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封 神 伝  作者: 原 海象
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第50話 太乙 殺戒により石磯を殺し、哪吒は親を守るため自刎する

初めまして!原 海象と申します。


今回は有名な『封神演義』の編集・アレンジバージョン『封神伝』を投稿致しました。


「封神演義」は明代以前に発行された神魔小説で、今の形になったのは明代の編者 許仲琳によって現在の形になりました。また漫画やアニメとなったのは安能務先生の封神演義版によって一代ブームとなり、皆様のよく知っている形となりました。原作と安能務先生の翻訳ではかなり違いがありますが、ライト小説らしくできるだけ読みやすいようにしております。


<封神伝>


第50話 太乙 殺戒により石磯を殺し、哪吒は親を守るため自刎する


李靖は洞内に入って、石磯せっき娘々に拝礼した。石磯娘々が尋ねる。

「碧雲童子を射殺したのは誰だったのだ?」

「わたしの親不孝な息子の哪吒でございました。

娘々のご指示に背かず、すでに洞外につれてきております」


石磯娘々は彩雲童子に哪吒を洞内に入るよう言うように命じた。

哪吒は、洞内から一人の者が出てくるのを見て、ふと思った。


相手をやっつけるには、先手を打つべきだ。ここは石磯娘々の洞符だし、出遅れたらことになる。


そして、哪吒はいきなり乾坤圏けんこんけんを振り上げ投げつけた。彩雲童子は、まさかそんなことが起こるとは思わず、突然、首に乾坤圏を打ち当てられ、あっと悲鳴をあげて息も絶え絶えに倒れた。石磯娘々は外で人が倒れる音を聞いたので慌てて出て来た。


なんと、弟子の彩雲童子が地べたでもがいているではないか。

石磯娘々は哪吒に向かって言った。

「小僧!またも悪事をはたらいて、我が弟子を傷つけるとは」

哪吒が見ると石磯娘々は魚の尾の形をした金の冠をかぶり、赤い八卦の衣をまとっており、手には太阿剣たいあけんを持っている。哪吒は見てとるなり、さっそく乾坤圏を手に戻し、あらためて石磯娘々に投げつけた。


石磯娘々は、哪吒の宝貝が太乙真人の乾坤圏であることを悟る。

さっと石磯娘々は手を伸ばすと、乾坤圏を受け止めてしまった。哪吒は驚き、慌てて今度は混天綾こんてんりょうで石磯娘々を包もうとしたが、娘々は笑って袖を振り上げ混天綾こんてんりょうを袖に中に収めてしまった。


「哪吒!お前の師父の宝貝を持って出してごらん!我が秘術を見せてやるからな」

哪吒は手の中の武器がなくなってしまったので、もう石磯娘々とはたちあえない。身をひるがえし逃げ出した。

「李靖。おまえには関わりのないこと、もう陳塔関に戻りなさい」と、石磯娘々は李靖に言い捨てて、娘々は道術を使い、稲妻が走り、雨が降り、風を吹かせて哪吒のあとを追った。


哪吒は一目散に乾元山の金光洞に逃げ込み、師父の前に跪伏した。

これを見て太乙真人は尋ねた。

「哪吒、何を慌てているんだね?」

「石磯娘々が、僕が娘々の弟子を射殺したと言って剣で殺そうとするのです。応戦したのですが、師父の乾坤圏けんこんけん混天綾こんてんりょうを取れてしまいました。いま、すぐ外まで来ています。ほかにどうしようもなく、師父に助けを求めに来ました」

「この粗忽者め。おまえは裏の桃園に隠れていなさい。わしがなんとかしてみよう」

こうして太乙真人が洞符を出て、洞門に寄りかかって石磯娘々を待っていると、満面に怒りを表し、宝剣を手にした石磯娘々が眉をつりあげやってきた。


そして太乙真人がいるのを見て石磯娘々は一礼をして言った。

「これは道兄。あなたの弟子は、あなたの道術を使って私の弟子を射殺し、そのうえ、乾坤圏と混天綾でわたしを傷つけようとしたのです。おとなしく哪吒を出してくだされば、道兄にどうこう言うつもりはありません。でも、奴をかばうというなら事が大きくなりますよ」


太乙真人は言った。

「哪吒はわしの洞符にいる。出させることは簡単だ。ただ、それには玉虚宮の判断が必要だ。我らタオを掌握する老師にお会いして、お許しが出たなら哪吒をそこもとにお引き渡そう。しかし、哪吒は玉帝の聖旨に基づき人界に生まれ、聖明な君主を助ける役目をもつ者だ。簡単にわしの一人の弟子として扱うわけではないのだよ」


石磯娘々は笑い飛ばした。

「道兄は何を言うか!教主の名を持ち出して、私を脅すつもりか。弟子の悪さを放任して、我が弟子を殺させた上に、大きな口を叩いて脅すとは。私の道術が道兄におよばないというつもりか!」


太乙真人は語る。

「石磯よ。お前は自分の道徳が高いというが、そちらは截教せっきょう、こちらは闡教せんきょう

我らは千五百年来、人を殺してないことにより、殺人の戒を犯す。


そこで、このように人を人界に生まれさせ、いくらか討伐や殺戮を行うことで、この劫数ごうすうを終わらせようとしているのだ。いままさに商が滅び周が興り、玉虚宮が神仙を封じ、人界の富貴を受けさせるときがきた。そのときこそ、三家教派はともに『封神榜(ほうしんぼう)』に署名したのだ。師はわしに弟子を人界へやり、聖明な君主を補佐させるように命じられた。それが哪吒で姜子牙を助け商の紂王を滅ぼす役目を持っている。お前の弟子を傷つけたというが、これも天数(運命)。おまえは万物を網羅できるようなことをいうが、遅かれ早かれ昇天するのではないか。憂いとも栄辱とも関わりを持たぬことは、まさによい修行ではないか。それをどうして無謀に動き、己の誇り高いタオに泥を塗るようなことをするのだ?」


