たことを話した。これを聞いて李靖は殷夫人を叱った。
「おまえは、まだやつのことを思っているのか。やつのために大変な災難にあったのだぞ。『夢は心から生じる』と言われるように、やつのことを思うから夢に見るんだ。気にするんじゃない」 こう言われ殷夫人は口を紡ぐしかなかった。
翌日も、三日目も哪吒は夢に現れた。そうこうすれ殷夫人は目を閉じれば瞼に哪吒の姿が浮かぶまでになった。そうして数日が過ぎた。生前の哪吒は勇猛だったが、死後の哪吒も相変らず利かん気が強いというのか、母親に対して、何日もお願いしているのに、母上は僕の苦しみを知らん顔で行宮を建ててくれない。なら騒ぎ立てて屋敷中を落ちつけなくしてやる。と言いだす始末となった。
殷夫人は夢から覚めると、もうこのことは李靖には話をしなかった。そして、密かに家令を呼んで金を渡し翠屏山に行宮を建て哪吒の神像を造るように命じた。
哪吒は翠屏山で神通力を発揮して、人々の願いを全てかなえたので四方から人民が香を焚きに廟に押し寄せるようになった。光陰矢の如しで、あっという間に半年が過ぎた。ある日、帰営の途中で翠屏山の近くを通った李靖は、多くの老若男女が集まって香を焚いているのを見かけて馬上で問いただした。
すると軍政官が説明した。
「半年ほど前から、一柱の神が求めに応じて願いをかなえ、福をもたらし、災いを除いています。そのため、四方の人民が香を焚きにくるのです」
「その神は何という名だ?」
「哪吒行宮と申しております」李靖はこれを聞いて激怒し、わしは行宮に香を焚きに行く。しばらくまっていろと言って、数人ものを引き連れ軍をそこに設営するように命じた。
李靖が馬に乗って香を焚きに行く山頂に向かうと廟の門には『哪吒行宮』と書かれた額が高くかかっていた。李靖が廟内に入ってみると、哪吒そっくりの神像が中央に置かれ、左右には鬼神像が置かれていた。李靖は哪吒像を指差して罵った。
「この馬鹿者め!おまえは生前に父母を苦しめたばかりではなく、死後も人民を惑わすつもりか」李靖はののしってあと、六陳鞭を振り上げ一鞭で哪吒神像を粉砕してしまった。李靖の怒りはとどまることがなく、左右の鬼神像を蹴り倒し、廟を焼き払うように命じた。そして、香を焚きに来た人々にこれは神ではない。香を焚くことはならん。と言った。これを聞いて人々は恐れをなして、慌てて山を下りて行った。李靖は騎乗したあとも怒りがおさまらなかった。
李靖は陳塔関の師府に戻ると軍を解散させ、自分の屋敷に戻り奥の間にいる殷夫人を怒鳴りつけた。
「お前の産んだ息子は俺に災いをもたらした。それなのに、また領民を誑かす行宮を建ててやったのか。お前は俺がこの玉帯を失わなければ気がすまないのか?当世は謙臣がのさばっており、ましてや俺は費仲・尤渾の二人とも親交がない。このことが朝歌に伝わり俺が邪神を降伏させたとうそぶいている等と奸臣が告げ口でもしたら、これまでの俺の功績は台無しになってしまう。そうなったら、すべてお前のせいだぞ!今日、廟を焼き払ってきた。もし、やつのために廟を再築するようなことをすれば、おまえとは離縁するからな」
*****
その頃、哪吒は行宮にはおらず廟に帰ってみると廟は完全に焼き払われ二柱の鬼神が涙を浮かべて哪吒を出迎えた。哪吒はどうしたのだと聞くと鬼神たちは答えた。
「陳塔関の李靖総兵殿が突然現れ、神像を砕き、廟を焼き払ったのです」
「なんだって?僕はもう肉体を両親に返し、李靖との親子の縁もなくなった。それなのにどうして神像を砕き、廟を焼き払うなんてことをするんだ。住むところがなくなったじゃないか!」哪吒は非常に不愉快に思い、しばらく考えたあと、もう一度乾元山に行ってみることにした。
乾元山に着き洞府まで来ると金霞童子が出迎え、太乙真人のもとに案内してくれた。哪吒は半年余り受香を受けていたので、いくらか原形は回復していた。しかし中途半端に回復しているのを見て太乙真人は、どうして受香をしていないで、何故ここに来たのだと言った。
哪吒はひざまずいて事情を説明した。
「父上に神像を砕かれ、行宮を焼き払われてしまったのです。どうしようもないので師父のもとに訪ねてきました」
「そうか、それは李靖が悪い。お前が肉体を両親に返した以上、翠屏山では彼もおまえとはなんの関係もないのだ。受香しなければおまえは原形を回復することができぬ。もはや姜子牙の下山も迫っている。時間が足りぬ。よかろう。お前に我が道術の秘奥義で原形に復活してやろう」
太乙真人は金霞童子に五蓮池の蓮の花二輪と蓮の葉を三枚取って来るように命じた。
金霞童子は急いで蓮の花と蓮の葉を持ってきて地面に置くと、太乙真人は花萼から花びらをとり、三才の形に並べた。また蓮の茎を三百に折って、蓮の葉を上中下、天地人に基づいて置いた。さらに1粒の金丹をその中央に置き道術を加えて離竜と坺虎に分ける。そうして哪吒の魂をつかむと、荷葉の中に押し付けた。
「疾ッ!哪吒よ!人形の姿に取り戻せ!」
と一喝した。すると蓮花や蓮葉は音が響いて一人の人間に形をつくり跳び起きた。
これが太乙真人の秘奥義で哪吒は全身宝貝、蓮花化身の術であった。
哪吒は師父をみてひざまずく。太乙真人が口を開いた。
「わしも、李靖が神像を打ち砕いたことには非常に心を痛めている」
「師父の前で約束します。必ずや仇を討ってやります」
「よし、わしと一緒に桃園に来るがいい」
桃園に来ると桃の甘い香りがし、亭にはいくつかの宝貝が置かれていた。
それらの宝貝のなかで太乙真人は哪吒に紫色の火や煙を放せる焔形の槍、火尖鎗を伝授した。哪吒はたちまちに火尖鎗を掌握できるようになった。哪吒は仇を討つため下山しようとすると、太乙真人は言った。
「お前はもう火尖鎗を立派に使えこなせるようになった。そこでもう一つ、二輪の風火輪と霊符秘訣を伝授しよう」
さらに、太乙真人は乾坤圏、混天綾、金磚の入った豹皮嚢を哪吒に与えて陳塔関に向かうように命じた。哪吒は師父に礼を述べたあと、両足で風火綸を踏み、手には火尖鎗下げて陳塔関へ向かった。