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封 神 伝  作者: 原 海象
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第47話 哪吒 爆誕!デビュー戦に東海竜王の第三太子を殺す

初めまして!原 海象と申します。


今回は有名な『封神演義』の編集・アレンジバージョン『封神伝』を投稿致しました。


「封神演義」は明代以前に発行された神魔小説で、今の形になったのは明代の編者 許仲琳によって現在の形になりました。また漫画やアニメとなったのは安能務先生の封神演義版によって一代ブームとなり、皆様のよく知っている形となりました。原作と安能務先生の翻訳ではかなり違いがありますが、ライト小説らしくできるだけ読みやすいようにしております。


<封神伝>


第47話 哪吒 爆誕!デビュー戦に東海竜王の第三太子を殺す


さて、陳塔関ちんとうかんに姓は李、名をせいという総兵官がいた。幼いときから道理を学び、真経、道教の経典、を修練し、西崑崙山の度厄真人どやくしんじんの弟子として五行道術を学んだ。しかし、仙人になかなかなれなかったことから、山を下ろされて紂王を補佐するべく派遣され、総兵の職につき人界にて富貴を受けていた。


妻の殷氏は二人の息子を産んだ。長男を金吒きんた、次男は木吒もくたという。

そして三番目の子を身ごもった。ところが、三年と六ヵ月経ても子供は生まれてこない。

李靖はつねに憂いていた。ある日、李靖は妻の腹を指して言った。

「身ごもって三年以上になるというのに、まだ生まれないとは、妖でなければ怪だ。いずれにしても、まともなものではないだろう」

殷氏も悩み答えた。

「このたびの妊娠は不吉な兆しとしか思えません。わたくしも悩んでおります」

李斯もこれを聞き。ますます気が重くなった。


その日の夜、三更のことである。殷氏が熟睡していたところ、夢の中で一人の道士が現れた。二重のまげをして長い裾の道服をまとったその男は、寝室につかつかと入ってきた。

「なんて無礼な道士でしょう。婦人の寝室に勝手に入ってくるとは何事ですか!」

と、殷氏がしかりつけたところ、道士は言った。

「ご夫人、さ、早く息子を受けとられよ!」


殷氏が答えるより早く、道士は何かを殷氏の懐に押しこんだ。そこで殷氏はハッと目覚めた。全身にびっしょり冷たい汗をかいていた。慌てて旦那の李靖を呼んだ。そして先ほどの夢の出来事の話をした。それが終わらないうちになんと陣痛が始まった。李靖は慌てて侍女にその場を任せて応接間に来て座った。


身ごもって三年と六ヵ月。今夜急に陣痛とは、これから生まれるのか。はたして、吉とでるか凶と出るか……


李靖がこう考えていると、二人の侍女があわただしくやってきた。

「旦那様、奥様が化け物をお生みになりました!」

驚いた李靖は、急いで宝剣を手に寝室に向かった。

部屋の中には肉球が一つくるくると車輪のように回っていた。驚いた李靖は、肉の球めがけて宝刀を振り下ろした。するときれいな音がして肉の球は二つに割れて、中から小さな赤ん坊が跳びだしてきた。

全身を赤く輝かせ、顔はまるで綺麗に化粧をしたかのように白く。右腕に金の腕輪をはめ、腰の回りには赤い綸子りんずをまとい、眼はキラキラと輝いていた。

これぞまさしく姜子牙の先鋒となる霊珠子の転生した姿であった。そして金腕輪は『乾坤圏けんこんけん』、赤い綸子は『混天綾こんてんりょう』と言いこれらは乾元山金光洞の宝貝であった。

李靖は肉の球を斬り割ったところ、中から小さな赤ん坊が出てきて、あたりを走り回ったので李靖や夫人は驚いた。しかし、抱き上げてみると可愛い子供である。とても化け物扱いして殺すことなどできず、夫人にも見せてやる。夫婦はその愛らしさにすっかり安心して喜んだ。


翌日、多くの部下と豪商が祝いに来た。李靖が客の対応をすませて送り出すと外に道士が来ましたと軍政官が言いに来た。李靖は元々修行者なので道士と聞いて慌てて来訪を喜んだ。

