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封 神 伝  作者: 原 海象
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第49話 哪吒 竜王の鱗をむしり血祭にし、石磯娘々の弟子を射殺す

初めまして!原 海象と申します。


今回は有名な『封神演義』の編集・アレンジバージョン『封神伝』を投稿致しました。


「封神演義」は明代以前に発行された神魔小説で、今の形になったのは明代の編者 許仲琳によって現在の形になりました。また漫画やアニメとなったのは安能務先生の封神演義版によって一代ブームとなり、皆様のよく知っている形となりました。原作と安能務先生の翻訳ではかなり違いがありますが、ライト小説らしくできるだけ読みやすいようにしております。


<封神伝>


第49話 哪吒 竜王の鱗をむしり血祭にし、石磯娘々の弟子を射殺す


古来より、竜は鱗を剝がされるのを恐れ、虎は筋を抜かれるのを恐れるという。

そのことを思い出した哪吒はいきなり敖広ごうこうの朝服を半分引き裂き左の脇下から現れた鱗をガリガリと掻いた。鱗が四、五十斤も剥がされ、血は流れ、痛みは骨髄に達した。あまりの痛さに我慢できなくなった敖広はついに「助けてくれ!」と叫んだ。


哪吒はニヤリと笑い言った。

「じゃあ、助けてやるから、訴えを取りやめにするんだよ。僕と一緒に、陳塔関に来てくれれば許してやる。もし従わないというなら、この乾坤圏けんこんけんでイチコロだ。こっちには師匠の太乙真人がついているんだ。お前なんか怖くないんだからな」


敖広は哪吒の荒っぽさにどうすることもできず、ただ承知するしかなかった。

敖広は身を起こして、哪吒と共に行こうとした。

それを哪吒はさえぎって言った。

「そういえば、竜というのは化けるのがうまく、大きく化ければ天にそびえ立ち、小さく化ければ草や葉の中にも身を隠せるそうだね。逃げられでもしたら探すのが面倒だ。小さな蛇に姿を変えなよ。その状態で陳塔関まで連れていくからな」


敖広は仕方がなく一匹の小さな蛇に姿を変えた。哪吒はそれを懐にしまい、宝徳門を離れて陳塔関へ戻り、李靖の屋敷に帰ってきた。哪吒の姿を見た李靖の家来は三太子がお戻りになられましたと李靖に告げた。

これを聞いて李靖はまた気が重くなった。

哪吒は入って来て李靖に挨拶をしたところ、父が眉をひそめているので、進み出てまずは謝った。

李靖は言った。「お前はどこへ行っていたのだ?」

「南天門へ行って、敖広伯父上に訴えを取りやめるようにお願い致しました」


李靖は大喝した。

「嘘つき者め!お前はいったい何様だ!大胆にも玉帝のお住まいに行ってきただと?でたらめを言うじゃない。父と母を騙すつもりか!まったく腹の立つやつだ!」

「父上、そんなに怒らないでください。本当ですから。今ここで敖広伯父上に証言してもらいますから」

「何を言っている。長兄はどこにいると言うのだ」

「ほら、ここです」

哪吒は答えて、懐から青い蛇を取り出した。地面に蛇を投げると、蛇は青い風とともにみるみる人間の形になった。

李靖は驚いた。

「長兄どうしてそのように!」

敖広は怒り散らしながら哪吒に南天門で殴りつけられた次第をひととおり話し、左脇下から剥ぎ取れた鱗を李靖に見せた。

「よくもこんな悪党を生んでくれたものだな。李靖。わしは四海の竜王を玉帝のいらっしゃる霊霄殿 (れいしょうでん)に集め、必ずや玉帝に訴えてやる!覚悟しておれ!」

こう言って、敖広は一陣の風と化け去って行った。これを見た李靖は地団駄を踏んだ。

「ああっ、ますます厄介なことになってしまった。どうしたらいいのだ」


哪吒は跪いて言った。

「父上!ご安心ください。僕が師父に助けを求めに行ったところ、師父は僕が勝手にこの家に生まれて来たわけではない。玉虚宮の法旨に基づき、聖明な君主を補佐しに来たのだとおっしゃいました。四海の竜王を怒らせてもたいしたことではない、もし大事になれば師父が責任をもつと言っておられます」


