第3話 紂王 女媧宮を詣で、18禁の詩を書く
初めまして!原 海象と申します。
今回は有名な『封神演義』の編集・アレンジバージョン『封神伝』を投稿致しました。
「封神演義」は明代以前に発行された神魔小説で、今の形になったのは明代の編者 許仲琳によって現在の形になりました。また漫画やアニメとなったのは安能務先生の封神演義版によって一代ブームとなり、皆様のよく知っている形となりました。原作と安能務先生の翻訳ではかなり違いがありますが、ライト小説らしくできるだけ読みやすいようにしております。
第3話 紂王 女媧宮を詣で、18禁の詩を書く
翌日、紂王は天子の乗り物 輦に乗り文武百官を従えて女媧宮参拝に向かった。紂王一向はそうそうたる様子で出発し、朝歌の南門を出た。道々の民家では香が焚かれ、門口には色布で飾られ、絨毯が敷かれていた。三千の騎兵と八百の近衛兵を武成王黄飛虎が率い、文武百官がそれに続いた。女媧宮に到着すると、天子は輦を降り、大殿へ登って、香炉で香を焚いた。文武諸官も紂王に従って拝礼した。それがすむと、紂王は殿内の飾りや造りを見てまわりその美しさに目を奪われた。紂王が女媧宮の整った形の殿堂や高い楼閣を眺めていると、突然強風が吹きつけ、幕が吹きめくられ女媧の宝像が現れた。
その容姿は気品に満ち、優美で瑞気にあふれ、絶世の美人という言葉でもまだ言い足りない。まさに神仙が住むと言う宮殿の仙女か月宮の嫦娥が下界に降りて来たというもの。紂王は女媧の美しさにたちまち見とれてしまい、邪な心を持った。
余は一国の主で、国全部を擁し、三宮六院を持っている。
しかし、余の後宮に一人としてこのような美人がいるだろうか?
そう考えた紂王は紙と墨を持てと声を張り上げた。
供の者が紙と墨を持ってくると、紂王は筆にたっぷりと墨をつけ、行宮の壁に一首の詩をしたためた。
梨花の雫を帯びて嬌艶を競い 梨花帯雨争嬌艶
芍薬の霧を籠めて媚粧を騁せるが如き 芍薬籠烟騁媚妝
その妖しき嬈かしさよ。挙動能せるものなれば 伹得妖嬈能挙動
取り回り長く君王に楽しく侍らすものを 取回長楽侍君王
紂王が詩を記すと、宰相の商容が進み出でた。
「女媧さまは上古の神、朝歌の福神でございます。臣が陛下に参拝をお勧めしましたのは、女媧さまに祈って幸を求め、民が平穏に暮らし天下泰平を求める為でございます。ですがいま、陛下がこのような詩をしたため神明を汚すなどとは、敬虔さに欠け、神の怒りを招こうというもの。天子のなさるべきことではありません。陛下どうか、その詩を水で洗い落してください。もし民の目に触れれば、陛下に徳政なしなどと言われかねません」
「余は、女媧の傾国の美を詩に表し、称えたまでのこと。他意はない。もう申すな。余は一国の主だ。このまま残して、余の詩とともに女媧の美しさを民どもに教えてやれ」
こうなれば取りつく島のないことを商容は知っていた。こう言って紂王は朝歌に戻ってしまった。文武百官は誰一人として口出しする者はなく、仕方なく黙っている有様であった。しかも、この場で紂王に口のきける者などいない。
聞太師がこの場にいたらと、商容は聞太師の不在を悔しがった。聞太師に脅しさかされたら、いかな紂王といえども、壁の詩を洗い落とすことに同意せざるを得まい、商容は唇をさらに強くかみしめた。