「李将軍、ご挨拶いたします」

李靖も急いで返礼し丁重に上座を勧めた。

道士は遠慮もせず上座に着いた。李靖は道士に尋ねた。

「老師はどの名山のなんという洞府からいらしたのですか?」

「わしは乾元山金光洞の太乙真人たいいつしんじんと申します。将軍に公子がお生まれになったと伺い、お祝いに参りました。公子を一目見せていただきたいのだが?」

これを聞いて李靖は侍女に赤ん坊を抱えてこさせた。子供を受け取った道士が尋ねた。

「この子はいつごろ生まれましたかな?」

「三更を過ぎた 丑時うしどきです」

「それはいかん」李靖は慌てて聞いた。「この子は無事に育たないのですか?」

「いや、そうではない。この子は丑時に生まれたというのなら、まさに一千七百の殺戒を犯したことになるのだ。ところで、この子に名前をおつけになったかな」

「いえまだです」

「では、わしが名をつけ、弟子にしようと思うのだがいかがであろう」

「この子が道長を師とあがめられるなら、言うことはありません」

「将軍には何人の公子がおられますか?」

「二人おります長男を金吒といい、五竜山雲霄洞の文殊広法天尊の弟子になっております。また次男は木吒といい、九宮山白鶴洞の普賢真人の弟子になっております。もし老師がこの子を弟子にしてくださるなら、どうぞ名をつけてやり、師匠となってください」

太乙真人たいいつしんじんはこの子は三男だから『哪吒』と名づけようと言った。

「老師は乾元山にはお連れくだされないのですか?」

「いや、その必要はない。哪吒は天分を備えて生れ落ちている。陳塔関ちんとうかんで普通に育てるがよい。時々様子を見に来る。必要な時に乾元山に来てもらう」

そして李靖は傍らの者に精進料理の用意を命じるが道士はまだ用があるのでと言って何度も断わった。李靖はやむを得ず道士を送り出した。


さて、陳塔関ちんとうかんでは事もなく平穏だったが、ある日、突然朝歌の武成王黄飛虎から知らせが来た。天下の四百の諸侯が謀反を起こし陳塔関ちんとうかんは北路の要所のため、とくに 野馬嶺やばれいの守りに力を入れるように命じられた。

李靖はさっそく守りを固めさせ、将兵を錬兵に励ませた。

それはちょうど七年目の五月のことで蒸し暑い日が続いていた。李靖は東伯候の姜文煥きょうぶんかんが乱を起こし、遊魂関で激戦を繰り広げていると聞き、一層錬兵に励んでいた。


三公子の哪吒は気候が暑い上に気分が晴れないので母殷氏のところに行った。

「母上、関外へ遊びに行ってもいいでしょうか?母上のお許しがなければ行くこともできないもの」殷氏は日頃からこの息子が可愛くて仕方がないので哪吒のおねだりを許した。

「関外に遊びに行くのなら、家来を一人連れて行きなさい。遊びすぎないように気をつけて、早く行って早く戻ってくるのですよ。でないと錬兵に出かけられた父上に見つかってしまいますからね」

こうして、哪吒は家来を一人連れ陳塔関ちんとうかんを出た。出てから一里ほど歩いたが、暑さの為すっかり汗をかいてしまった。そこで哪吒は家来に聞いた。

「前の木陰で少し涼めるかな?」

「公子、前の柳の木陰は涼しく快適です。しばらくここで涼みましょう」

哪吒はこれを聞いて大喜び。さっそく木陰に入り涼んだ。ふと見ると、前方には波が立ち、青い川の水が揺らいでいる。両岸のしだれ柳は風に揺れ、河岸の岩に水が砕けて美しい眺めをお作っていた。哪吒は立ちあがって河岸まで来ると家来に言った。

「暑くて汗がびっしょりだから、この岩の横で水浴びをすることにするよ」

「公子、お気をつけてくださいよ。旦那さまが戻られる前には屋敷に戻らなくては」

哪吒は服を脱ぐと岩の上に座って長さ七尺の混天綾を水につけ、それで身体を洗いはじめた。この河は九湾河と呼ばれ、そのすぐ向こうには、東海に流れる入り江があった。

そしてこの宝貝混天綾の神通力により、川水つけると赤く光り、揺らせば川水も揺れ、天地を動かすという代物だった。

哪吒はここで水浴びをしているため、なんと海の底では竜王の住む水晶宮がひどく揺れ動きはじめた。東海の竜王 敖広ごうこうは、このとき水晶宮内に座っていたが宮殿が揺れだしたのですぐさま家来を呼んだ。

「陸地は揺れていないのに、どうして宮殿は揺れているのだ?」

そして巡海夜叉の李良に、入り江に行って何者の仕業か見てくるように命じた。李良が九湾河に来て見ると川が赤く光っている。よく見ると子供が赤い布に水をつけ、体を洗っていた。これを見て李良は急いで水を分けて姿を現し。叫んだ。

