第30話 姜王后 妲己とタイマン、往生せいや!! (補足説明付き)
初めまして!原 海象と申します。
今回は有名な『封神演義』の編集・アレンジバージョン『封神伝』を投稿致しました。
「封神演義」は明代以前に発行された神魔小説で、今の形になったのは明代の編者 許仲琳によって現在の形になりました。また漫画やアニメとなったのは安能務先生の封神演義版によって一代ブームとなり、皆様のよく知っている形となりました。原作と安能務先生の翻訳ではかなり違いがありますが、ライト小説らしくできるだけ読みやすいようにしております。
<封神伝>
第30話 姜王后 妲己と対懣、往生せいや!!
紂王の前に出た黄貴妃は拝礼した。「姜王后は、白状したか?」
紂王の問いに黄貴妃は答えた。
「命により姜王后を尋問致しましたが、王后には一点の私心も無く、品行正しき賢婦人であることが明らかです。
あのお方は元妃として長年陛下にお仕えし、その恩寵を受け、お生みになった殿下はすでに王太子となっておられます。
つまり、陛下亡き後には、あのお方は母后となられる身。不満などあろうはずがないのに、どうして一族を亡ぼすようなだいそれたことができましょうか?
姜恒楚にしても、東魯候という職につき、外戚として他の諸侯から『千歳』とあがめられ、臣下では最も高い地位にあります。それが人をやって陛下を暗殺させるようなことをするはずがございません。
姜王后は冤罪を受けひどく心を痛めていらっしゃります。あのお方がどんなに愚かであったとしても、父が天子になったところで、その娘が王后になり、甥が王位を継ぐなどということがないことは十分にご承知のはず。
姜王后は長年王后の地位にあって、礼教に通暁したお方です。陛下、この件を詳しくお取り調べになり、他の者からの誣告を退け、王后様の冤罪をすすいでくださいませ。そして、太子様の生みの母であることを思い出し、どうか姜王后様をお許しくださいませ」
黄貴妃は姜王后の弁明を詳しく伝え、紂王はこれを聞いて考えを巡らせた。
(黄貴妃の言うことはもっともだ。確かに王后がこのようなことをするはずがない。きっと何かあるに違いない)
紂王が躊躇していると妲己が横で冷笑した。そして妲己は答えた。
「黄貴妃は姜王妃に騙されているようです。昔から何事かしでかした者は、よいことは全て己の行いとし、悪事は他人に押し付けるもの。君主殺しと王位簒奪という大事を、そうやすやすと認めるわけがありません。かの姜環なる者があの方の父の家来で、誰に指図されたか白状している以上、知らぬふりはできません。何故姜環は自分を指図した者として、ほかの誰でもない、姜王后の御名をあげたのでしょう。おそらく重い刑を用いなければ、あの方は白状しないでしょう。陛下、ことの白黒をはっきりさせて頂きたいと思います」
「なるほど蘇美人の言うことはもっともだな」と紂王は相槌を打つ。
これを聞いて黄貴妃は唇を震わせた。
「蘇妲己!」と呼び捨てで、激しくたしなめた。
「何を言うのです。姜王后は天子の元妃、天下の国母で天子と等しく貴い方です。
その上、姜王后がもし大罪を犯したとしても与えられる罰は位を下げるにとどまります。元妃を殺すという法はありません三皇五帝以来の禁制です。礼を知らぬにも程がある。口を慎みなさい!」
しかし、黄貴妃がいきり立つのを面白がるかのように妲己は相も変わらず冷笑して恐ろしいことを言った。
「法は天下のために定められたもの、天子は天に代わってそれを教えさとすのが務め。
いたずらに変えられるものではありません。
だいたい、法を犯せば位の高さや身内かどうかなどには関わりなく、罪はすべて等しいはず。
ですから陛下、もし姜王妃が頑として白状しないというならば片方の目玉をえぐりとるように命じてやればよろしいのです。
痛みを恐れ必ずや白状しましょう。これも法、度が過ぎているということはありません」
黄貴妃は目玉をえぐると聞き、貧血を起こし慌てて乗り物に乗って西宮に戻った。
そして乗り物から降りて、ひざまずいたまま泣きじゃくっている姜王后に向かい涙を流して言った。
「姜王后様、妲己はあなたの百代の仇です。天子の前でたわごとを並べ、なんと姜王后様が白状しないならば、片目をえぐれと言ったのです。姜王后様とうか私の言うとおり、嘘でもよいから白状してください。そうすれば、歴代の君主も、王后を殺害したという前例は聞いたことがありません。酷くとも王后の位から落とされ、幽閉されるだけですみましょう」
これを聞いて姜王后は涙をこぼした。
「賢妹、あなたが私の為に言ってくださるのは良くわかります。
しかし生まれてこの方、礼教に通暁した身としては、このような大それたことを認めて、父母の名を汚し、祖先に泥を塗るようなことはできません。
軽々しく認めることなどできるようなはずがありません。
この目がえぐられることはおろか、釜ゆでや一寸刻みにされたとしても、それは前世の罪で、今世に受けるべき因果というものです」
と言い終えたところで、また聖旨が届いた。
聖旨にはもし姜王后が白状しない場合にはすぐに片目をえぐれと書かれていた。黄貴妃は慌てて姜王后に嘆願した。
しかし、姜王后は死んでも犯してもいない罪など認めないと言いきる。傍らに立っていた奏御官は、何度も姜王后に白状するように迫ったが、姜王后の態度は変わらないので、ついに姜王后の一方の目をえぐり取った。鮮血が衣を染め、姜王后はその場で気を失って倒れた。黄貴妃は慌てて宮女に姜王后を助け起こされたが、姜王后は意識を失ったままであった。
黄貴妃は、姜王后がこのようなむごい目にあったのを見て涙が止まらなかった。奏御官はえぐり取った目玉を血のしたたるまま朱盆の上に乗せて、黄貴妃とともに紂王に報告に寿仙宮に向かった。そして目玉を乗せた朱盆をことさら紂王の眼前につきつけた。
「厳しく尋問しましたが、姜王后様はそのような御心は全くございません。姜王后様が、大義を失わぬために屈辱を忍んで目をえぐられてもよいと申されますので、王命に従い片目をえぐり取ってきました」
血の滴る目玉を見た紂王は、さすがに長年の夫婦の情愛を思い出し後悔を感じ、黙ってうなだれ自責に耐えた。
補足説明です~♪
対懣とは日本ではヤンキーが1対1で喧嘩をする意味ですが、そもそも古代中国における
タイマンの語源には、古代中国でお互いが相手に腹を立てることを「対懣」と言ったことからという説があります。
(民明書房「古代中国ヤンキーの礼法」)・「統合辞書オールガイド」より引用




