第5話 紂王 貴賤は問わないと言ったくせに色々と美人の条件を出す
初めまして!原 海象と申します。
今回は有名な『封神演義』の編集・アレンジバージョン『封神伝』を投稿致しました。
「封神演義」は明代以前に発行された神魔小説で、今の形になったのは明代の編者 許仲琳によって現在の形になりました。また漫画やアニメとなったのは安能務先生の封神演義版によって一代ブームとなり、皆様のよく知っている形となりました。原作と安能務先生の翻訳ではかなり違いがありますが、ライト小説らしくできるだけ読みやすいようにしております。
<封神伝>
第5話 紂王 貴賤は問わないと言ったくせに色々と美人の条件を出す
紂王は費仲の話を聞いて大いに喜び、一夜が明け、次の日の朝議文武諸官の拝礼が終わるとすぐに、近習の黄門官(宦官)に言った。
「ただちに余の考えを四人の大諸侯に伝えよ。
余の為にそれぞれ百人の良家の美人を選び出せと。
富貴卑賎は問わない。容貌美しく、性格は穏やかで、賢く、礼儀正しい
おっとりした女であればよい。
選び出して後宮に納めるのだ」
その言葉が終わらないうちに、居並ぶ大臣の中から一人の人物が出て平伏した。
「老臣 商容、陛下に謹んで申し上げます。君主の品行高ければ民は生業に励み
命じられなくても自然に従うものでございます。
今、陛下の後宮には1千を下らぬ美女があり、宮女の上には后さまと妃さまがいらっしゃるというのに、理由もなく美女を選出させるなどとは、民衆の信望を失うことは必至。
いま陛下は一時の快楽におぼれて、美女に目をくらませ、淫蕩な音曲を聞き、酒におぼれ、庭園で遊び、山野で狩りをするならば、これこそ無道亡国の兆し、朝廷に列し長年お仕えした者として申しあげずにはおれません。どうか賢臣をとり立て、佞臣を退け、仁義を修め道徳をわきまえますよう。
たとえ陛下に疎まれようとも、これだけは申し上げます。なにとぞお聞きいれください」
紂王はこれを聞いて、しばらく考えてから言った。
「よくぞ、諫めてくれた。美女選出の聖旨はやめとする」
紂王はおだやかに席を立った。やはり名君である。これは単に魔がさしただけのこと、と商容は安堵の胸をなでおろした。
鎮国武成王黄飛虎が退朝する群臣の中から費仲・尤渾を呼び止める。
「今後陛下に妙なチエをつけたら、ぶった切るぞ」と佩刀を揺すった。
「忘れるなよ」商容がかたわらからダメ押しをした。
二人は一瞬、首筋が凍ったが、それでもふてぶてしく歩み去って行った。
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紂王治世の八年目の夏のことである。
東西南北の天下の四大諸侯は八百の鎮の諸侯は、北海の七十二諸侯を除いて、続々と朝歌へ返礼に参上した。天下の四大諸侯が朝歌に集ったわけだが、このとき太師聞仲は朝歌にはおらず、紂王は費仲・尤渾の二人を寵愛し、重く用いていた。
それゆえ、各諸侯は、彼らが朝政を左右し、大権を握っていることを知っていたので、まずは彼らに賄賂を贈りご機嫌を取ろうとしていた。この年の礼単(贈り物の目録)に目を通しながらも二人は機嫌が悪かった。
北海七十二諸侯の分だけ実入りが減ったのは、まあ仕方がない。
しかし冀州の蘇護の礼単は今年もなかったからである。
諸侯の中で冀州候、姓は蘇 名は護という人物は、気性の激しい剛直な人物で
自分の利益のために争ったり、人にとり入ったりということが大嫌いであり。
小さいことでも法によって処理し、手心を加えたりしないのがつねであった。
当然、費仲・尤渾に礼物などは送らなかった。
その為、費仲・尤渾は天下の諸侯から礼単を調いて、蘇護から礼単がないことに気づき
心中大いに怒り、恨みを抱いた。
「あの猪武者め!今度こそ目にもの見せてやるぞ」
と費仲・尤渾の両人は憎々しげにうなずいたのであった。