第44話 姫昌 酒は飲むとも飲まるるなの見本だな…… (補足説明付き)
初めまして!原 海象と申します。
今回は有名な『封神演義』の編集・アレンジバージョン『封神伝』を投稿致しました。
「封神演義」は明代以前に発行された神魔小説で、今の形になったのは明代の編者 許仲琳によって現在の形になりました。また漫画やアニメとなったのは安能務先生の封神演義版によって一代ブームとなり、皆様のよく知っている形となりました。原作と安能務先生の翻訳ではかなり違いがありますが、ライト小説らしくできるだけ読みやすいようにしております。
<封神伝>
第44話 姫昌 酒は飲むとも飲まるるなの見本だな……
ところが、今度は右の列から楊任をはじめとする上大夫ら六人が前に出て一礼をした。
「有罪の四大諸侯のうち陛下が姫昌様の罪をお許しされたのは、亜相閣下ら七大臣が国と賢臣を思っての結果でしたが、実のところ姜桓楚様、鄂崇禹様もいずれも立派な大諸侯、姜桓楚様は任重く功高い上、これまで不徳はなく、謀反などとは全くいわれのないこと、処刑はできません。
また、鄂崇禹様は粗忽なところがありますが、まったくの実直者、偽りを申さず陛下に諫言しましたまでのこと。いささかの間違いもやましさもございません。
君主が賢明であれば臣下は正直なもの。あえて君主の過失を諫める者が忠臣であり。巧みな言葉で君主をおもねる者は奸臣と聞きます。
いま国難のこのときこそ上奏せずにはおれません。陛下どうか二人の大諸侯を惜しみ、その罪を許して自国に帰し、それぞれの国を太平に治めることをお許しください。君臣がともに喜びを分け合い、民がそれを祝福できるようになさいますなら、臣下民衆は陛下の寛大な御心と、陛下の国と万民を思う気持ちに心から感謝することでしょう」
これを聞いて紂王は怒り出した。
「乱臣が謀反を企んだのを、仲間をかばうというわけか?姜桓楚は君主殺しを企んだ。屍をばらばらにしてもその罪を償うこともできない大罪。また鄂崇禹は君主をそしった。斬首は当然のこと。それをあえて諫言するというのは、結託して君主を欺き、法紀を汚すということだ。これ以上たわごとを申すなら、かの二人の逆臣と同じ罪になるぞ!奏御官、さっさと処刑してしまえ!」
楊任たちはこの紂王の怒りに口をつぐまざるを得なかった。
こうして、王命により鄂崇禹は首を刎ねられ、その首はさらされた。
また姜桓楚は釘で手足を打ち抜かれてめった斬りにされ死体は細かく斬りきざまれた。処刑を監督していた魯雄、処刑の終了すると宮殿に戻っていた紂王に報告した。
一方で、姫昌は亜相の比干ら七大臣に礼を言って二人の死罪に涙を流した。
「姜桓楚殿は無実の罪で惨たらしく死に
鄂崇禹殿も諫言したがゆえに命を落とした。
今後、東方と南方の両地に安寧の日はもうないでしょう」
これを聞いた群臣達も、深い溜息をついて
「まずはお二人の屍を拾い、先に浅く葬っておいて、事がおさまってから大諸侯にふさわしい葬儀を致しましょう」と言った。
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その頃。姜桓楚と鄂崇禹の家臣は、その日のうちにそれぞれの息子にこのことを報告するために、早馬で故国に戻って行った
翌日、亜相の比干は昇殿した紂王に二人の大諸侯の屍を収め、姫昌に帰国を許すように上奏した。これには大諸侯を殺したという後ろめたさがあったので、紂王はそれを許した。
比干が退朝したあと、そばにいた費仲は紂王に言った。
「陛下、姫昌はうわべは忠誠に見えますが、心中は狡賢く、巧みな言葉で衆臣を惑わし、裏表のある者です。姫昌を帰国させれば、おそらく東魯の姜桓楚の息子、姜文煥と南都の鄂崇禹の息子、鄂順と結託して兵を起こし、天下を乱すでしょう。その為、姫昌を帰国させることは竜を海に戻し、虎を山に帰すも同じこと。災いが起こることは確実です」
「姫昌の赦免の詔書は既に出した。群臣もこれを知っている。いまからそれを反故にすることはできまい」
「陛下、私に一計がございます。姫昌は放免されれば、姫昌は必ず宮城に来て拝礼をしてから故国に帰参するでしょう。それに際して、文武諸官らも送別の宴を張ります。そのとき、私がまいってあの男の心底を探ってまいります。もし本当に国を思っているのであれば、放免されればよろしい。逆に偽りが明らかになれば、のちの災いをなくすため首を刎ねればよろしいのです」
「なるほど、そちの言うとおりだ」と紂王はうなずき費仲に密命を下した。
一方、朝廷を出た比干は、その足で賓館にいる姫昌を訪ねてきた。知らせを聞いて姫昌は出迎えた。比干は先ほど陛下に会い、お二人の屍の処理と貴候の帰郷のお許しが出たことをつげた。そして比干は進み出て姫昌の手を取った。
「国内にすでに法紀はない。ゆえなく大諸侯を殺すなど、不吉な兆しとか言うようがない。明日、宮城に拝礼に行かれたら、すぐに帰国なされ。遅れれば奸臣が動き出して、どう情勢が変わるかがわかりませんぞ。決してお忘れくださるな」
姫昌は一礼をして、比干殿の御言葉は、金石のごとし、お心遣い無駄には致しません、と言った。
