第38話 紂王 殷郊・殷洪を捕らえ、アンタ死刑!!
初めまして!原 海象と申します。
今回は有名な『封神演義』の編集・アレンジバージョン『封神伝』を投稿致しました。
「封神演義」は明代以前に発行された神魔小説で、今の形になったのは明代の編者 許仲琳によって現在の形になりました。また漫画やアニメとなったのは安能務先生の封神演義版によって一代ブームとなり、皆様のよく知っている形となりました。原作と安能務先生の翻訳ではかなり違いがありますが、ライト小説らしくできるだけ読みやすいようにしております。
<封神伝>
第38話 紂王 殷郊・殷洪を捕らえ、アンタ死刑!!
まもなく朝歌に着くというところで陣を置き、城内へこのことを報告した。
斥候は殿下たちを捕らえた報告を受けた武威王黄飛虎にも伝わった。
これを聞いた黄飛虎はかっとなった。
(匹夫め!己の手柄だけを考えて、成湯の跡継ぎをなくすつもりか。
この俺がおまえらが出世する前に誓って斬り刻んでやるわ!)
そして、黄飛虎は信頼できる腹心の黄明・周紀・竜環・呉謙の四将に命じた。
「俺に代わって王族の方々や文武諸官に午門に集まるよう伝えてくれ」
四人が命を受けて下がると、黄飛虎は五色神牛に乗って午門に向かった。
神牛から降りると、二人の殿下が捕らえられたと聞いた文武諸官が相次いで午門にやって来た。
まもなく、亜相の比干、微子、微子啓、微子衍、伯夷、叔斉、
そして上大夫の趙啓、楊任、孫寅など普段は顔も見せない者の姿もあった。
「殿下、大夫各位、今日お二人の殿下が救われるかどうかは、すべて丞相どのと各位の諫言で決まる
のだ。私は武臣ゆえ諫言できないが、どうか良い考えを出してくだされ」
一同が話をしていると、兵士らが人垣の輪に取り囲まれた二人の殿下が午門に来た。文武諸官は前に出て拝礼した。
殷郊、殷洪は涙を流しながら大声で訴えた。
「伯父上、叔父上、そして大臣の方々、成湯の第三十一代の子孫が哀れにもまもなく殺されます。わたしは王太子に立てられたから、誤りを犯したことはありません。また、もし仮に罪を犯したとしても王太子を廃されるだけで、殺されることはなかったはずです」
そこで微子啓が言った。
「殿下、ご安心ください。多くの者が殿下を救うために諫言致しますのでご心配なさりますな」
その頃、殷、雷将軍は寿仙宮に来てこのことを紂王に報告していた。紂王は言う。
「あの二人の親不孝者を捕らえたとあれば、これ以上会うこともあるまい。
さっさと午門で首を刎ね、屍を葬ったらまた報告にこい」
これに殷破敗は答えた。
「お言葉ですが、殿下を処刑するためには、あらためてその旨を命じる聖旨を頂きませんと」
そこで紂王は、さっそく自ら『行刑(刑を執行せよ)』の二文字を手勅を渡した。命を受けた二人の将軍はその足で午門に来た。
黄飛虎は二人を見てかっとなり、午門の中央に立って二人の行く手を阻み、大声で言った。
「殷破敗!雷開! 貴様らは王太子を捕らえて手柄を立て、殿下を殺して位を上げるつもりか!