と哪吒は相も変わらず平然としている。昨日から今朝にかけて身辺に起きたことが、本当はどういうことなのか李靖にはよく呑み込めなかった。しかし李靖も道教を学ぶ者のはしくれである。哪吒の言う話の意味はわかった。南天門で哪吒が敖広を打ちのめしたことや、哪吒が天界へ昇れることなどを思いめぐらして、事の意味するところを悟った。しかしいずれにしても厄介な子供を産み落としたものだ、とため息をついた。



母の殷氏は可愛い息子がこれ以上叱られないように気を使って哪吒を促した。

「さ、いつまでもそこに立ってないで、早く奥にお行きなさい」

哪吒は母親の言葉を聞いて、素直に裏庭に行った。しばらく座っていたが、あれこれ考えると気がふさいでしょうがない。足の向くまま裏庭を出て、陳塔関の城楼へ登りそこでしばらく涼んでいた。ふと見ると乾坤弓けんこんきゅうと言う名の弓と震天箭しんてんせんという名の二本の矢が兵器架の上にかけられていた。これを見て哪吒は考えた。


師父は、将来僕が先行官となって、紂王の天下を滅ぼすとおっしゃっていた。だったら、いまから弓術や馬術を学ばないと間に合わないじゃないかな、よし!ちょうどここに弓があるからちょっと試してみよう


哪吒はわくわくと弓を手に取り、一本の矢をつかえると西南の方角に矢を放った。矢は大きくうなりを上げ、赤い光を放ち、雲を引きながら一直性に消えていった。この弓と矢は陳塔関鎮守の宝貝であった。この宝貝は黄帝が蚩尤しゆうを破ったときから現在まで伝わるもので誰一人として持ち上げることはないという代物。そんなことを知らず哪吒は軽々と手に取って矢を放ってしまった。このとき哪吒はまたもや新たな禍を引き落とした。


さて、この矢は数百里飛び、髏山がいざんにある白骨洞飛んでいった。ここには石磯せっき娘々という仙人が住んでいる。その弟子の碧雲童子が籠を手に薬草をつみながら崖の下へ来たところ、哪吒の放った矢が飛んできた。矢は喉に当たり碧雲童子はその場で倒れて死んでしまった。そこに弟弟子の彩雲童子がこれを見て矢を抜いて慌てて石磯娘々に報告した。

「大変です。師兄が喉を射抜かれて死んでいます」

石磯娘々はすぐさま白骨洞を出て崖に来て碧雲童子を見た。確かに矢に当たって死んでいる。矢を見ると。矢羽根には『鎮守陳塔関総兵李靖』と言う文字が刻まれている。これを見て石磯娘々は怒った。


「李靖め!仙人にはなれないおまえを、わたしが師父度厄真人に口添えして山を下山させ、人界での栄耀栄華を享受し、そのおかげで、今では公候の位についたというのに、恩を仇で返し、我が弟子を矢で射殺すとは何事だ!」


そして弟子の彩雲童子に留守居を命じて、李靖を捕らえ仇を討つと言って乗獣に乗って陳塔関までやって来た。石磯娘々は李靖出てこいと叫んだ。李靖は誰が来たのかわからず、慌てて出て来たが相手が石磯娘々と知って跪拝した。「弟子李靖です。娘々のお越しとは知りませんでした。お許しください」


石磯娘々は声を荒げて言った。

「悪事をしでかしておいて何を申すか!」と言うなり一幅の八卦雲光帕(はっけうんこうばつ)という宝貝を投げつけ「疾ッ!」と唱えた。そして呼び出した黄巾力士こうきんりきしに命じて李靖を捕らえて白骨洞まで運んで下ろした。石磯娘々は乗獣から降り石椅子に座り、黄巾力士は李靖を石磯娘々の前に引き出しひざまずかせた。石磯娘々李靖に言う。

「李靖、その方が仙人になれず、いま下界で富貴を享受しているのは誰のおかげだと思っているのだ。それを恩を返すどころか、悪心を起こして、わたしの弟子を射殺しおって、まだ言い訳をする気か!」