翌日、姫昌は早々と午門に来て宮城に一礼すると、家臣を連れてその足で西門を出て、十里の長亭へ来た。そこには姫昌を慕い敬う文武諸官が集まっていた。姫昌は馬から降りると武威王黄飛虎と微子が声をかけて来た。
「今日、帰郷されるとうかがった。我らささやかながら宴席を設け、餞別にしようと思いお待ちしていた。あと、申し上げたいこともあったのでな……」
どうぞおっしゃってくださいと姫昌は言う。そこで微子は言う。
「この度の貴候に対する陛下のなさりよう、おさまりかねるところもありましょうが・先王の恩徳を念じて臣下の礼儀を忘れず、決して不穏な考えを起こされまするな。そうしていただければ、我らの万幸、万民の万幸というものです」
姫昌は叩頭して言った。「陛下のご赦免のご恩、またわたしの命を救うためご尽力してくださった各位の恩徳、忘れはしません。今後、一生陛下の徳に報いることができずとも、他の考えなど決して起こしません」こうして文武諸官は盃を挙げた。
しばらくすると、費仲・尤渾が馬に乗ってやって来た。自分たちも酒席に加わり姫昌殿の餞別としたいと言い出した。しかし、文武諸官はこの二人の顔を見て気分の良い訳ではなく。費仲らが近づくとそれぞれ席を立ちはじめた。
「これはお二人の大人。この不才のためにはるばるお見送りに来て下さったとは」と姫昌は礼を言った。
「貴候が晴れて故国に戻られると聞き、とくに餞別にまいった。ゆえあって遅れましてな。お許しいただきたい」と、費仲はしらっと言う。
姫昌は君子なので、人は真心をもって接するという性質、態度と心が全く違うなどとは思いもしない。そのためこの二人の言葉を聞いて喜んだ。
しかし、他の文武諸官はこの二人を恐れちるので、姫昌に別れを告げて早々に去ってしまい、宴席に残ったの姫昌、費仲、尤渾の三人だけになってしまった。
「大杯をもて」と費仲は家来に命じる。それに酒をたっぷり注いで姫昌に差し出した。姫昌はそれを受け取り一気に飲み干した。姫昌はもとから酒に強いたちで、そうこうするうちに幾杯も盃を重ねた。
そこで費仲は切りだした。
「貴候は、『先天の運命を占いえる』と言うことだが、本当だろうか」
姫昌は答える。
「天地の陰陽の理は、決まっている気数があるゆえ当たらぬということはありません。しかし、人がもしこれに反して事を運ぼうとしたり、意味するところに応じて従ったり、避けたりするならば、凶や害から抜け出すことはできます」
費仲は重ねて尋ねる。
「では、いまの天子の行いが錯乱しているとするなら、こののちどうなるのでしょう。我らに聞かせて頂けませんか」
姫昌はすでに酒が回っていたこともあり
この二人が来た理由など思いいたらない。
問われたことに思わず眉をしかめ、首を横に振った。
「商王朝の気数は暗く、いまの代で途絶えます。よい末路ではありません。もし今の陛下の行いが続けば、己の滅亡を早めるだけ。とても申し上げるには忍びません」
とついつい嘆じてしまった。
「では、陛下の気数はいつ終わるのでしょうか?」
「長くとも二十八年、戌牛の年の日がその日でしょう」
これを聞いた費仲・尤渾は長い溜息をついた。
そして姫昌に酒を勧め、しばらくしてまた尋ねた。
「我ら二人のことも占ってください。我らの最後はどのように出ていますか?」
姫昌は君子なので、偽りを言うことなど考えない。二人の言葉を聞いて、指を折って占うとしばらく考えてから答えた。
「これは実に不思議ですな。人の生死には決まった気数がある。中風、肺結核、腹の腫れなどの難病、あるいは五刑を受けた、または溺死、焼死、縊死を遂げたとその死に方にはいろいろあります。いずれも死ぬことには変わりありません。しかしお二人の最後は実に奇妙だ」
費仲・尤渾は笑った。
「いったいどういうことでしょうかな。どこで死ぬとおっしゃるのか?」
「その訳はわかりませんが、お二人は雪に埋もれ、氷の中で凍死されます」
費仲・尤渾の二人は突拍子もないことを聞いて思わず冷笑する。まあ、そういうことにしておきましょうと言って三人は飲み続けた。やがて費仲・尤渾はころ合いを見て話を引き出そうとした。
「貴候ご自身の末路がどうなるか、平生占われたことがありますか」
「それは占いました。私の生末はまずは良いといえます。奇怪なく大往生を遂げるでしょう」
福寿ともにあり、おうらやましいことだと言って、費仲らは言った。
「実はこれから朝廷にて大事がございまして、ここに長くいることもできません。これにて失礼つかまつります。貴候はお気をつけてご帰国ください」
そうして、二人はその場を離れた。帰り道、先を急ぎながら、二人は馬上で姫昌を罵った。
「あの老いぼれめ!死を間近にひかえているくせに、自分には良い行く末が待っていて、怪しい死に方はせず大往生などとぬかしおって。我らが凍死するだと?我らに嫌がらせを言ったに違いない。まったく憎らしい奴だ!」
口汚く罵るうちに午門に着いたので、早速馬から降り、顕慶殿の紂王に報告に向かった。
補足説明です~♪
姫昌の得意とする「指を折って占う」というのは、「掐指一算」という占い方法で
掐指は、左手の親指で人差し指、中指、薬指の第1から第3関節まで計9か所を使って吉凶などを占うことを指し、そこから転じて指を折って数えることと言います。
また、中国の『百度百科』で掲載されております (但し中国語w)