石磯娘々はこれを聞いて、がまんできなくなり叫んだ。

「各派道教には、ただ一つの道理があるのみ。上下などあるものか」

「そうは言ってもそれぞれの説法があろう」

石磯娘々はかんかんになって、宝剣を手に太乙真人を正面から叩き斬ろうとした。太乙真人はこれをよけ、洞内に入り、宝剣を手にして密かに何かを持ち、東方の崑崙山に向かって一礼した。

「弟子、今日ここで殺生戒を犯します」


こう言ってから洞外に出て、石磯娘々に指を突きつけて言った。

「修行も浅く、道行いきとどかぬ身で、我が乾元山でうぬぼれ

狂暴をはたらくつもりか!」

石磯娘々はおかまいなしになおも斬りかかる。

太乙真人はこれを受け止めて言った。


「よろしい!」

石磯娘々はもともと『頑石がんせき』から天と地の霊気を吸い、日と月の精華をくみとり数千年の修行を経てはいたが、まだ正果を得ていなかった。いままさに哪吒という大災にあい、石磯娘々のその姿ももはやこれまでという天数うんめいで乾元山に来合わせた。


石磯娘々は太乙真人と数回打ち合い、互いの剣を交わしあった。石磯娘々は己の宝貝八卦帕を空中に投げて太乙真人を傷つけようとした。太乙真人は笑って言った。

「万邪は正を犯すことはできぬ」そして口の中で「疾ッ!」と念じて指差した。

「何を待っている。早く落ちるがいい!」

すると八卦帕はぱたりと落ちた。石磯娘々はますます腹を立て、顔を真っ赤にして、宝剣をさらに凄い勢いで振りまわした。


太乙真人は「こうなれば仕方がない」と言って一飛びして遠ざかると、密かに持ち出した九竜神火罩きゅうりゅうしんかとうを取り出し、空中に投げあげた。石磯娘々ははっとして、逃れようとしたが逃れられず、その中に閉じ込められてしまった。

哪吒は師父が宝貝で石磯娘々を覆うのを見て思った。


もっと早くあれを僕にくれれば、苦労しないですんだのに


そこで洞符を出て師父のところにやって来た。振り返った太乙真人は、哪吒が来るのを見て思った。


このいたずら者め。九竜神火罩きゅうりゅうしんかとうを見て欲しくなったのだな。しかし、今はまだ早い。姜子牙から武将に任命されたあとで渡してやるとしよう


そこで太乙真人は急いで言った。

「哪吒、早く戻るがいい。四海の竜王が玉帝の許しを受け、お前の両親を捕らえに行ったぞ」これを聞いた哪吒ははっと胸を突かれ、涙を浮かべて師父に頼んだ。

「師父、父上と母上をどうかお助けください。子供がしでかしたことのために、両親が巻き添えにされるのは我慢できません」


太乙真人は同情して哪吒に耳元で策を授けた。

哪吒は大喜びして叩頭して礼をいい土遁の術を使って陳塔関へ向かった。


さて、九竜神火罩きゅうりゅうしんかとうの中に閉じ込められた石磯娘々には、すでに方向がわからなくなっていた。太乙真人は手を叩くと神火罩の中から火が起こる。火は九匹の竜のように揺れて燃え上り、まさに三昧さんまいの神火で石磯を熔かした。

しばらくしてから大きな音がし、石磯娘々の原形、頑石が現れた。

太乙真人は神火罩を収めると石磯娘々の持っていた乾坤圏と混天綾をも収め洞符に帰って行った。


一方、哪吒が陳塔関に戻ると、屋敷の前では人々が騒いでいた。家来たちは三公子が戻って来たのを見て慌てて李靖に報告した。四海の竜王敖広、敖欽、敖閏、敖順は、この家来の声に一斉に振り向いた。

哪吒は鋭く叫んだ。

「自分のまいた種は自分で刈り取る!僕が敖丙と李良を殺したんだから、その罪は僕の命で償うよ。父上や母上を巻き添えなどするものか!敖広、僕の身体は凡体ではなく霊珠子の生まれ変わりだ。玉虚宮からの命により、天命に従い人界に降りて来たんだ。いいか、今日ここで腹を割り、腸を取り出し、骨と肉を切りそいで父上と母上にお返しする。これでもう二人はこのこととは関係なくなるはずだ。それでどうだ?もしいやだって言うなら、一緒に玉帝の居城、霊霄宝殿れいしょうほうでんに行って玉帝にお目にかかるということにしよう。そうなったら、こっちにだって言い分はあるんだ」


敖広はこれを聞いてうなずいた。

「わかった。そうすればおまえは両親を救ったことになり、孝名はのちの世に残せるというものだ」

四海の竜王達は李靖夫婦を解放した。これを見た哪吒は右手に宝剣をとると、まずは左の腕を斬り落としてから自分の腹を裂き、順々に腸を取り出し、骨や肉を削ぎ落していった。そして、ついに三魂七魄は散り失せ、絶命した。

四海の竜王達は玉帝のもとへこれを報告に行った。李靖の妻、殷夫人は哪吒の亡骸を棺桶に納めて埋葬した。さて、哪吒の魂は肉体を失い、頼るところがなくなった。哪吒の魂は風に吹かれふわふわと乾元山へと飛んで行った。


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