第4話 女媧 詩文を読み激怒し、商王朝の滅亡を加速させる
初めまして!原 海象と申します。
今回は有名な『封神演義』の編集・アレンジバージョン『封神伝』を投稿致しました。
「封神演義」は明代以前に発行された神魔小説で、今の形になったのは明代の編者 許仲琳によって現在の形になりました。また漫画やアニメとなったのは安能務先生の封神演義版によって一代ブームとなり、皆様のよく知っている形となりました。原作と安能務先生の翻訳ではかなり違いがありますが、ライト小説らしくできるだけ読みやすいようにしております。
<封神伝>
第4話 女媧 詩文を読み激怒し、商王朝の滅亡を加速させる
さて、三月十五日に女媧は火雲宮にて伏羲・炎帝・軒轅の三聖に拝礼した。その後女媧宮へ戻り、乗っていた鸞鳥から降り、宮殿に座って玉女や金童から拝礼を受けていた。ふと頭を上げて壁を見ると、そこにはみだらな詩がしたためており、女媧は思わず怒りがこみ上げ罵った。
「無道の暗君紂王が!身を修め、徳を立てて、国を治め、無事に日々を過ごせばよいものを!天を恐れず、詩を作ってわたくしを汚すとはなんとも憎らしい!成湯が傑王を討伐し、天下を取ってすでに六百年余り。すでに滅びるときはきているのだ。奴には報いを受けさせなければわたしの娘々(女神)としての体面にかかわるわ!」
女媧はさっそく碧霞童子に供をさせ、鸞鳥に乗って朝歌に向かった。
朝歌では紂王の二人の息子である殷郊と殷洪が父王に拝礼していた。二人が父王に拝礼すると頭上から二本の赤い光が上にのぼり、それが鸞鳥に乗ってやってきた女媧の行く手をさえぎった。女媧は下を見ると、紂王はどうやらまだ二十八年生きられる· 天 数(運命)になっていることがわかった。
(無謀な挙に出てはまずい)
と女媧は思い、ひとまず行宮に戻ってきた。
彩雲童子に後宮にある金の瓢箪を持ってこさせた。
それを石段の下に置き蓋を開けて指で指す。すると瓢箪の中から白い光が走り出た。
光の端には五色の旗が現れた。これは招妖幡と言われる宝貝で周辺の大小の妖怪・妖撃・妖精を招き寄せるものであった。
まもなく陰風が吹き、風がそれを吹き払うと、天下の群妖が女媧娘々の命を受ける為に集まって来た。
「軒轅墓の中の三匹の妖魔だけをお呼び。それ以外の妖魔は帰しなさい」
三匹の妖魔は行宮に来て拝礼した。
「女媧さまの聖寿無彊をお祝い申し上げます」
三匹のうち一匹は千年の狐の精。一匹は九頭の雉の精、もう一匹は玉石の琵琶の精である。三匹は石段に平伏した。
「お前たち、わたくしの密旨をよくお聞きなさい。商の天数(運命)は既につき、天下を失おうとしている。鳳凰は岐山にて鳴き、西周には聖明な君主が現れている。これも天意で気運は決まったこと。お前たち三匹は姿を変えて宮殿に入り、商の君主の心を惑わし、周の武王が紂王を討つのを待ち、その手助けをするのだ。しかし殺生はしてはならん。事がうまくいけば、お前たちも正果をえることができるであろう」
女媧がこう言いつけると、三匹の妖怪は叩頭し、陰風を起こしその場を去った。
さて、紂王は、女媧の参拝で女媧の美しさを見たあと、毎日そればかりを考え食事も進まず夜も寝られなかった。一群の臣下たちに囲まれて顕慶殿にいるときに、ある考えが浮かんだ。紂王はすぐさま中諫大夫の費仲を呼ばせた。
諫言大夫は、王の側近に侍って、王の言動に非があれば、すかさず諫言するのが務めである。しかし、費仲・尤渾の両名はひたすら王の機嫌を取るだけで、諫言をしたことが一度もない。朝臣からみて両名は鼻持ちならぬ佞臣であった。
紂王はこの費仲・尤渾の二人は紂王の寵愛し信用していた、
二人は毎日のように天子を惑わし、諫言をしてへつらった。その為、紂王は今では二人を信じるようになった。
紂王は二人の諫大夫を伴って顕慶殿に登った。顕慶殿は重臣や大諸侯に宴席を賜るところである。その為、常勤の朝臣はいない。紂王は二人の側近を呼び寄せると、胸の内を明らかにした。
「余は女媧宮に参拝して、たまたまこの世に二つとない女媧の美しい容貌を目にして、後宮には女が多いが女媧のような美貌を持ち合わせた女はいない。いったいどうしたら余のこの憂いをなくすうまい考えはないか?」
費仲はこともなげに、媚笑いを湛えて言上した。
「陛下は一国の主、領土は地平の端まであり、四海を有しています。また、陛下御自身の品行の高さは堯舜にもひけをとりません。天下のすべては陛下のものです。
明日にでも四大諸侯に命令を出し各諸侯に百人の美女を選んで宮中に送らせるのです。
そうすれば、天下のどんな美女も陛下御自身で選ぶことができましょう」
紂王は大喜びしました。
「卿の言うことはもっともだ。明日朝議に命を下そう。もう下がってよいぞ」
と言って紂王は宮殿に戻って行きました。