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封 神 伝  作者: 原 海象
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第48話 哪吒 人生を楽しく生きるコツは童心を忘れねーことだよ。

初めまして!原 海象と申します。


今回は有名な『封神演義』の編集・アレンジバージョン『封神伝』を投稿致しました。


「封神演義」は明代以前に発行された神魔小説で、今の形になったのは明代の編者 許仲琳によって現在の形になりました。また漫画やアニメとなったのは安能務先生の封神演義版によって一代ブームとなり、皆様のよく知っている形となりました。原作と安能務先生の翻訳ではかなり違いがありますが、ライト小説らしくできるだけ読みやすいようにしております。


<封神伝>


第48話 哪吒 人生を楽しく生きるコツは童心を忘れねーことだよ。


その頃、水晶宮では東海竜王 敖広ごうこうが水兵の報告を受けていた。

「陳塔関の李靖の息子哪吒が第三公子さまを殺し、なんと筋まで引き抜いて去りました」

これを聞いて敖広ごうこうは顔色を変えた。

「わしの息子は雲と雨を呼び,万物を潤す正神だぞ。それをむざむざ殺されたというのか? 李靖!お前は西崑崙山で道術を学び、このわしと知らない仲ではないのに、息子に悪事をはたらかせ、わしの息子を殺すとは何たることか!その上、筋まで抜いただと!何と惨いことを!この恨みおもいしらせておくものか!」


怒った敖広はただちに息子の仇を討ってやろうと考え、書生に姿を変えて陳塔関へ向かった。李靖の屋敷まで来ると敖広は門番に告げた。

「古い友、敖広が訪ねてきたと中に伝えてくれ」

そこで、門番はこれを取り次いだ。


一方で李靖は奥の居間に座って、紂王の腐敗した政治が天下の四百諸侯の謀反を起こしたことや、自分の管轄する関周辺の民の苦しみなどを考えて一人悩んでいた。そこへ門番がやってきて古い友敖広が来たことを告げた。

「なんと、この道兄とはもう長いこと会ってはおらん。今日会えるとは幸いなことだ」

敖広は応接間に通され、腰を落とした。


李靖は敖広がひどく怒っている様子なのを見て、いったい何があったのか尋ねようとした。が、敖広が口を開くほうが早くかった。

「李賢弟、そこもとは良い子をもったものだな!」

李靖は笑って答えた。

「長兄、久しぶりに会えたというのに、なにをいきなりいいだすんですか。確かに私には三人の息子がおり長男を金吒、次男を木吒、三男を哪吒と申しまして、いずれも名山に住む道徳高き道士を師とし修行をしております。三人ともたいして優れた子とは言えませんが、行いのよくない者はいません。何か勘違いなさっているのでは?」


敖広はこれを聞いてあざ笑う。

「賢弟!それはわしの言い分だ。勘違いしているのはそこもとのほうだ。そこもとの息子が九湾河で水浴びをして、何の術を使ったのか知らぬが、わしの水晶宮をあわや揺すり倒すところだったのだ。それで巡海夜叉に見に行かせたところ、なんとそ奴は夜叉を殺しおった。更にわしの三男敖丙が様子を見に行くと、敖丙も打ち殺した上、筋までも抜き取られたのだ!

これでもまだ、しらを切ると申すつもりか!!」


李靖は内心、困惑していたが何とか愛想笑いを作って応対した。

「やはり私の息子ではありませんな。金吒は五竜山で武芸を学んでおり、木吒は九宮山にいます。また三男の哪吒はまだ七歳という幼さで、外へは出さないありさまです。そのような事をしでかす訳がありません」

「それが、その三男哪吒の仕業だというのだ」

「そのような訳が分からないことを言われましても……。長兄、まあお待ちください。哪吒をここに連れてきますから」


そう言って李靖は奥に入ると妻の殷氏が尋ねて来た。

「一体どなたがいらっしゃっているのですか?」

「古い友人の敖広殿だ。何者かに第三太子を殺されたというのだが、なんとその下手人は哪吒だと言いはるのだ。哪吒を連れて行ってよく確かめてもらおうと思ってな。で、哪吒はどこにいるのだ?」