お偉くなったらさぞかし身の危険が増え、命が危なくなることだろう!」
これに対して二人が口を開こうとしたところ、一人の臣下がつかつかと歩み寄ったかと思うと、殷破敗の手中から聖旨を奪い取るなり破り捨ててしまった。それは上大夫の趙啓であった。趙啓は怒鳴るように言った。
「暗君が愚昧無道な上に、奸臣までもがそれに災いを加えておる!聖旨を盾に太子を殺すというのか?いま三綱五常は破られ、君臣の礼、父子の礼はなくなった。殿下、大臣各位、ここ午門は国の大事を話しあう場ではない。ともに大殿へ行き、銅鑼を鳴らし、陛下に来ていただいて、天子の怒りを恐れずに直諫し、国の根本を守ろうではないか!」
殷、雷の二人の武将は文武諸官が怒りだし、朝廷の礼儀ももはや形無しとなったのを見て、ただ呆然としていた。黄飛虎は配下の黄明・周紀らの四人に殿下を暗殺から守るように命じた。
八人の奉御官はすでに二人の殿下を縛りあげて、行刑を待つばかりになっていたのだが文武諸官にそれを阻まれてしまってどうしょうもない。諸官は大殿に来て銅鑼を鳴らし、天子の上朝を願い出た。寿仙宮で銅鑼の音を耳にした紂王は何事かといぶかしんでいると、奉御官が報告に来た。
「文武諸官が陛下に昇殿されるように申しております」
紂王は妲己に言った。
「きっとあの親不孝者どもの命を助けようとしているに決まっている。どうしたらいいだろうか」
妲己は答えた。「今日のうちに殿下らを斬首し、文武諸官は明日上朝するよう命を下しになることです。そうしておいて雷開らの処刑の報告を待てばよろしいではありませんか」
奉御官はこの紂王の勅令を伝えた。文武諸官はしんと聞きいった。
詔令。逆子殷郊とその悪を助けた殷洪は、人倫を滅ぼし国法を無視し、朝廷の法を守らず横暴に振る舞って、宝剣を手に内宮に入り、勝手に逆臣姜環を殺して証拠を消そうとした。また、宝剣を手に朝廷の命官を殺そうとした上、大胆にも父を刺そうとして、人倫情理に背き、人の子としての孝道を破った。いますでに捕らえたので、祖宗の家法を正すため、午門にて刑に処す。卿家各位、余の命を聞き、逆子や悪を助けてはならぬ。国の大事は、明日大殿にて商議することとする。よってこの詔書を伝える。
奉御官が詔書を読み終わった。文武諸官はどうすることもできない。その場で議論を百出し、だれも去ろうとしない。このとき行刑という詔書も午門に伝えられた。
二人の殿下が午門で斬首されるのを待っていたところ、太華山 雲霄洞の赤精子と九仙山 桃源洞の広成子の二人の大仙が空にいた。二人は崑崙山玉虚宮で道法を説く主管に参加していたのだが、千五百年ごとに神仙が殺戒を犯す件で元始天尊が講義をやめてしまったため、急に暇になった二人は山中を遊び、五岳へ行こうと雲に乗って朝歌の上空を過ぎようとしていた。そこへ、二本の赤い光が雲の行く手を阻んだ。この赤い光は二人の殿下の頭上から発したものだった。二人の大仙は雲をのけて下を見ると、午門に殺気が立ち、憂いの雲が立ち込めている。二人の大仙はこの状況をすぐに察した。
「道兄、成湯の運命はすでにこと切れ、西岐に新しい聖主が現れている。あの一群の中にいる、縛られている二人の紅気は天に昇っているが、いずれも死ぬべき者ではない。姜子牙配下の名将となる身ゆえ、慈悲を本とするわれら、救わぬという法はない。道兄とわたしで一人ずつ連れて帰り、のちの姜子牙の大業を成すのを助けて、東は五関へ進めさせればそれこそ一石二鳥というものだ」
広成子の言葉に赤精子はうなずいた。そこで広成子は黄巾力士を呼んだ。
「あの二人の殿下を私の山へ連れていき、身の回りのことをさせることとしよう」
黄巾力士は法旨を受け、神風に乗って午門に向かった。
午門ではあっという間に塵や土が舞い上がり、砂風が吹いて空が暗くなり、急に山地が割れるような轟音が響き、近衛の将兵や刑刀を持つ兵士、それに処刑の監督に当たる殷破敗までもが仰天し、慌てて袖で顔を隠して逃げ回る始末。やがて轟音が消え、風もやんだので見ると二人の殿下たちは姿を消していた。
驚いた殷破敗は慌てふためき、午門外の兵士らも騒ぎ出した。この時、黄飛虎は大殿で詔書を読み、文武諸官らと話をしていた。そこへ急に叫び声がしたので比干が外にいる者に何事かと尋ねると周紀が入って来て黄飛虎に報告をした。「たったいま、大風が吹き道全体に異様な香りがして砂風が立ち轟音が響いたかと思うと、お二人の殿下の姿がなくなりました」
これを聞いた文武諸官は、ひそかに胸をなで下ろした。天は無実の者を忘れず、大地は成湯の子孫を絶やさぬつもりなのだ、としみじみに思い、皆喜びの表情に表れた。
慌てた殷破敗は。すぐにこれを紂王に報告した。殷破敗は寿仙宮に来て紂王に言った。
「聖旨を受けて斬首の監視をするため、処刑の詔書を持っておりましたところ、急に狂風が吹き、二人の殿下を吹きさらい、跡形もなくなってしまいました。実に奇怪なことです。如何いたしましょうか?」
紂王はこれを聞いて、さすがにすぐには言葉が出なかった。
なんと奇怪なことだと思うばかりで、心は定まらなかった。