「この子供ガキ。いったい何をもって河の水を赤く染め、水晶宮を揺るがしているのか!」

哪吒が顔を上げると、濃い藍色の顔に朱砂色の髪、大きな口と牙を持った水中の怪物が、大斧を手にして怒鳴っていた。「なんだ、畜生がいったいなんの話だ」


李良は怒った。

「わしは、東海竜王さまから派遣された巡海の夜叉だ!畜生とは何事だ!」

言うなり、水を分け岸に飛びあがると、哪吒の頭めがけて大斧を振り下ろした。哪吒は夜叉の鋭い一撃を身体をねじって交わし、右腕にはめていた乾坤圏けんこんけんを空中に放った。乾坤圏けんこんけんはまっすぐに落ちてきて夜叉の頭を打ち、夜叉は脳漿のうしょうを流して岸に倒れ、即死してしまった。

「ああっ、乾坤圏けんこんけんが汚れちゃった」と哪吒は笑って言うと、また岩の上に座り、今度は乾坤圏けんこんけんを洗いはじめた。水晶宮はこの二つの宝貝の神通力により宮殿は大揺れに揺れて倒れそうになった。

「巡海夜叉の李良もまだ戻らぬというのに、揺れが激しくなるとはどういうことだ!」と竜王が吠えると水兵がやってきて報告した。

「巡海夜叉の李良は、一人の子供に陸地で殺されてしまいました」

これを聞いて東海竜王は大いに驚き水兵に尋ねた。

「李良は、玉皇大帝から任命された者だぞ。それを一体何者が天を恐れず打ち殺したというのだ?水兵を招集して、わしが行くまで待機させておけ。一体何者か、この目で見てやる」


そこへ、東海竜王の第三太子の敖丙が来た。

「父上何をそんなのに怒っていらっしゃるのです?」

そこで敖広ごうこうは李良が打ち殺されたことを詳しく話した。敖丙は言った。

「そういうことならご安心ください。わたくしがそやつを捕らえましょう」

敖丙は水兵を率いると乗獣にまたがり、方天画戟を手に水晶宮を出た。水を分けて進むと大浪が起き、その高さは数尺に上った。岸辺で、哪吒はこれを見て大喜びした。

すると、浪の中から水獣が現れた。その背には戦袍をまとい、方天画戟を手にした勇ましい武将がまたがって、大声で言った。

「我らの巡海夜叉を殺したのは誰だ。お前は何者だ」

「僕は陳塔関ちんとうかんの総兵李靖の三男哪吒。父上はこの一帯を守る一鎮の主だ。ここで水浴びをしていたら、関係のないのにあの化け物が来てうるさく言ったんで、打ち殺してやったんだ」

敖丙はこれを聞いて激怒した。

「この悪人め!巡海夜叉の李良は玉帝が任命した海の役人だ。それを大胆にも殺しておいて、何を言うか!」

言うなり、方天画戟を突き出して哪吒を捕らえようとする。哪吒は手中に武器はない。頭を低くし、方天画戟の下を潜り抜けながら言った。

「ちょっと待ってよ。そういうお前は何者だ?それによっては、こっちにだって話があるんだ」

「わたしは、東海竜王 敖広ごうこうの三太子、敖丙だ!」

敖丙の答えを聞いて哪吒は笑った。

「なあんだ、敖広ごうこうの息子か。お前なんて僕の相手じゃないよ。僕を怒らせたら、お前の父親、どじょうの化け物だって、捕らえて皮をむいてしまうからな」

「申したな!この悪童め、無礼者が身の程をわきまえろ!」

敖丙は怒鳴って戟を突いてきた。哪吒もカッとなり長さ七尺の混天綾を空中に放りあげた。すると、なんとそれは大きな火の帯のようになって敖丙らを包み込み、地上へと引きずりおろしてしまった。哪吒はすばやくそれを捕まえて足で敖丙の首を踏みつけ、乾坤圏けんこんけんで敖丙の首を一撃した。すると敖丙は本性を現し、一匹の小竜となった。

「この小竜が敖丙の本性か。ようし、こいつの筋を引き抜いて鎧を締める竜筋にして父上に差し上げよう」

哪吒は敖丙の筋を引き抜くと、そのまま陳塔関ちんとうかんに戻って行った。ついて来た家来は驚きのあまり震えだし、足をもたつかせながらその後を追って行った。


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