殷氏は、哪吒は今日出かけたけど、そんなことしでかしたのかしら、と思ったが口には出さず、ただ『裏庭にいますわ』と言った。


李靖は裏庭に向かって大声で哪吒を呼ぶと、その声を耳にした哪吒は門を開けて姿を現した。李靖は哪吒に今日はなにをしていたと聞いた。

哪吒は誇らしげに答えた。

「今日は暇だったので陳塔関を出て九湾河まで遊びに行きました。それがとても暑かったので河で水浴びをしていたら夜叉が出てきて、何も怒らすうようなことをしていないのに僕のことをひどく罵って、大斧で僕を殺そうとしたんだ。だから僕は乾坤圏けんこんけんを投げて殺してやったんだ。そしたら今度は、東海竜王の第三太子敖丙とかいうのが出てきて方天画戟を持って出てきて、僕を刺し殺そうとするのです。そこで僕は混天綾こんてんりょうを使ってコイツを引きずりおろして首を踏みつけてから乾坤圏で打ってやりました。そしたら本性を現し小竜になったのです。竜の筋は貴重なものだそうですから、父上の帯の代わりにしようと思って、引き抜いて持ってきました」


李靖はこれを聞いて、驚きのあまりしばらく口もきけないありさま。やっとのことで声を出した。「この愚か者め!なんてことをしでかしたんだ!早く伯父上に会いに行って、自分で説明しろ!」


こうして哪吒は応接間に行き、敖広に一礼をして言った。

「伯父上、わたくし事もわきまえず申し訳ないことをしました。お許しください。ほら、この筋はもとのままここにありますから」

敖広は息子の筋を見てひどく悲しみ、李靖に言った。

「こんな悪ガキを生んでおいて、わしの勘違いとはよく言ったものだ。すべてをこやつが認めたというのに、そのまま放っておくつもりか!わしの息子は玉帝が封じた正神、かの巡海夜叉も玉帝自ら任命した水の役人だ。そちら親子に勝手に殺されるような身分ではないのだぞ!わしは明日、玉帝に申しでてお前の師父を問いただした上で、そちの身柄をもらいに行くぞ!」

敖広はそう言い捨てると、その場を去って行った。


殷氏はこの声を耳にして、急いで侍女に何事か確かめに行かせた。

そして戻って来た侍女たちは言った。

「今日 三太子さまが外に遊びにいかれた折に、竜王の第三太子を打ち殺したのだそうです。それで竜王さまが旦那さまと言い争われて、竜王さまが明日、玉帝に訴えると申されたようです」


殷氏が李靖のもとへ行くと、李靖は恨みがましく言った。

「この李靖は仙人になろうと思ってなれなかった。が、そればかりでなく、なんとこのような子をもうけ、一族を滅ぼす災いを招いてしまうとは!雨を呼ぶ正神である竜を、こやつはあっさり殺してしまいおった。もし明日、玉帝が敖広殿の上奏文をおとり上げになればわしも、お前も長くて三日少なくとも二日のうちに斬首されるだろう」


李靖はこう言うなり慟哭する。殷氏も涙を流して、哪吒を指差して言った。

「おまえを三年六ヵ月も孕んだことで、わたくしはどんなに苦しんだことか。そんな思いをして生んだお前が一族を滅ぼす禍根だったなんて……」


哪吒は両親が泣きだしたので、いたたまれなくなり跪いて言った。

「父上、母上、本当のことをお話しします。僕は普通の凡人ではありません。元々は乾元山金光洞の太乙真人の弟子なのです。そしてこの宝貝も全部、師父から頂いたものです。この宝貝があるかぎり敖広などなんかは相手になりませんよ。これから師父にお聞きしてみようと思います。きっといい知恵がるはずです。決して父上や母上にはご迷惑をおかけませんから」


哪吒はそう言って屋敷を出た。

そこで地面から土をひとつかみとって空に投げ「疾ッ!」と言うと、姿を消してしまった。

この道術は哪吒が元々心得ていたもので、土遁どとんと言い、道家の五遁(金・木・水・火・土)のうち、土を借りて高速で移動する術であった。


哪吒は土遁の術を使って乾元山金光洞へ来て、師の指示を仰ごうとした。

そこで、金霞きんか童子が中へ入って取り次いだ。「師兄が外でお待ちです」

これを聞いた太乙真人は哪吒に入るように言った。そして哪吒は太乙真人の前にきて跪拝をした。

真人は「何故、陳塔関におらず何をしてここへ来たのだ?」と尋ねた。


哪吒は話し始めた。

「昨日初めて九湾河で水浴びをしていたら東海竜王敖広の第三太子敖丙がひどく罵るものですから、頭に来て誤ってやつを殺してしまいました。そしたら今日、敖広が来てこれを玉帝に訴えでると言いうんです。父も母もおろおろするし、僕も不安になってきて、他に救いの手はないのでこうして山へ昇ってまいりました。師父、何も知らなかったことはお詫びしますから、どうかお助けください」


