第31話 紂王 毒喰らわば皿も喰ってテーブルも喰う!
初めまして!原 海象と申します。
今回は有名な『封神演義』の編集・アレンジバージョン『封神伝』を投稿致しました。
「封神演義」は明代以前に発行された神魔小説で、今の形になったのは明代の編者 許仲琳によって現在の形になりました。また漫画やアニメとなったのは安能務先生の封神演義版によって一代ブームとなり、皆様のよく知っている形となりました。原作と安能務先生の翻訳ではかなり違いがありますが、ライト小説らしくできるだけ読みやすいようにしております。
<封神伝>
第31話 紂王 毒喰らわば皿も喰ってテーブルも喰う!
しばらくして、振り返った紂王は妲己をとがめた。
「お前の言うことを軽々しく信じて王后の片目をえぐったが
やはり罪を認めないではないか。どうするつもりだ。
これもお前が勝手なことを申すからだ。
もし群臣から不服を申したてられたら、なんとするつもりだ」
妲己は平然として言った。
「姜王后が罪を認めねば、群臣はもちろん黙ってはいないでしょう。
父親の一国を守る東伯候も、かならず娘の仇を討とうするでしょう。
この上は、何が何でも姜王后に罪を認めさせることです。
それだけが、群臣や民を黙らせるただ一つの方法です」
紂王は言葉も無く考えこんだが、焦り悩み進退はきわまるばかりであった。
それを眺めて、妲己はさらに露骨な微々冷笑を浮かべた。
「姜王后が罪を認めさえすれば、だれも口出しはしないでしょうが、もし認めなければ一騒動起こり、なかなかおさまらないでしょう。ですから、いま
は認めないなら、ひたすら拷問にかけるのです。黄貴妃さまに御命じて、銅の升の中に炭火をいれて赤く焼いていただき、姜王后が認めなければ、その両手をこの升で焼くようになさいませ。十本の指は心の臓につながっております。耐えがたい痛みに、きっと白状いたしましょう」
「しかし、黄貴妃は、姜王后はそのようなことは全く知らぬと申している。いままたこのような惨い刑を使って尋問すれば、群臣どもは黙っていないだろう。目をえぐったということが既に誤りだと言うのに、その上また誤りを犯せというのか?」
「陛下、それはいささか料見違いでございましょう。今となっては他に手はないのです。どんなに姜王后を拷問で苦しめようが、天下の諸侯や百官たちは騒ぎたてられてはならないのではございませんか?」
紂王はこれを聞いて、これ以上罪を認めなければ王后の両手を焼けとやむをえず聖旨を出した。
これを聞いた黄貴妃は驚き慌てて西宮に戻って姜王后のところへやって来た。姜王后は哀れにも地に倒れ、襟は血に染まっていた。黄貴妃は声を放って泣き伏した。
「姜王后様、あなたは前世でなんの罪で天地を怒らせ、いまこのような惨い刑をうけなければならないのでしょうか?」
と、姜王后を抱き起して必死になだめた。
「姜王后様。どうか罪をお認めください。あの暗君は鬼のような心の持ち主です。あばずれ女の言いなりになって、貴方様を殺そうとしているのです。もしこれ以上罪を認めなければ、赤く焼いた銅の升で両手を焼かれます。そのような惨い仕打ち、わたしはとても見てはいられません」
姜王后はこれを聞き、血と涙で頬を濡らして泣いた。
「これも私が前世で犯した罪の報いでしょう。私は死をも恐れません。どうか,私に一点の曇りもないことを証言してください。そうすれば心残りなくあの世に行けます」
そのとき、奏御官が真っ赤に焼いた銅の升を手にやって来た。そして姜王后が罪を認めなければ、両手を焼けという聖旨を伝えた。
しかし、姜王后の意志は鋼のように強く、誣告の罪を決して認めない。とうとう奏御官は、有無を言わさず銅の升を姜王后の両手の上に置いた。肉はちぎれ皮は焦げ、骨まで焼かれて悪臭が漂った。この激痛に耐えきれず、姜王后はたちどころに昏倒した。
黄貴妃はこれを見て、今日は人の身、明日は我が身かと胸を刺されるような思いがし、その場で慟哭した。そして紂王にこのことを報告に行き、涙を浮かべて言った。
「むごい刑を用いて何度も尋問しましたが、やはり姜王后様はそのようなだいされたお考えはありませんでした。これはきっと、奸臣が結託して姜王后様を陥れたもの。きちんと処分しなければ、大変なことになりましょう」
と、黄貴妃は報告しながら、意見をはさんだ。紂王は軽くうなずき、妲己を睨みつけた。
「これは全部、蘇美人の言うとおりにしたまでのことだ。今となってはどうすればいいのだ」
そこへ、妲己はひざまずいた。
「陛下、ご立腹にもご心配には及びません。かの刺客 姜環がまだ生きております。
威武大将の晁田と弟の晁雷が身柄を預かっているはずですから二人に姜環を西宮に連行させよとお命じ下さい。
姜王后と対面させれば姜王后も認めぬわけにはいかなくなるでしょう」
紂王はうなずき、そして黄貴妃に言った。
「必要があれば、刺客を再勘問するがよい」
黄貴妃はその言葉の含蓄に思わず微笑む。一方で再勘問と聞いて妲己は色をなした。
しかし、黄貴妃ごときに何ができると侮って口出しを控えた。
紂王は早速、刺客姜環を姜王后と対面させるように命じた。そして黄貴妃は急いで西宮へ戻っていった。




