第32話 紂王 ばあさんはしつこいとか、ばあさんは用済みだとか……
初めまして!原 海象と申します。
今回は有名な『封神演義』の編集・アレンジバージョン『封神伝』を投稿致しました。
「封神演義」は明代以前に発行された神魔小説で、今の形になったのは明代の編者 許仲琳によって現在の形になりました。また漫画やアニメとなったのは安能務先生の封神演義版によって一代ブームとなり、皆様のよく知っている形となりました。原作と安能務先生の翻訳ではかなり違いがありますが、ライト小説らしくできるだけ読みやすいようにしております。
<封神伝>
第32話 紂王 ばあさんはしつこいとか、ばあさんは用済みだとか……
晁田と弟の晁雷は西宮に来て姜環を押さえつけ、ひざまずかせた。
「姜王后娘々、貴女の仇がまいりました」
と言うと黄貴妃と言う声に惨い刑を受けた姜王后は、残った一方の目を開け、姜環を罵った。
「この悪人め!誰がお前にこの私を陥れろと命じたのです!
大胆にも私が天子殺しを企てるなどと!天地の神々もお前を許さないわよ」
しかし、姜環は言った。
「姜王后娘々が天子を殺すようにお命じになったので、わたしはそれに従ったまでです。
この期におよんで逃げ口上をもうされますな。すべては本当のことなのですから」
これを聞いて黄貴妃はかっとなった姜環を怒鳴った。
「この匹夫めが!
姜王后娘々が惨い刑を受け、無実の罪で命を落とそうとしているのに何とも思わないのですか?
天地の神々の神罰が下って、必ずお前を殺すわ!」
さて、黄貴妃が西宮で尋問しているところ、東宮太子の殷郊と弟の殷洪
の二人はちょうどつれづれに碁を打って遊んでいた。
そこへ、東宮の主管の宦官 楊容がやってきた。
「殿下!大変でございます」
このとき、殷郊と殷洪は遊びに夢中で楊容の言葉を聞いても、何とも思わなかった。
そこで楊容は重ねて言った。
「殿下、碁をおやめください。
いま宮内にて大事件が起こりました。お国の存亡に関わる一大事ですぞ」
そう聞いては、殷郊は宮内に災いとは、いったい何が起こっているのかを尋ねた。
楊容は涙を浮かべて言った。
「申し上げます。お母君、姜王后娘々が、いったい誰に陥れられたものか、天子の怒りを買って
西宮で片目をえぐられ、両手を焼かれてもいまだ身の潔白をかけて刺客と対決なさっております」
殷郊はこれを聞くと一声叫んで、弟と共に東宮を西宮へと向かった。
西宮の殿内に駆け込んでみれば、母の王后が血に染まり、両手は焦げるまで焼かれて、周囲に
肉の焼かれる異臭が放っていた。
殷郊は驚くやら悲しむやら、思わずひざまずいて、母にすがって泣き出した。
「母上、いったいどうしてこのような惨い刑を受けられたのですか?
母上がたとえ大罪を犯したとしても、王后の身に簡単に刑は用いられぬはずなのに……」
王后は息子の声を聞き、残った片目を開いて叫んだ。
「息子や!私の目をえぐられ、両手を焼かれ、殺されるより酷い目にあいました。
これもそこにいる姜環が、私が陛下殺しを企んだと言ったため。
そのうえ、妲己が讒言して私を拷問するように仕向けたのです。
そなたたち、この母の冤罪をすすいで仇を討っておくれ。
それがそなたたちを産み育てた母の願いと思っておくれ」
こう言うと姜王后そのまま息をひきとってしまった。
太子殷郊は母が憤死し、近くの姜環がひざまずいているのを見て、黄貴妃に尋ねた。
「姜環とはどの者です」
「そこにひざまずいている悪人こそ、貴方たちの母君の仇です」
と、黄貴妃が姜環を指さした。
殷郊は激怒し西宮の門に掛けてあって一本の宝剣を手に取るなり、叫んだ。
「この逆賊め!自分が天子を殺そうとしておいて、国母を陥れるとは!」
と言うなり、一刀のもとに姜環を真っ二つにした。
その血はあたり一面に飛び散った。
殷郊はさらに「妲己を殺して母上の仇を討ってやる!」と叫んで、宝剣を手に西宮を
飛び出していった。
外で控えていた晁田と弟の晁雷の二人は殷郊が宝剣を手に走り
出てきて、誰かを殺すとわめいているので、一体どうなっているのかわからず、寿仙宮へと引
き返した。一方、黄貴妃は太子殷郊が姜環を殺して、宝剣を手に出ていったのをみて慌てて弟
の殷洪に、早くそなたの兄上を呼び戻しなさい。話しがあるからと言った。
殷洪はこれを聞いて急いで西宮を出て兄を追い、走りながら「兄上、黄貴妃さまが、
話があるから戻れ、と言われている」とと叫んだ。
殷郊はこれを聞いて、殷洪と共に西宮に引き返した。
「殿下、貴方は焦りすぎです。姜環を殺してしまったら、証拠をなくしたも同然。
こちらも銅の升で奴の手を焼く等の拷問をしてやれば、あの男もだれが首謀者かを白状し、陛下にご報告できたかもしれないのに。
そのうえ、貴方は宝剣を手に妲己を殺すと出て行きましたが、あの晁田と弟の晁雷が寿仙宮に戻って昏君に報告すれば、大変なことになるのです」
これを聞いた殷郊・殷洪は、ことの重要性についておおいに後悔した。