太乙真人は考えた。



確かに哪吒はもの事をよく知ららないことから、誤って敖丙を殺してしまった。しかし、これも天数(天の定めた運命)というもの。敖広は竜の中の王で雲や雨を司る身。天帝の定めた天数を知らぬわけもなかろうに。このような小事で玉帝のいる天庭を騒がすとは、道理もわきまえぬやつだ!



そして、哪吒に衣を脱いで胸を出すように言って、真人は指で哪吒の胸に道符を書いた。

「よいか、天界の宝徳門に行ったら、これこれこのようにするのだ。そして事が終わったら陳塔関に戻り、お前の父母に言うのだ。もし事が起こったとしてもこの師父がおる。決してあなた方を巻き添えにはしないとな」と細かく言い聞かせる。


こうして、哪吒は乾元山を離れ、その足で天界の宝徳門に来た。天宮の景色はまさに非凡で、紫雲や赤雲が碧空をおおっている。実に下界とはまったく異なっていた。

哪吒は宝徳門に来たが、早かったのか敖広の姿は見えなかった。天宮の各門もまだ開いていない。そこで哪吒は聚仙門しゅうせんもんに立って敖広を待つことにした。


しばらくすると、敖広が朝服をまとい、あわただしく南天門にやって来た。しかし、南天門はまだ閉まっていた。「早すぎたか……。黄巾力士がまだ来ていないようだ。仕方がない、ここで待とう」

このとき、哪吒は太乙真人から胸に書かれた道符、『陰身符』、だったので敖広には哪吒の姿が見えなかった。哪吒は敖広が待っているのを見ているうちに怒りがこみあげて来た。

つかつかと歩み寄るなり、突然手中の乾坤圏で敖広の首をがっと打った。敖広はたまらず前へ倒れた。哪吒はそのまま敖広の背を踏みつけた。


敖広は振り向いて、それが哪吒だとわかるとおおいに怒ったがなにせ倒れたところを踏みつかれているので身動きができない。仕方がなく敖広はそのまま悪態をついた。

「大胆不敵な不埒ものめ!小童の分際で、狂暴にも玉帝自ら任命した夜叉を殺し、わしの息子まで打ち殺しおって!おまえの犯した十悪の罪は許されるものではないわ。天を欺きおって、たとえ身体がばらばらにされたとしてもその罪は償えんぞ!」


哪吒はこれを聞いて一思いに乾坤圏で打ち殺してやろうかと考えた。が、太乙真人の言いつけがあるいのでそうもいかない。敖広を押さえつけたまま言った。


「ふん、わめけ、わめけ。お前みたいな老いぼれどじょうを殺したってなんということはないんだ。だいたい名乗らなければ、おまえは僕が誰か知らないだろう。よく聞け!僕は乾元山金光洞の太乙真人の弟子、霊珠子だ。玉虚宮の命によって陳塔関の李靖の子として生まれ変わっただけなんだ。成湯の王朝が滅び、周朝が興るときにあたって、姜子牙がまもなく山を下りる。僕は姜子牙の元で商の紂王を滅ぼし、周の文王を補佐する先行官なんだ。今回の事は、たまたま九湾河に水浴びに行ったら、お前の家の者から罵られてたんで、カッとなってつい殺してしまっただけのことだ。こんな小さな事を玉帝に訴えでるのか?師父はお前みたいな馬鹿は殺してもかまわんと言っていたよ」


敖広は怒り狂った。

「なんだとう、この悪餓鬼が!では殴ればよかろうが」


「ようし、そう言うなら喜んで殴ってやるよ」と哪吒が言うなり、拳骨を上上下下右左右左と雨あられと一気に十六発ばかり連打を喰らわせた。


たまらず敖広は泣き喚いた。


「まつたく、年寄りは本当に頑固で馬鹿で始末に困るね。殴ってやらなきゃ、恐れていることも知らないんだから」

と哪吒は平気な顔でうそぶいたのであった。


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