李靖にはいったいなんのことかわからないでいた。

「娘々。このわたしがなんの罪を犯したとおっしゃるのですか?」

「恩を仇で返し、わたしの弟子を矢で射殺しておいて、何をとぼけているのだ」


李靖は顔を青くしてその矢はどこにと言った。

石磯娘々は彩雲童子に矢を持って来させ李靖に矢を見せた。李靖は矢をみると、それはまぎれもなく震天箭であった。李靖は驚き石磯娘々に言った。

乾坤弓けんこんきゅう震天箭しんてんせんは昔黄帝が残されたもの。今でも陳塔関の鎮守の宝物となっており、また誰一人としてこれを持ち上げることはできないはずですが……。いまはっきりしたことはわかりませんが私を陳塔関に帰していただければ、矢を放った下手人を見つけて捕らえてきましょう。こうすれば真実は明らかになり、死んだ弟子も瞑目めいもくできましょう」

「わかった。お前はひとまず陳塔関に戻るがよい。もし下手人を探し出せないときには、お前の師父に訴えるからな。では行くがよい」


こうして李靖は震天箭しんてんせんを手に持ち、土遁の術を使って陳塔関に戻り自分の屋敷に入った。妻の殷氏は何事かわからぬうちに李靖が捕らわれて連行されていったので慌てていた。そこへ


李靖が入って来た。

「どうして連れていかれたのですか。わたくしは心配でどうしようかと思っておりました」

「妻よ、わしは二十五年間も役人をしてきたが、今日こんな悪運の巡りあわせるとは思いもしなかったぞ。城楼にこの関を鎮守する宝物があることはお前も知っているだろう。誰かがあの矢を放って石磯娘々の弟子を射殺してしまったんだ。矢の羽根にはわしの名が刻んであるので、先ほど石磯娘々に捕らえられ命で償えと迫られてな。一心願い出て、下手人を探しだすことを許してもらった。その者を捕縛して石磯娘々のもとに連れて行かんことには、わしの無実は証明できんのだ。しかし、この矢や弓は凡俗には持ち上げられないものだ。もしや。また哪吒の仕業ではあるまいな?」


殷氏は驚いた。

「まさか!竜王の敖広さまのこともまだ終わっていないと言うのに、あの子がまた事を起こすなんて……。哪吒だって、この弓と矢はとても持ち上げられないはずですわ」

しばらく考えた李靖は何かを思いつき、哪吒をここに連れてくるように侍女に命じた。

まもなく哪吒は来て挨拶し、李靖の横に立った。李靖はなにげなく言った。

「お前は、師父がうしろ盾になって聖明な君主を助けると申していたが、どうして弓術や馬術を学ばないのだ?君主を補佐するには必要なことだろうと思うが」


哪吒は答えた。

「僕もそう思います。それで城楼に登ったとき、たまたま弓と矢を見つけたので、一矢射てみました。すると赤い光がひらめいて紫の雲が出て、あっという間に見えなくなってしまいました」

李靖はこれを聞いてかっと腹を立て大喝した。

「この親不孝者め!竜王の第三公子の事もまだ終わっていないというのに、また災いを招きおって!」

余りの出来事に殷氏は黙ってしまう。哪吒においては訳が分からないと言う状態であった。

「どうしたというのです?また何か起こったんですか?」

「お前が放った矢は、石磯せっき娘々の弟子を射殺したのだ。わしは石磯娘々に捕らえられ、一心に願ってなんとか帰してもらえたのだ。それが下手人はお前だったとは!お前が自分で石磯娘々に釈明しろ!」


哪吒は笑った。

「父上、そう怒らないでください。その石磯娘々はどこに住んでいるのです?その死んだ弟子はどこにいるのです?どうして僕が射殺したなんて決めつけるんでしょうね。理由もなく他人のせいにするなんてあんまりですよ」

「石磯娘々は髏山がいざんにある白骨洞にいる。おまえが殺したのだ。自分で行くがいい」


「はい、わかりました。一緒にその白骨洞とかへ行きます。だけど、もし僕じゃないということがわかったら、……そんなところぶち壊してやる!父上、先に行ってください。僕はあとからついて行きます」


そして親子は土遁の術を使って髏山がいざんに向かった。李靖は髏山がいざんに着くと哪吒に言いつけた。

「おまえはここで待っておれ。まずわしが先に行って石磯娘々のご指示を仰ごう」


哪吒は鼻で笑った。

「ええ、待ってますよ。僕を人殺し呼ばわりしといて、どうかたをつけるつもりなんでしょうね」





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