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封 神 伝  作者: 原 海象
35/84

第35話 紂王 俺が法だ! 殷兄弟 生き残るために自らが戦争になる

初めまして!原 海象と申します。


今回は有名な『封神演義』の編集・アレンジバージョン『封神伝』を投稿致しました。


「封神演義」は明代以前に発行された神魔小説で、今の形になったのは明代の編者 許仲琳によって現在の形になりました。また漫画やアニメとなったのは安能務先生の封神演義版によって一代ブームとなり、皆様のよく知っている形となりました。原作と安能務先生の翻訳ではかなり違いがありますが、ライト小説らしくできるだけ読みやすいようにしております。


<封神伝>


第35話 紂王 俺が法だ! 殷兄弟 生き残るために自らが戦争になる


方弼ほうひつ方相ほうそうは二人の殿下を背負って一気に三十里走り

そこでようやく殿下らを降ろした。


「将軍、この恩はいつお返しできることやら」と言って殷郊は頭を下げた。


これを聞いて方弼は言った。

「なんの、我らは殿下が殺されようとするのを見てはいられず、怒りにまかせて朝歌を出てしまっただけのこと。どこへ身を寄せるか、今からとくと考えてみましょう」


こうして四人が話しているところに、武威王黄飛虎が五色神牛に乗り、追ってくるのが見えた。

方弼・方相は慌てて殿下らに言った。

「我ら二人は一時の激情にまかせて、何も考えずに行動しましたが

早くもこれはのっぴきならぬ危機。いったいどうしたものか!」


殷郊は不審げに問うた。

「わたしたち兄弟の命を救ってくださった将軍の恩にまだ報いてもいないのに、何を言うのです?」

「あれをご覧ください。黄大将軍が我らを捕らえに来たのです。このまま連れて戻されれば、きっと殺されますぞ」


殷郊が慌てて頭を上げたときには、すでに黄飛虎は間近に迫っていた。

二人の殿下は道端にひざまずいた。「黄大将軍。私たちを殺しにきたのですか?」

黄飛虎は、二人の殿下がひざまずいているのを見て慌てて神牛から飛び降り、自分もひざまずいた。


殷郊は、黄大将軍は手勢も率いずに何をしにきたのですか、と重ねて尋ねた。


黄飛虎はやむなく答えた。

「王命により、陛下から竜鳳剣をお預かりしてまいりました。

お二人が自刃されてから戻ることができます次第、私が太子様を殺そうとするのではありません。

どうかすみやかにご自害なさいますよう」


これを聞いた殷兄弟は、再びそろって黄飛虎を伏し拝んだ。

「黄伯父上は、私たち母子が無実の罪を着せられたことをはっきりとご存じのはず。

母上は惨い刑を受けて非業の死を遂げ、無念は晴れず仇もまだ討てずにいます。

このうえ、私たちまで殺されれば、我が一族は途絶えてしまいます。

黄伯父上、どうか私たち兄弟二人を憐れんで、お見逃してください」


黄飛虎もひざまずかずにはいられない。

「私も殿下が冤罪を被られたことは良く知っております。

が、これも天子の王命、どうにもなりません。

殿下をお逃がしすれば、君を欺き国を売った罪を問われるし、殿下を捕らえれば捕らえたで、殿下の冤罪を見て見ぬふりをすることになる。

私としても忍び難いことに変わりはないのです」

五人はお互いに考えを巡らしたが、よい考えは浮かばなかった。



この災厄から逃れることは無理だ!



ここには肉親の情はないと心を決めた殷郊は伯父上ではなく武成王黄飛虎に向かって言った。

「黄大将軍が天子の王命に逆らえないのであれば、聞いていただきたいことがある。なんとかご容赦いただき、活路を残していただければありがたいのだが」

「殿下、おっしゃってください」

「黄大将軍、この私の首級を朝歌にお持ち帰りください。そのかわり、弟の殷洪だけは他国に逃がして頂きたい。弟が成人し手から、援軍を率いて母上の仇を討つことができれば、この殷郊、今死んでも生き続けることができます」


弟の殷洪はこれを聞いて慌てて止めた。

「黄大将軍。それはだめです。兄上は太子、私はただの郡王の身。その上まだ幼く、太事など果たせません。それより私の首級を持ちかえって、兄上を母上の祖国である東魯か西岐へ行かせてください。そこで援軍を得て、母上と私の仇を討ってもらえるならば、死んでも心残りはありません」


殷郊はお前をそんな惨い目にあわせられるかと殷洪を抱いて大声で泣き出した。


殷兄弟は泣き止まず、どちらも自分が死ぬと言い続ける。方弼ほうひつ方相ほうそうもこの二人の痛ましさを見てもうたまらぬ!と叫ぶなりどっと涙を流した。

黄飛虎は方兄弟の忠誠心を見るにつけても耐えがたさは募るばかりで、さすがにその目に涙を浮かべていた。


「方弼、泣くな。殿下ももう悲しまれることはない。これからのことは我ら五人の胸にとどめよう。もしほかに漏れれば、私の一族は皆殺しだ。方弼、よく聞け。お前は殿下をお守りして東魯へ行き 姜恒楚きょかんそに会え。方相は南伯候の 鄂崇禹がくすううに会って、私が殿下をお逃がし、東魯へ向かわせたことを告げるのだ。そして二手の大軍を結集し、奸臣を殺して仇を討つように伝えてくれ。私はそのときになればなんとかする」


方弼は頭を掻きながら申し訳なさそうに言った。

「我ら兄弟、このようなことになるとは知らずに上朝し、お二人をお守りしてここまで来たが、実は路銀も持っておりません。これから東と南の二手に別れていくとなると、一体どうしたものか……」


黄飛虎は懐から環型の白玉、宝玦ほうけつを取り出し路銀にするように言った。


「殿下くれぐれもお気をつけていかれよ。方弼・方相、力を尽くしてお仕えするのだぞ。事が上手くいけば、大きな手柄となる。では、私はこれにて朝歌に戻りますぞ]

と言って神牛に乗って朝歌に向かった。



*******



黄飛虎が朝歌へ入城したのはもう日が暮れるころであった。文武諸官はまだ午門に集まったままであった。黄飛虎が神牛から降りると亜相の比干が様子を聞いてきた。


黄飛虎は何事もない様子で追いつくことができず、仕方がなくご報告に戻ってまいったというと群臣の幾人かはほっと安心していた。黄飛虎はそのまま急ぎ足で、紂王のもとを訪れた。親不孝者と逆臣を捕らえることができたかと紂王は尋ねた。


黄飛虎は面目ないような様子で答えた。

「陛下の王命を受け、七十里も追ったのですが、三又路に来たので通りがかりの者に尋ねたところ、いずれもそのような者は見なかったと申してました。不始末があってはまずいと思い、やむなく戻ってまいりました」


「追いつないとは、やつらもうまく逃げたものだな。

わかった。卿はひとまず戻るがいい。明日またなんとかしいよう」


黄飛虎は拝礼をして午門に戻り、群臣とともに退朝した。



******



妲己は殷郊らが捕まらなかったと聞いて紂王に言った。

「陛下、逃亡した殷郊・殷洪がもし姜恒楚きょかんそのもとへ身を寄せれば、大軍が朝歌に押し寄せることになり、大きな災いになるでしょう。

その上、聞太師は遠征中で都にいらっしゃられない。

ならばいっそう殷破敗いんはばい雷開らいかいに三千の騎兵を与えて

あの者どもを追わせることです。捕らえて連れ戻し禍根を根絶しなければ

のちの憂いもなくなるというものです」


余もそう考えていたところだ、と紂王は言いすぐに王命を下した。

王命を受けた殷・雷二将は手詔を手に兵馬を用意するため武成王府へ割符を貰いに来た。


このとき、黄飛虎は奥の間に座ってこれからの事についって考えを巡らませていた。


そこへ軍政司が申し出た。「殷将軍・雷将軍が来られました」

軍政司に通すように命じると、殷・雷将軍は拝礼した。

「大殿から戻ってきたばかりだと言うのに、一体何事か?」と黄飛虎は尋ねた。

二将は答えて

「天子の王命により我ら二将は、これより騎兵三千を率いて殿下を追い、方兄弟を捕らえて国法を正します」


これを聞いて、

この二人が追えば、殿下も方兄弟もきっと捕まってしまう。俺の苦心も水泡になってしまうと考え、そこで黄飛虎は二人に言った。


「今日はもう遅い。兵や馬をそろえにくいゆえ、明朝五更に兵を預かり、行くがよかろう」


黄飛虎は朝廷の宿老でもあり、二将は部下でもあるから、その判断に異議を言うことははばかれた為、殷・雷の二将は逆らわず、黙って戻って行った。


二将が戻って行ったのを見てから、黄飛虎は周紀に命じた。

「殷・雷将軍が割符を貰いに来た。三千の騎兵を率いて殿下を追いに行くそうだ。明日五更までに右翼の将兵から三千の老兵や体の弱い兵を選んでおいて、やつらに与えるように。わかったな」


周紀は心得てうなずいた。


翌日の五更に殷・雷の二将は割符を受け取りに来た。周紀は錬兵場から三千の騎兵を選び出し、殷・雷二人の武将に引き渡した。見れば、引き渡された騎兵はすべて年寄りや病弱者ばかりで二将は驚いて苦情を言おうと思った。だが、軍令には背くこともできない。仕方がなくこれを率いて南門を出て、一発の砲声を合図に前進した。しかしこの三千の騎兵はのろのろしていて一向に進むことができない。殷・雷将軍は焦ったが、どうしょうもない。ただ進行にまかせるしかなかった。



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